序章 2-8
「あーあーごちゃごちゃとうるせえな、貴族さま方はよ」
「なに者だお前は──」
オルベイラ卿が睨みつける。
「なに者って改まって聞かれる程のもんじゃねえよ、ただのヤクザ者さ。まあ、いうなればイアンの義兄弟だ」
「義兄弟? ヤクザ者とは巷のならず者の集団のことだな。そんなものが何故この軍議の場にいる。さっさと立ち去れ、場違いだ下郎め」
オズワルド伯爵が蔑み、咎めだてるように舌打ちする。
「なにがならず者の集団だよ、これでも三千名を下らねえ義勇兵を率いる頭目なんだがな。あんたらの基準で言えば、庶民ながらも十分に将軍と名乗ってもおかしくはねえんじゃないのかい。それによ、俺も俺の子分どももいまさらなんだかんだと泣き事を言うやつはいねえ。みんな死ぬ覚悟でここに来てるやつらばかりだ、ああだこうだとご託を並べてるようなあんたらに、馬鹿にされる覚えはねえんだがな」
相手の態度が気に障ったのか、クラークスが剣呑そうに微笑を湛え、挑むような視線をオズワルドに絡める。
裏社会を仕切る大親分だけあって、その目にはぞっとするような迫力があった。
「くくうーっ、──」
クラークスの威圧感に、さしものカーベル城主も普段の鋭い目つきを一瞬怖気づいたように逸らせてしまう。
「どうじゃな、中々にいい眼力の持ち主であろうがオズワルド殿。貴殿はトールン出身ではないゆえにご存じなかろうが、この者は公都の裏社会を牛耳る大親分でな、一声掛けただけで死ぬかもしれんこんな場所に、三千人以上の男たちが馳せ参じる。そんじょそこいらの貴族や武人では太刀打ち出来るやつではない」
エリオット老伯が、間に入って説明する。
「へへ、久し振りでござんすねエリオットの御前。昔と変わらずにお元気そうで安心しました」
クラークスがぺこりと頭を下げる。
どうやら顔見知りであるらしい。
「お前も大層貫禄がついたではないか、初めてあった頃はたしかオーリンと名乗っていたな。糞生意気なガキで、イアン、ルバートと三人まとめて散々に懲らしめてやったものだ」
「勘弁してくださいよ御前、十五年も前の話しだ。いまじゃこうして命を預けてくれる子分どももいるんだ、少しは気を使っておくんなさいまし」
「そうじゃったな、すまんすまん。トールン一の大親分クラークスの旦那、ああーっはっはっ」
心から可笑しそうに老武人が声を立てて笑う。
「からかいっこなしですよ、エリオットさま」
クラークスが頭を掻きながら、上目遣いに老人を見上げる。
「御前みたいなお方がいらっしゃるんで言いにくいんだが、貴族なんて人種はどうにも回りくどくていけねえ。総大将がいないからどうだの、次の機会がどうだのって、まるで女の繰り言みてえなことばかり言いやがって。好いた女と乳繰り合うってえのならそんなグダグダした会話もまた愉しいが、ここは男の生き死にを賭けた戦場なんだぜ。嫌なら止めちまやいい、気に入らねえんなら黙って出ていきゃいい。俺は止め立てはしねえ、しかし俺たち無頼の徒と呼ばれるヤクザ者はよ、そういうやつを腰抜けって言って嗤うことにしてる。後はもう男としては誰にも相手にしてもらえなくなる」
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