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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
紅ノ宮編
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第九舞 結界

 医務室に辿り着くと、医官によって夏凪は早急に運ばれていった。医務室の端の椅子に座って夏凪の治療を待つ。医官たちは忙しそうでこちらの会話は聞こえていなさそうだ。日和は遠子に疑問を聞く。


「遠子さん。あの一つ目の妖は凶暴化していたんでしょうか?」

「そうね。以前に似た妖に遭遇したことはあるけれど、あんなに腕力はなかったし、避ける技術も上がっていた。頭も使えるようになっている所も考えると凶暴化というよりかは、成長しているわね。違う意味で警戒しないといけないかもしれない」

「あんなに危険な妖が御苑内や近くに現れていて、被害はないのですか?」


 遠子の顔に影が差す。


「今のところはね。けれどそれも時間の問題ね。人間に妖が視えないとはいえ、妖によって危害が加えられれば人間は傷つく。そうならないように藤ノ宮様や秋人さん、私がいる」


 日和の知らない間にずっと紫苑たちは戦っていた。妖の存在自体を知らなかったのだから仕方ないことだろう。それで済む話だろうが、それでも妖と戦うのは命懸けだ。こんなに命を賭けて御苑を守っていた人たちがいたことに気づけなかったことを悔やんでしまう。


「けれど本来は御苑を守る結界が張られていて、妖が御苑内に一切入れないようになっているの」


 遠子によると、結界は妖力を持つ石の祠によって張られているらしい。その祠は御苑内の東西南北、北東北西南東南西の合計八ヶ所にあって祠が個々で結界を張り、他の祠の結界が混じり合って御苑を取り囲む大きな結界になっている。そうすれば御苑内に妖は入れない。


 日和は凄いと感心しつつ、新たな疑問が浮かび上がる。


「ですが、御苑には妖がいました。つまり現在、結界は機能していないんですか?」

「…残念ながらそうなの。祠が崩れると結界は消えてしまう。つまり結界に穴が開いてしまうの。そうなると妖は入ってこれる。でも基本、祠は強い妖力を纏っていて普通の人には壊せないし、妖力を持つ人間でも崩すのは難しい」

「それでも祠が壊れているということは…」

「そう。祠以上の強い妖力を持つ何者かが祠を壊したか、何らかの衝撃で結界に歪みが生じて、外部から妖が入り込んで壊したか」


 なんにせよ、御苑は危険な状況に晒されているわけだ。そこまでして結界を壊す理由は不明だが、このままでは確かに妖による被害は時間の問題だ。


「祠を元に戻すことができれば結界も戻せるんでしょうか?」

「そうね。祠を戻すことができればね。これまで何度か崩された祠を修復しているの。修復だけでもかなり大変なのに、翌日にはもう崩されている。西の祠に関しては粉々に砕かれていて修復は困難なの。そこから妖が入ってきているのは確実よね…」


 石の祠の妖力は相当強い。それをより強化するのは至難の業だろう。それにそれを壊せるとなれば只者ではない。


「秋人さんと私は妖と戦ったり捕らえたりはできても祓うことはできないの。御苑内で妖を祓れるのは藤ノ宮様のみ。だからこそ雪葵ちゃんの存在が大きいんだと思うわ」


 御苑内の妖の数は知らないが、それを一人で祓っているのは正直に凄いと思う。それを手分けできるんだとしたら有難いと思うのも頷ける。態度は気に食わなかったが。


「けれど私としては無理はして欲しくないの。だって日和に危険が及ぶのは避けたいもの。だからいくら藤ノ宮様の命令でも素直に聞かなくていい所もあるわ。嫌なことは嫌って言っていいからね」


 自分のことや屋敷のことで忙しいだろうに日和も気遣ってくれる。本当に良い人だ。


「ありがとうございます。まだ自分の中で飲み込めていないこともあって。少し考えて見ようと思います」

「それがいいわ」

「すみません、手当が終わりました」


 医官に声をかけられ立ち上がる。夏凪の元へ行くと苦しそうにしていた。うなされているようだ。遠子がそっと夏凪の手を握る。


「うぅ、来ないで、お願い、やめて…」

「夏凪、大丈夫よ。私がついてるわ。大丈夫よ」


 遠子の声かけのおかげか夏凪がゆっくりと瞼を開く。遠子に気付くと涙が溢れ出す。


「遠子…私、私…」

「何も言わないで。もう安全だから安心して」

「うぅ、うわぁぁぁぁ」


 妖は時に人間を脅かす。怖い思いをする。日和は夏凪を見てこんな思いはしたくない、させたくないと率直に思うのであった。


 自分の部屋に戻り、大の字になって天井を見上げる。同じ部屋の子達はまだ戻ってきていない。日和の頭の横で雪葵が丸まっている。


「…妖ってなんなんだろ。人間を襲う妖もいれば、雪葵みたいに人間に割と友好的な妖もいる。一体私はどうしたらいい?危険な目に遭ってまで妖を祓う必要があるのかな」


 考えると言ってもまだまだ疑問が多く、答えが出てくるわけではない。


 自分が妖姫だったとしたら?仲介できるのだろうか。中立の存在になれるものだろうか。日和にその覚悟なんて到底ない。


「無理だ。考えてもわからない。難しいというか面倒だな」

「クゥン」


 雪葵が呑気に鳴く。日和は溜め息をついて目を瞑った。

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