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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
藤ノ宮編
83/114

第八舞 対妖武器

 数刻後、稽古が終わり、庭は静かになった。秋人は帰って来ない。仕事が長引いているのだろうか。そろそろ退屈になってきた頃、襖が開く。


「まだいるのか」


 遥希だった。湯浴みを済ませたようで武官の制服ではなくただの袴を纏い、髪は水に濡れていた。


「秋人さんに直接渡さなければならない書類があるからね。遥希こそどうしたの?」

「宗悟さんに客の相手しろって言われてたんだ。いくら副長の命令でも厄介神を相手しろなんて、無茶過ぎるだろ」

「誰が厄介神?私何もしてないでしょ」

「狐連れてる」


 雪葵が遥希の手にかぶりついた所で日和は話題を変えることにした。


「巡苑組は武官の集まりなんだよね?」


 雪葵を投げ飛ばした遥希は手を擦りながら座り直す。


「そうだよ。簡単に言えば御苑の町奉行《まちぶぎょう=警察》みたいなもん。局長は秋人さん、副長は宗悟さん」


 御苑内で武官が歩いているのはよく見ており、巡苑組の屯所があることも知っていたが、ここまで立派な組織が存在しているとは知らなかった。


「秋人さんも宗悟さんも凄い人なんだね」

「凄いどころじゃない。あの人達に勝てる人なんていないさ。いつかあの人達を越えたい。それが俺の目標」

「…遥希は秋人さんと宗悟さんを本当に尊敬しているんだね」


 空を見上げてきらきらと目を輝かせていた遥希は日和を見ると深く頷く。


「当たり前だろ。俺はあの人達に助けられて……」

「遥希さん!」


 武官が一人、襖を勢いよく開けた。遥希が立ち上がる。


「どうした」

「御苑の外をうろうろしている怪しい連中がいます。恐らく……」


 武官は日和を見ると、続きを躊躇する。日和に気を使ってくれたのだろう。だが、ある程度察しがついており、気になる案件だ。


「反帝軍ですか?」

「え……そ、そうです」


 武官が呆気に取られるが頷く。遥希の表情も険しくなる。やはり秋人さんだけでなく、巡苑組全体で反帝軍の存在を認知し、警戒していたようだ。


「どこだ」

「北門です」

「ちっ。反対側か」


 遥希が刀を腰に挿しながら部屋を飛び出し、武官もそれについて走り去って行った。日和は雪葵と顔を見合わせると、静かに跡をつけていく。反帝軍の中に妖もいる。日和達も過ごせない。


 北門近くの茂みに隠れ、様子を見る。


 北門よりも南門の方が通常使われやすい為、警備の厳重さは南門の方が厚いように思える。それを知って奴らは北門付近にいるだろうか。反帝軍の情報網はどうなっているのだろう。御苑についてどこまで知っているのだろう。


 北門が開かれる。その様子から御苑のすぐ近くにいる訳ではないらしい。だが、警戒は怠れない。流石に日和まで門をくぐるわけにはいかない為、門横の壁を雪葵に手伝ってもらい登った。体勢を低くし、辺りの様子を伺うと騒がしい声が聞こえてくる。暫くすると声だけでなく鉄と鉄のぶつかり合う音が耳をつんざぎ始めた。音のする方を探すと、火の手が上がっている。火により微かにぶつかり合う人影が見える。日和の体が壁を越えようと傾いた時。


「おい、何してる」


 御苑側の下から声が聞こえた。見下ろすと紫苑と秋人だ。日和は現状を伝える。


「反帝軍です!反帝軍がそこまで迫ってきています。今、遥希達が交戦に……。私も行かせてください!あの中に妖がいるはずです!」


 日和とは対照的に紫苑と秋人は落ち着いている。


「気配的に妖はそう多くない。遥希一人で十分だ」

「けど、妖を祓えるのは…」

「遥希は少し特殊なんだ。見ていたら分かる」


 秋人にそう言われ、納得できないまま、交戦を見守る。


 一人の武官の背後で手をかざしている者がいた。妖だ。このままでは、と思った瞬間だった。


 バンッ!


 甲高く鋭い音が響き、その妖が倒れもやとなって消える。その先には小さな人影そしてその手元には明らかに刀ではないものが握られていた。


「…あれは…?」

「銃だ。昔に外の国から送られてきた武器だ。あれは対妖武器に改造された銃。妖力を持つ者にしか効かない」

「対妖武器…」


 遥希は銃と刀を上手く利用し、敵を次々に倒していく。人間は刀で斬り、妖は銃を撃つ。そうして辺りは静かになった。


「紫苑様はお帰りください。これ以上は和の娘が危険です」

「そうだな。行くぞ」

「え、危険…?」


 秋人が軽く自分より何倍もある壁を一人で登り、反対側に降り立った。


「援軍が来る。和の娘は紫苑様と共に他の貴族様に報告を」

「秋人さん!」


 秋人の走り去る足音が聞こえなくなる。日和は信じていないわけがないが、不安がないわけではない。しかし紫苑に無理矢理降ろされ、追いかけられなかった。



 秋人が遥希の傍に到着した時には既に援軍に囲まれていた。秋人は塞がれた道を刀で切り抜けて遥希と背中合わせになる。


「聞いてませんよ、こんなにいるなんて」

「奴らは今回御苑に何か仕掛けるつもりはなかったのだろう。しかし、巡苑組が動いたから奴らも動き始めたわけだ」

「これでも交渉で済ませようとしたんですよ。なのに斬りかかってきたのはあっちです」

「なら交渉術を磨くべきだな」

「…俺のせいとか言わないですよね?」

「そういうことにしておこう」

「いや酷い!」


 大したことのない話をしながら敵を斬り倒して行く。他の武官も必死に戦ってはいるが、体力の限界のようだ。もう少し体力増加の必要があると秋人は感じた。


 攻撃を避けたはずみで秋人と遥希がよろける。それと同時に二人に飛びかかってくる反帝軍が二人。刀で防ごうとした時。


 ズシャッ!!


 反帝軍二人にはそれぞれ刀が刺され、そのまま地面に倒れた。一本は戦い疲れたぼろぼろの刀、もう一本は薄黒い血が流れる綺麗な刀。秋人と遥希はフッと口角を上げ、真上の木を見上げる。


「よく戻ったな、宗悟」

「仕事早く終わったんですか?」

「ああ、この状況を耳にして秒で終わらせてきた」


 宗悟は木から飛び降りると刀を振り回す。この光景に反帝軍は狼狽え始めた。


「く、くそっ。あの三人が揃ったんじゃ勝ち目がねぇ!」

「退くぞ!」


 反帝軍が御苑から逃げていく。追いかけようとする遥希は秋人に止められた。


「深追いするな」

「……もう少しだったのに」

「俺達から手を出したと思われては困るだろ」

「遥希のせいだがな」

「ちゃ、ちゃんと交渉したんですよ!あいつらがそれに応じず斬りかかってきたんです!正当防衛ですぅー」

「なら交渉術を学ばないとな」

「秋人さんと同じこと言うじゃないですか!」


 巡苑組は怪我人を背負って御苑に戻って来た。怪我人とは言え軽い症状の者ばかりの為、皆数日には稽古に戻っている。


 日和は見舞いに来たが、稽古の様子に見舞いの必要性はなさそうだった。とりあえず持って来ていた饅頭を廊下を歩いていた武官に渡しておいた。

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