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放課後と美人な同級生

 「この後どうする?」

 「ゲーセン行こうぜ〜」

 「宿題多すぎていやー」


 放課後、各々が下校する中、昇降口の前で、彼女は一人佇んでいた。


 「……」


 空を見上げ、目を瞑ると、"あの日の言葉"を思い出す。


 『きみは、どうして綺麗になりたいの?』


 かつて、憧れの人(・・・・)から言われた言葉、彼女はその言葉を、何度も思い出していた。


 「どうして、か…」


 そう呟いた時、横から声をかけられた。


 「ごめん、遅れて」

 「……」


 目を開け、横を見ると、一人の男性、斉藤さいとう圭介けいすけがそこにいた。


 「……」


 しばらく彼を見つめる。


 「えっ、なに…」


 彼は困惑していた。

 その反応を見て、私は……。


 「お〜い?」


 彼の声を聞いて、正気に戻る。


 「あっ……」


 慌てて目を逸らし、なんとか言葉を口にする。


 「えっと、一緒に帰るんですよね…」

 「?、そう言ったよね??」


 彼は未だ困惑していた。


 「そう……でしたね」


 彼女は下を向き、そのまま歩き始めた。


 「え、おい?」


 数分後、特に会話もしないまま、二人はただ道を歩いていた。

 

 「……」

 「……」


 無言の状態が続く、気まずい空気の中、先に喋り始めたのは彼女の方だった。


 「遊園地」

 「ん?」

 「……」


 彼女の口が止まった。


 「おい?」

 「……」


 会話が止まってしまい、彼女は心の中で焦っていた。


 (私、どうやって会話してたっけ……)


 ただ彼に、『ありがとう』、『楽しみだね』、と言いたい、なのに上手く言葉が出ない、学校の先生、クラスメイト、家族など……いつもなら出る言葉も、普段なら動く口も、なぜか出てこない、上手く動かない、しばらくして、胸の奥から不安が込み上げてきた。


 (どうしよう……)


 頭の中がぐちゃぐちゃになって、上手く言葉がまとまらない、私は……私は──。


 「おい」

 「……」

 「おい前!!」

 「え」


 気がつくと、横断歩道に入ろうとしていた。

 しかも信号は……赤信号だった。


 「あっ…」


 横から走ってくる車、それを見た時、終わったと思った。

 思わず目を瞑り、受け身の体勢を取っていた。


 「……」


 しかし何も起こらず。

 目を開けた時には、横断歩道の前に立っていた。


 「危な」

 「……」


 咄嗟に彼が腕と肩を掴んでくれたおかげで、車と衝突せずに済んだ。


 「前見ないと危ないぞ?」


 後ろから彼の声が聞こえてくる。


 「…ごめん、なさい……」

 「……」


 彼は腕と肩から手を離し、隣に立った。


 「考え事?」

 「……」

 「お〜い??」

 「……」


 ただ一言、『ありがとう』と言うだけ、それだけなのに──。


 (彼に、迷惑かけた(・・・・・)


 その"事実"が、頭から離れない……。


 (お礼、お礼言わないと……)


 彼の方を見つめ、声を出そうとした瞬間だった。


 「あっ、信号変わった」


 信号機の色が、青信号になった。


 「渡ろうか」


 彼はこちらを見ながら、横断歩道に入って行った。


 「……うん」


 彼の後をついて行き、私も横断歩道を渡った。

 そこから再び、沈黙の時間が流れる。


 (お礼言いそびれた……どうしよう)

 「……」


 しばらくして、彼が口を開いた。


 「俺の姉」

 「…?」

 「俺の姉の話、して良い?」

 「えっ……うん」


 いきなりなに?と思ったけど、正直ありがたかった。

 今の私じゃあ、多分なにも話せない、彼は淡々と姉について語り始めた。


 「俺の姉さ、とにかく勝手なの、急に買い物頼んできたり人の物横取りしたり、しかも俺が買った漫画勝手に持っていって……挙句冷蔵庫に入れていた俺のプリン勝手に食うんだぞ!?本当自分勝手」

 「そ、そうなんだ……」


 一人っ子である私には、よくわからない話、彼は少し怒りながら言ってるけど、不思議とその言葉からは、怒りが感じられなかった。


 「んで厄介なのがまぁまぁ顔が良いところ、過去にとある大学で開催された美少女コンテストで優勝するくらい顔が良いの、しかも優しくて気遣い上手でお料理上手でもある。おかげで他人からは良い姉の印象しか与えられない、俺の苦労なんぞ誰も聞いてくれないから困ってる」

