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序章 3-2



「では右翼を申し渡す、ウィルムヘル侯爵とクラークス義勇軍にお願いしたい」

「承知した、相手の陣立てからして敵の左翼はワルキュリア鉄血騎士団・右舷であろう、不足ない相手だ任せておけ」

「うむ、聖龍騎士団の第五大隊も右翼に回すゆえ好きに使ってくれ」

 イアンが提案する。


「そんなことをして本隊の方が手薄にならんのか」

「痩せても枯れてもサイレン軍本隊、聖龍騎士団八大隊。一つ二つ抜けてもびくともしはせん」


「第五大隊といえば、デオナルド指令の隊ですな」

 ウィルムヘルに従って参陣している、ユンガー地方の大郷士サキュルスが諸将を見回す。


 郷士とはいえ、サキュルスは地元に大きな力を持っており、貴族以上の領地も所有している。

 今回も千五百の兵を引き連れていた。


「いやあ、わたしを覚えていてくれたのですかサキュルス殿」

 イアンの後ろに控えていた八人の将軍の中でも一番若い、デオナルド・ヘム=アイガーが一歩前に出て破顔した。

 武門貴族であるアイガー家の次男である。

 長男アームフェルは、同じく聖龍騎士団第三大隊の指令を務めている。


「お久しぶりですデオナルド殿、フンボルティ戦役以来ですから八年になりますかな」

「あの時はお互い初陣で、随分と緊張していたものです。なにせ目の前で人が死ぬのを見るのは初めてでしたからね。その不甲斐ない態度に、二人して兄のアームフェルから随分と説教を喰らいました」

「あの時の兄上さまは本当に怖かった、親にも殴られたことがなかったのに、いきなり強烈な拳をもらいましたからね」

 ちらとサキュルスが、アームフェルの顔を見る。


 二人の会話は聞こえているはずなのだが、彼は表情一つ変えず知らん振りをしている。

「お互いに顔が青ざめていたのを思い出す、毎日飯も喉を通らなかった。しかしそれからのあなたの活躍は遠くユンガーから聞いていました。数々の戦で手柄を立てられ、今では聖龍騎士団の第五大隊の指令になっておられる、ご出世おめでとうございます」

「なんの、サキュルス殿こそカルゲリ山砦の山賊団狩りでの勇敢な噂は、公都トールンにまで鳴り響いてきましたぞ。この戦に勝てばあなたも正式に貴族に列せられましょう、互いに手柄を立てましょうぞ」

 まだ二十代後半の若武者たちが、久しぶりの再会を喜び合っている。


 トールンの大侠客クラークスが、ウィルムヘルの横に立ち耳元で呟く。

「ウィルムヘル卿、俺たちは戦は素人だ。陣形がどうだのって聞かされてもまったく分からねえ。いまさら覚えるわけにもいかねえし、だから自由に動かさせてもらいてえんだ。いってみりゃ遊撃隊だと思ってくれ、みなそれぞれが個人か少人数で動き敵を攪乱する。それでいいかい」


「ああ、好きにやってくれ。三千人ものなにをするか分からん輩が暴れまくれば、敵も慌てるだろう。隙が出来ればそこにわが騎士団が一気に突っ込む、存分に敵を混乱させてくれ。しかし相手は勇名を馳せるワルキュリア鉄血騎士団だ、まともに遣り合えばお前たちでは相手にならん。無茶をして命を無駄にするなよ、最後の決戦はわたしたち騎士がやる」


 右翼はウィルムヘル麾下の各騎士団六千と、聖龍騎士団第五大隊三千にクラークスの義勇軍三千を加えた総勢一万二千となった。


「わかった、せいぜい俺たちなりにやって見るからその後は任せる。そして今夜は俺たちの兄弟盃の儀式を、手下たちの前で盛大に執り行う」

「ああ、楽しみにしている」

「じゃあ戦の後にまた会おう」

 そういってクラークスは帷幕から出て行く。



 外で待っていたババルディを呼ぶと、自分たちに課せられた作戦を伝える。

「ようし、これで俺たちの闘い方は決まった。おいババルディ、暗殺が得意な奴や殺しの専門家を選りすぐって俺の所へ集めろ、特別なことを頼みてえ。命なんか惜しまねえ気合の入ったやつしか要らねえからな。後は十人づつ組を作って好きに暴れさせるんだ。だが決して無理はしないように言いつけろ、俺たちの仕事は敵を撹乱することにある。命を的にしてまで相手に当たるんじゃねえぞ、そのことは徹底しろ。まともにぶつかりゃ俺たち素人じゃ騎士相手にゃ歯が立たねえ。それにクエンティのやつはきっと首尾よくやり遂げてくれるはずだ。それまで持ち堪えりゃ俺たちの勝ちだからな」

「わかりました親分、すぐにみなに徹底させます」

 ババルディは後も見ずに走り去る。


「絶対にこの戦は敗けさせねえからな。貴族や騎士じゃねえ、この侠客クラークスがお前を勝たせてやるぞイアン──」

 クラークスの目がギラリと光った。



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