第二十舞 隠す
あれから三日後。仕事の合間に日和と雪葵は御苑裏の森を訪れた。頂上に向かうと大きな石の上に燈威が座っている。その背中はまだ寂しそうで、でも頼もしくも見えた。
「燈威」
日和が声をかけると燈威が振り返り、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「わあ、日和に九尾。来てくれたんだ!」
「燈威元気そうで何よりだよ!」
雪葵が人間の姿になって燈威に抱きつく。彼の目の周りは少し赤い。
「まだ夜になると泣いちゃうけど、でももう泣かない。俺、もっと強くなるんだ。そしてこの森を護ってみせる。だって蛇神様は俺の中にいてくれてるんだもん」
燈威の笑顔には曇りは見えない。日和も一緒に微笑んだ。
「うん。私達も協力するからね」
「うん!ありがとう」
日和はふと雪葵を見る。
「そう言えば、雪葵は何か思い出したことない?」
雪葵の顔が曇る。そして頭を抱える。
「なんか引っかかってる気がするんだよなぁー。けど全然思い出せない!」
「死神の言うことが本当なら、雪葵は記憶を思い出さなければならないってことだもんね。本当なら、の話だけど…」
「そうだ!燈威。僕ってどんな感じだったの?」
「え?あ、あー…普通の妖だったよ」
「えぇん?」
目を泳がせる燈威に雪葵が顔を歪ませて迫る。燈威が「ひっ!」と小さく悲鳴をあげた。
「はいはい、雪葵、落ち着いて」
日和が雪葵を燈威から剥がす。暴れる雪葵に拳骨を預けて大人しくさせると、日和は怯えた燈威を見る。
「前から思ってたんだけど、八妖樹のみんなって、どうして雪葵とのことを話さないの?そうしたら雪葵の記憶が思い出されるかもしれないのに」
「そうだよ!僕の罪ってなんなの?それくらい教えてくれたって良いじゃん!」
「そ、それは………うぅ」
燈威が二人の圧に負けたのか泣き出す。二人はわたわたと慌てる。
「え、あ、ごめん。そんな責めるつもりじゃなかったんだけど…」
「僕も苛苛してたの、ごめんね?」
「うぅ〜〜〜」
「何してんのー?」
燈威が更に泣き出して二人で必死に宥めていると、上から声が聞こえる。と思うと燈威の目の前に降りてきた。
「あ…柚寧」
「うぅ〜覚〜」
「よしよ〜し。……いじめ?」
「断じて違う!」
燈威を抱きかかえながらの疑いの目を向けられ、必死に弁解する。なんとか分かってくれたところで、事情を説明する。
「あーそういうことねー。確かに俺達が話してやってもいいんだよ?」
「…上から目線」
「けど、自分で思い出す方が九尾の為だと思ってんの。罪を忘れたことも仕方がないって言えば仕方がないしね。許さないけど」
「いや、仕方なく思ってないじゃん」
「だから敢えて俺達からは何も言わないんだー」
「けど何かきっかけがないと、思い出せるものも思い出せないでしょ」
「うーん、何とかなる?」
「ならんわ!」
雪葵が柚寧に噛みつきにいったが、見事に打ち返されていた。
「はあ。それなら鬼の封じられたあの岩場に行ってみたら?何か感じるものあるでしょ」
「いってぇ。あそこはなんか嫌な感じがする。頭痛くなる」
「その先の感じを汲み取るのー。莫迦?」
「莫迦じゃない!わかったよ!やってやる!」
雪葵がヤケになっている。日和はため息をついた。
静まり返った夜。森の頂上には燈威の他に柚寧、依睦、そして雫の姿もある。
「死神がそんなことを…」
「助言してくれたのかー、はたまた挑発なのかー」
「おい!死神ってなんだ!」
「鎌鼬は黙ってて」
「分かんないよお。ただ、九尾は思い出さなきゃならないって本気で思い始めてる。俺達が何も言わないの、やっぱり不自然だよ」
燈威が心配そうに言う。柚寧が手をひらひらとさせる。
「でもー。昼間の俺の言い訳、中々それっぽかったでしょ?」
「うー、それはそうだけどー。少なくとも日和は納得してなさそうだった…」
「あいつは勘が鋭い。迂闊に嘘はつけない」
「あれ、雪男。もしかして怖がってる?琴葉とおんなじ?」
「うるさい」
「あいつには、このままでいてもらいてねーな!あいつは俺が倒す!」
「あぁ〜!鎌鼬、木を切り倒さないでよぉ!」
依睦が木に鎌を投げまくっているのを見て、燈威が嘆く。
「でもそれって狡いんじゃない?本気じゃない相手とやり合うわけでしょう?」
「ぐっ……」
図星をつかれ、依睦が固まる。しんと静まった空気に雫が呟く。
「あいつが本来の力を取り戻せば……俺達が滅ぶ」
突発的な風が吹き荒れた。




