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序章 2-9



「クラークスとやら、ならず者だの下郎だのと言ったことは謝ろう、憂国の士に対して使う言葉ではなかった、わたしが悪かった容赦してくれ。しかし其の方のいまの言葉黙って見過ごせん、わたしが男として価値のないものだと言うのか。聞き捨てならんぞ、わたしとて命を懸けてここに来ておるのだ。そこのウィルムヘル殿とて同様であろう、亡きクローネ卿の国を思う意気に感じて、こうして不利な中でも踏ん張っておる。腰抜け扱いをされては黙ってはおれん」

 オズワルドがその特徴的な猛禽類のような鋭い目に強い光を浮かべて、クラークスに真正面から向かい合う。


「だったらいまさら泣き事は止しにしましょうや、総大将が居なくったってそんなのどうでもいいだろ。さっきイアンが言ったようにこれはイアンのいくさだ、彼がここで決戦をするって決めたら、あとは黙って従って戦うのみ。納得できねえんなら立ち去りゃいいだけじゃねえのかい、誰もここに残ることを強制なんかしちゃいないように思うけど、違いますか?」


「これクラークス、ちと言葉が過ぎるぞ。彼らとて一族の命運を賭けておるのだ、敗れ去ればなん百年と続いた血を絶やしてしまうかもしれんのだ。そうすれば国元の家臣たち、その家族や眷属まで路頭に迷うことになる。そんな事情くらい分からんお前じゃなかろう」

 エリオットがクラークスを窘める。


「そりゃ違うぜ御前、俺たちにだって家族はいるんだ。夫が、恋しい男が、父親が、大事な息子が死ねば残された者は悲しいし、生活に困るようにもなる。娘や妹は家族を食わせるために、身を売らなきゃならなくなるかもしれねえ。一体俺たちと貴族さま方とどこが違うってんですか、同じ人間だ違いなんかありゃしねえ。それとも御前は父親の顔さえ知らねえ俺みたいなヤクザな野郎と、代々と続く貴族さまじゃ命の重さに違いがあるって言うんですかい」


「もういいオーリン、お前の気持ちは俺が分かってる。もうなにもいうな、人それぞれ立場もあれば考えもあるんだ。次々と脱落者が出てるこんな状況の中、最後までここに居てくれただけで俺はみなに感謝してる、あとはそれぞれが身の振り方を決めればいいんだ」

 イアンが昔の名前で呼びながら、クラークスの肩を掴む。


「いや、悪いが最後まで言わせてもらう。俺たち庶民は国にも大公さまにも、それこそなんの義理も恩義もありゃしねえ。ましてやトールンを誰が支配し、宮廷を誰が牛耳ろうがそんなもん知ったこっちゃねえんだ。俺たちはお上から命ぜられればその通りに税を払い、お偉い方々が決めた掟に従いながら毎日を生きる。例えサイレンが他の国になっちまおうが、俺たちはただ毎日を生きて行くだけだ。俺がいまここに居るのはたった一つ、イアンのためだ。義兄弟を一人で死なすわけにはいかねえ、ただそれだけさ。そんな俺に従って三千人以上の馬鹿どもが命を捨てて集まってくれた、男冥利に尽きる話だ。たかがヤクザものの頭だが、これこそ侠を売る商売をしてるものに取っちゃなにより嬉しいことだ。これがあんたらが白い目で見下す、ならず者ってやつだよ。景気の良い方にほいほいと鞍替えする、どこぞの貴族さまや騎士さまよりずっとましだと思うがね。こちとらいまさら愚痴るくらいなら、端っからこんな場所へなんざ来やしねえんだ」


「クラークス、お前の気持ちはよおくわかった。わたしもお前同様にイアンのことが好きでここに残っている、一緒に死んでやろうとも思っておる。だがわたしたちは庶民ではない、責任者がいまなにをどう考え、どんな行動をとっているのかを知らねばならん。それによってこの先状況がどう流れて行くのか、そこまで見極めながら戦なり政なりを考える。国家百年の計を常に思う、そういう風に考えるように育てられてきたのだからな、それもまた仕方がなかろう。なにも泣き事を言っているのではないんだ。それにしてもお前はよい男だな、イアンにこんな義兄弟がいたとは知らなかった。もっと早くに知り合っておれば、わたしもその義兄弟とやらに加わってみたかった気がする」

 ウィルムヘルが笑った。


「なあに、いまからでも遅くはねえぜ。戦に勝って今晩にでも盃を交わそうじゃねえか、なあイアンいいだろ」

「おお、そりゃいいな。きっと空の上からルバートが見てくれてるだろう」

 イアンが二人を前にして、朝の天空を見上げた。

 秋晴れの高い空に白い雲が一片、ぷかりと浮かんでいる。

 どこかで百舌鳥の啼く声が聞こえた。


「格好の戦日和だな、見ててくれよルバート」

 そういってイアンが微笑を浮かべた。


「じゃあ、あんたらここから逃げ出したいやつは一人もいねえのかい。心を一つにして戦う仲間だと思って構わねえんだな」

 クラークスが帷幕中を見回す。


「ふざけるな誰が逃げるか、早くやりたくてうずうずしてる所だ」

 セルジオラスが、相変わらず武者震いをしながら大声を上げる。

 その勢い込んだ姿を見て、一同から笑いが起こる。


「すいませんみなさん、うちの大将と来たら一本気なもので。でもねわたしたち防衛騎士隊自慢のお方なんですよ、隊員一人残らずこの方にならどこまでもついて行くと決めております」

 副官のコンセリアスが照れながらも、誇らしそうに頭を掻いている。


 圧倒的に不利な状況ながら、みなの心はどこか晴れ晴れとしているように思われた。



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