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序章 3-6




 それからしばらくは両軍ともに動きはなく、静かな刻が過ぎていった。

 先陣を任されたエリオット伯率いるリッパ―騎士団には、まったく動く気配がない。


 どちらが先に仕掛けるか、両軍の先方はその機会を細心の注意で探り合っているのだ。

 最も効果的な瞬間は相手が動こうとした直前に、機先を制して突っ込む。

 または圧倒的な数に任せて力で押し切る。

 先陣の闘いぶりが、自軍の士気を高めるのに重要な役割を果たす。


 数的に劣っているリッパ―騎士団としては、どうしても先に仕掛けて勢いを付けたい所であった。

 しかし兵数で不利なのは分かり切っているため、どう効果的な時機を見計らって仕掛けるかが大切であった。


 常にサイレン軍の先陣を務めて来た老将エリオットには、絶対的なその時を嗅ぎ分ける自信があった。

 それまでは一切焦ることなく微動だにせぬように、配下の騎士たちには徹底させていた。

 両軍が陣形を整え真正面から向き合ったのは『紫曙の刻・昼五つ半(午前八時)』の頃であった。


 すでにそれから一(カルダン)以上経っている。【一刻=約一時間】

 時刻は天碧の刻に入っている。

  まったく動きのない状態に、先に焦りを見せたのは相手の方であった。


 どうやら数に任せて、強引に突っ込んでくる気配である。

 ざわざわと相手の陣が動き始めた、人数を厚くして圧倒的な数で相手を蹂躙する事に決めたらしい。

 そのために、陣形の変更を始めたようである。

 その一瞬の隙を、エリオットが見逃すはずはなかった。


「全軍突撃―っ! 命を惜しむな、目の前にいる敵はすべて屠ってやれ。行けや(つわもの)どもっ」

 老将エリオットの号令の下、リッパ―騎士団二千五百騎が一矢乱れず敵陣目がけて突進して行く。


 陣の先頭で馬を奔らせているのは、サイレンの猛虎ターキー将軍である。

 最精強な騎士百騎が槍の穂先のような陣形を組み、一気果敢に突進して行く。


 穂先である騎士が斃れればすぐに後方の騎士が補充される、常に尖った槍のように相手の真っ只中へ突き進む。

 リッパ―尖槍陣と呼ばれる、エリオット得意の戦法である。

 完全に意表を突かれた敵先方は、陣形を整える暇もなく慌てて迎え撃つ。


「慌てるな、数はこちらが多いのだ。力で押し返せ、落ち着いて対応すれば決して恐れることはない」

 指揮官が必死に兵たちを落ち着かせようと指示を出す。

 しかしその時にはリッパ―騎士団の槍の穂先が目の前にまで迫っていた。


「儂に続けーっ、決して停まるな。駈けて駈けて駈けまくれいっ! 目の前にいるものはすべて突き殺せ、わが尖槍陣に後退はない。命尽きるまで駆け続けよ」

 ターキー将軍が、陣の先頭を疾走しながら絶叫する。


「将軍に後れを取るな、わが騎士団は速さこそがすべてだ。疾駆せよ、疾駆せよ。われは風なり、われは槍なり、われはサイレンの先駈けなりーっ」

 騎士団副将であるオギィロス男爵が、ターキー将軍以上の大声で続く騎士たちを鼓舞する。


 黒一色の甲冑から、トールンの黒き旋風(かぜ)と呼ばれる闘将である。

 襲い掛かられた敵兵はなす術もなく、その槍の穂先に掛けられてゆく。


 先頭の精鋭騎士隊百機が開けた敵陣の穴を、続く二千四百騎が同じ速さで突き進んで行く。

 敵先方一万五千の中を一息に駆け抜けたターキーは、その勢いをかってそのまま敵本陣へと突っ込んで行く。


「ゆくぞ、このまま敵本陣を衝く。一気に総大将の首を取ってしまうぞ」

 攻撃的な陣形を組んでいた先方軍と違い、本陣は三万もの兵で鉄壁な守備陣形を取っているために、さしもの尖槍陣も容易く駆け散らすことは出来ない。



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