 「えっと、それ褒めてない?」

 「褒めてないけど?」

 「……」


 私からは褒めてるように見えるけど、彼から見れば違うみたい、仲が良いと思うけど、姉弟ってそんな物なのかも……。


 (コンテストで優勝、か……)


 なんだか、私の憧れの人(・・・・・・)みたい、あの人も……"美少女コンテスト"で優勝したんだっけ、思わずクスッと笑っていた。


 「ところでさ……俺遊園地のチケット持ってないんだけど?」


 『あっ』と思い、遊園地のことを思い出した。


 「ごめん、帰りに渡そうと思ってたの忘れてた」

 「……」

 「はい、君の分」


 慌ててポケットに入れていた遊園地のペアチケット、その一枚を彼に渡した。


 「ありがとう、んでいつ行くの?」

 「えっと、次の土曜……朝10時前には並びたいから……10分前集合で大丈夫?場所はチケットに書いてあるから」


 彼は一度チケットを確認し、再度こちらを向いた。


 「じゃあ9時50分前だね、楽しみにしてる」

 「うん、私も……あっ」


 ふと気がついた。

 自分が自然に話せるようになってることを、口元を指で触り、彼の方を見る。


 (さっきまで上手く話せなかったのに、何でだろ……)


 今なら…言える気がする。


 「あの」

 「?」

 「さっきは……ありがとう」


 下を向き、目を逸らしながらも、必死に言葉を伝えた。


 「助けてくれて……」

 「…どういたしまして」

 「……?」


 気のせいか、彼が少し笑っている気がした。

 その顔が、なんだか少し……。


 「……えっと、私こっちだから」


 別の道を指差し、体をそっちに向けた。


 「じゃあ、土曜日よろしく」

 「よろしく……って、なんで下向いてるの?」

 「……」


 今は、顔を見られたくなかった。

 だって多分、私──。


 「お〜い、なにしてんだそんなとこで」


 誰かが遠くから話しかけてきた。


 (…あれ?)


 なんでだろ、"どこかで聞いたことのある声"だと思った。

 その声を聞くと、彼は嫌そうな顔をしていた。


 「げっ」


 彼の嫌そうな態度を知ると、相手はキレた。


 「実の姉(・・・)に向かってなんだその態度は、喧嘩売ってんのか」

 (っ……もしかして、斉藤くんのお姉さん?)


 どんな人か気になり、頭を上げて顔を確認した。


 (……あっ)


 私を他所に、二人は話をしていた。


 「喧嘩売ってないけど、何しに来たの?」

 「買い物帰りに見つけただけ、てかお前が女の子連れて歩いてるなんて……もしかして彼女?」

 「んなわけないだろ。ただのクラスメイトだよ」

 「え〜つまんな」

 「なにが?」

 「あっ、私コイツの姉の斉藤──ありゃ?」


 姉が見た時、すでに彼女はそこにいなかった。


 「もう、せっかく彼女さんに挨拶しようと思ったのに」

 「いや彼女ちゃうわ」

 「それにしても……」


 姉は腕を組みながら顔を横に傾げた。


 「さっきの子、どこかで見た気がするんだけどな〜……思い出せん」

 「それは多分気のせい」

 「それはそうとお前荷物待て」

 「なんで??」


 姉の荷物を無理矢理持たされた状態で、彼は家に帰って行った。


 「はぁ……!!はぁ……!!」


 一方、彼女は必死に道を走っていた。


 (なんで、なんでなんでなんで!?)


 しばらく走ると息切れをし、壁に手を付けた。


 「はぁ…はぁ……」


 息を整えながら、その場に座り込んだ。


 (まさか、斉藤くんのお姉さんだったなんて……)


 あの顔、一瞬見ただけで気づいた。

 1日も忘れたことがない、私の──。


 (私の、憧れの人……)


 そう思い、カバンから一枚の写真を取り出した。

 その写真に写っていたのは、中学時代の鈴鳴すずなりさくらと、同時とある大学で開催された美少女コンテスト、そこでぶっちぎりの一位を勝ち取った超絶美人、斉藤さいとう華凪かなとのツーショット(・・・・・・)だった。

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