美人な姉と美人な同級生
廊下を歩けば、必ず多くの人が振り向く人物、美人がいた。
「鈴鳴さんおはよう」
「おはようございます」
「桜放課後暇?」
「ごめん今日は予定が──」
私立立花高校一年三組、鈴鳴桜、彼女を一言で表すなら"学園に現れた麗しの美人"、誰にでも笑顔で接し、陽キャ陰キャどちらからも好かれている。
なぜなら彼女の笑顔はものすごく可愛いからだ。
その笑顔を前に誰もが心を奪われ、そして恋に落ちる。
「そのため彼女に告白する男子が後を経たない、むろんこの俺斉藤圭介も彼女に恋をし、今や遠くから眺め──」
「ストップ、さっきから何だその独り言は、あと俺を巻き込むな」
「え?」
クラスの一番後ろ、窓際の席の近くで、独り言を呟いているこの男の名は、高橋一世、小学校からの友達で、俺の親友だ。
「そんなこと言って、お前も鈴鳴さんが好きなんだろ?正直になれよ〜」
「ウザ絡み止めろ、あと別に好きじゃない」
『ガラガラガラ』
高橋の手を振り払うと同時に、教室の扉が開いた。
廊下から一人の少女が教室に入ってきた。
「おはよう〜」
噂をすれば何とやら、鈴鳴桜ご本人の登場だ。
「桜様、今日も美しいなぁ〜」
「そうか?」
俺からすれば、彼女は普通の少女、その理由は──。
「世界一美しい美人な姉が、俺にはいるからだ」
「勝手に考えてること決めるな」
「なんだよ本当のことじゃん」
「……」
俺には4つ上の姉がいる。
斉藤華凪、かつてある大学で開催された美少女コンテストにて、他を圧倒してぶっちぎりの一位を勝ち取った超絶美人、それが俺の姉だ。
さっき鈴鳴桜を普通の少女と言ったが、それは俺にとって──彼女がなぜ美人と呼ばれているのか理解できないって意味だ。
「俺からすれば、どんな女性が美人なのかわからないんだよ」
ボソッとそう呟き、窓の外を眺めた。
その言葉に高橋が反応した。
「良いよなお前は、美人な姉がいてさ」
「なんだ急に」
「知ってんだぞ俺、お前のお姉さん謙虚で優しくて気配り上手だって、会社の男性陣から大人気なんだろ?」
「どこ情報だよそれ」
「……チラ」
「ん?」
何やら視線を感じ、視線のする方に目をやった。
目線の先には鈴鳴桜とその他生徒がいるが、誰もこちらを見ていなかった。
(気のせいか…)
放課後、俺のスマホに一通の通知が届いた。
『ねぇ帰りにアイス買ってきてくれない』
「……」
姉からのメッセージだ。
『自分で買え』
『あ?、お前のピーをピーして捨てるぞ』
『おい止めろ!!』
慌ててメッセージを送った。
『じゃあよろしくね〜』
「……」
スマホの電源を切り、ポケットに入れた。
「はぁ…最悪」
"弟は姉に逆らえない"、これは弟として生まれた者の宿命である。
弟として生まれたことを憎みながら、アイスを買って帰宅した。
「あっおかえり〜」
リビングに入ると、姉がソファーでくつろいでいた。
「ただい──っておい」
俺は姉の持っているそれを指差した。
「何でアイス食ってんの?」
「え、アンタが帰ってくるまで暇だから買ってきた」
「……」
「それより早く買ってきたアイス冷蔵庫に入れてよね、後で食べるから」
「……」
高橋、お前に聞きたい、これのどこが謙虚で優しくて気配り上手なんだ?
ただの我儘野郎の間違いではないか?
