遊園地と美人な同級生①
「早すぎたか?」
待ち合わせ30分前、朝9時20分、遊園地の駐輪場に自転車を止め、正門前まで向かう。
向かう途中、バックから一冊の本を取り出した。
(本当にこんなのが役に立つのか?)
時は遡って昨日の夜、自室で支度をしていると、突然姉がロックもせずに入ってきた。
「聞いたぞ、お前明日彼女とデートするんだって?」
「別に彼女じゃ……まぁ良いや、なんで知ってんの?」
「教えない」
当然のようにベットに座ると、一冊の本を渡してきた。
「なにこれ?」
渡された本を受け取ると、姉はこちらを指さしていた。
「いちおう読んでおけ、あと念の為明日持っていけ」
「え…なんで」
「じゃあな」
手を振りながらドアの方へ向かい、手前でこちらに体を向き直した。
「そうそう、いちおう姉から一つアドバイス」
「?」
姉は指先を天に向けるように上に上げながら語りかけてきた。
「もし向こうがオシャレしていたら、服装や化粧はなるべく褒めろ。あともし何か物欲しそうに見つめていたら、トイレ行くと見せかけて買っておけ、そうすれば相手は必ず喜ぶ」
「全然一つちゃうやん」
「以上だ」
そう言い残し、姉は部屋を出て行った。
「いやなんなんだよ……」
そして現在、本のページをパラパラめくりながら歩く。
「本当に役に立つのかな」
本をしまい前を向き、遊園地の正門を見てみると──。
「あれ?」
正門前に見覚えのある人物がいた。
「……」
俺は足を止め、そして固まってしまった。
普段ならこうはならない、だって何度も学校で見ているんだ。
話もしたし、一緒に歩いたりもした。
その時は平気だった。
それは確信して言える。
しかし、だからこそ信じたくはなかった。
俺はどうやら、今の彼女の姿に見惚れてしまっている。
こちらに気づいた彼女は、走って近寄ってくる。
「ずいぶん早く──って人のこと言えないか、おはよう」
「…おはよう」
明るく挨拶してくる彼女に対し、思わず顔を背けてしまった。
彼女……すなわち鈴鳴桜は不思議そうにこちらを見ている。
「あの、変だった?服装……」
「……」
化粧しているのか、いつもより美人度が増していた。
服装はなんだっけ、オフショルダー?のドレスかな、服に詳しくないからよくわからないが、似合ってるのだけは確かだった。
向こうはこちらの反応を待っている。
返事をしなければならない、俺は彼女の顔を見た。
「あの、やっぱり変だったかな…」
彼女は自身の髪を指で撫で、少し俯いていた。
「……」
何を言えばいいのかわからない、なんだっけ?
そう言えば昨日姉に言われたな、オシャレしてたら褒めろって、とりあえず褒めないとダメだよな、そう思って口に出そうとした。
「いや……かっ」
「……か?」
「か…か……」
あれ〜おかしいな、一言『可愛い』って言うだけなんだが、なんだろう……これ俺が言っても大丈夫なのか?
こう言うのって、好意のある人に言われるから嬉しいんだよな?
友達でもない人間に言われて嬉しいか?
てか俺らの関係って"ただのクラスメイト"だし、なんなら多くの男子から何度も言われてるよな?
可愛い、綺麗、彼女からすれば耳が痛くなるほど言われてきた言葉だろう、それを俺が言うって、本当に大丈夫なのか?
「…ごめん、似合ってないよね」
「え?」
待って、なんでそうなるんだ?
いやちょ、そんな悲しそうな顔で下向かれたら申し訳な──。
「あはは…私着替えてくるね」
そう言って、彼女はどこかに行こうとしている。
「まっ──」
彼女の手を掴み、思わず叫んだ。
「綺麗だから行かなくていい!!」
「えっ」
「……」
彼女は振り向き、こちらの顔を見つめている。
俺は更に続けて言った。
「似合ってる、だから着替えなくて良い」
「……」
(あ──言ってしまった)
よりによって可愛い通り越して綺麗って、今日の俺はおかしい、こんなに慌てることないはずなのに、いつもより違う彼女を見ていると、普段通りに出来ない、美人には姉で慣れているから、綺麗なんて絶対言わないはずだったんだけどな……。
「綺麗、そっか……私ちゃんと綺麗なんだ」
「うん」
「……えへ」
顔を見ていると、彼女は不思議と笑顔になっていた。
「どこが?」
「え?」
「どこが綺麗だと思った?」
彼女はウキウキで顔を覗き込んでいる。
どこがって言われて、少し困るけど──。
「えっと、化粧で美しくなった顔とか……服装?」
俺は正直に答えた。
さっきみたいに悲しそうな顔されたら嫌だった。
だから思ったことをありのまま伝えた。
彼女の反応はと言うと、少し喜んでいた。
「うん、ありがと」
彼女はスマホを取り出し、時間を確認した。
「そろそろ並ぼ?私君と遊園地回るの楽しみにしてたんだ」
上機嫌でこちらの腕を引っ張る。
そんな彼女が、なんだか少しだけ──。
「?」
一瞬何かを感じて、胸に手を当てた。
(気のせい、だよな?)
よくわからないまま、俺は彼女、鈴鳴桜と一緒に正門前に並んだ。