「お前、今失礼なこと考えなかったか?」
「…別に」
そそくさとアイスを冷蔵庫に入れ、俺は自室に戻った。
しばらくして、急に姉が部屋に入ってきた。
「やぁ我が弟よ」
「いや何のよう?」
勉強してる手を止め、姉の方に体を向けた。
「聞いたぞお前の学校、美人って噂の女子高生がいるんだって?」
「いやいるけど…なんで知ってんの?」
「教えない」
姉は容赦なく本棚にあった漫画を取って、部屋を出ようとした。
「おいなに平然と持って行こうとしてんだ」
「良いじゃん別に、私まだこれ読んだことないんだよね。てか何だこのタイトル【しこモミ金パンツ侍】て、原作者のセンス疑うは……」
本のページをパラパラ巡っている。
「マジで何しにきたの?お前」
「今お前って言ったな」
近くのベットにバシッと本を叩きつける。
「罰としてお前後でゲームに付き合ってもらうからな」
「え、俺今勉強中…」
「お前が悪い、じゃあ後でな〜」
姉はそのまま部屋を出て行った。
「……」
高橋、もう一度聞きたい、あれのどこが謙虚で優しくて気配り上手なんだ?
ただの暴君じゃないか?
結局この後ゲームに長時間付き合わされた。
俺の時間返してほしい……。
「ふぁ〜…」
次の日あくびをしながら学校に向かう。
深夜まで姉のゲームに付き合わされた結果、俺は今寝不足の状態にいる。
俺は姉を心の底から恨んだ。
「4時間しか寝てねぇ…」
そう思いながら歩いていると、後ろから気配を感じた。
「…?」
振り向いたが誰もいない、気のせいかと思い歩みを進める。
「……」
『コ……コ…』
やっぱり誰かに付けられてる気がする。
足音がわずかだが聞こえてくる。
『タッタッタッ──』
思い切って走ってみた。
『タッタッタッ──』
後ろから同じ足音が聞こえてくる。
しばらく走った後、俺は急いで曲がり角を曲がり、様子を見るためそっと少し顔を覗かせた。
(……は?)
ある人物が息を切らして下を向いていた。
俺はその"少女"に見覚えがあった。
「はぁ…はぁ……」
(鈴鳴──桜…?)
なぜ鈴鳴桜が、いやそれよりなぜ後を付けていたんだ?
「もぉ〜──いきなり走るとかマジ有り得ない」
彼女は壁にもたれかかった。
俺はしばらく隠れて様子を伺うことにした。
「はぁ…結局今日も挨拶できなかったな─……」
(いや挨拶って……え?)
挨拶するために後つけてたの?
いやそれより"今日も"ってどういうことだ。
そんなことを考えていると、鈴鳴桜の元に、一人の少女がやってきた。
「桜〜?何してんのそこで」
「あっ、美沙……」
(ん?あれは確か…)
東雲美沙、うちの学校では有名な生徒で、一年生でありながら陸上部のエースとなった超天才選手、鈴鳴桜と仲が良いのか……。
(──って、こんなことしてる場合じゃないだろ!!)
このままだと遅刻するため、俺は急いで学校へと向かった。
「あれ?そこ誰かいない?」
「え、誰もいないはずだけど……」
二人で曲がり角を覗き込んだ。
「おかしいな〜誰かいた気がしたんだけど」
「美沙の気のせいじゃない?」
「はっ、もしかして桜のストーカーとか」
「そ、それは無いと思うよ?」
彼女は思わず目を逸らした。
「なんで目逸らしてんの?」
「いや〜別に……それより早く学校行こうよ!」
「あ、逃げたな…」
学校に向かう途中、美沙に話しかけられた。
「で、最近どうなの」
「なにが?」
「決まってるじゃん、斉藤とお話しできた?」
「ちょっ…なんで斉藤くんが出てくるの」
彼女は歩きながら美沙の方を見る。
「だって好きじゃん、斉藤のこと」
「は!!??」
彼女は思わず足を止めた。
「なんで私が斉藤くんのこと好きってなるわけ!?」
「えっ、だって昨日チラチラ見てたじゃん」
「うっ…うぅ〜……」
頬を赤らめた彼女は地面に腰を下ろし、顔を両手で隠した。
そんな彼女に美沙は声をかける。
「いや〜桜にも春が来たんだな〜って正直少し感動してる、桜だけに」
「いや…全然上手くないと思うよ?」
美沙の言ってることに呆れながら、彼女は腰を上げ、歩みを進めた。
「てか私斉藤くんのこと好きじゃないから!!」
「とか言って、顔赤いよね〜」
「赤くない!!」
彼女はそう強く否定した。
(別に、好きなわけじゃない……そんなんじゃないから)
自分にそう言い聞かせ、彼女は美沙と一緒に学校へ向かうのだった。