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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
藤ノ宮編
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第二舞 任務

 その夕刻。紫苑に連れられ紅ノ宮を訪問する。日和は遠子達に久しぶりに会えることが嬉しい。


 紅ノ宮の屋敷に入ると遠子が待っていた。前から訪問する話はしていたらしい。遠子に連れられて果莉弥の執務室に行く。紫苑と日和なら案内がなくても行ける場所だが、一応習わしとしてだ。遠子が襖を開けると煌びやかな美しき貴族が座布団に座っていた。紫苑が一礼する。


「ただ今参りました、紅ノ宮」

「ようこそお越しくださいましたね、藤ノ宮」


 なんとも言えない他人行儀感。遠子は襖を閉めると果莉弥の傍に戻る。


「久しぶりね、日和。元気にしていたかしら」


果莉弥の言葉に日和は頭を下げた。


「お久しぶりでございます、果莉弥様、遠子さん」


 果莉弥がふふっと微笑む。


「今日は貴方にお願いがあってここに呼んだのよ」

「私に、ですか?」


 果莉弥は頷く。紫苑は少し不服そうに日和を見て口を開いた。


「お前にはこれから任務を与える」

「任務…」


 改めて言われるということは侍女の仕事とは別件なのか。それに果莉弥や遠子もいるのなら妖関係だろう。


「ここ最近、妖の暴走化が増えているのは前に言ったな。その暴走化が御苑外でも頻繁に起きている」


 御苑を襲う妖、離れで柚寧に襲いかかっていた那津。日和も間近で見てきた。危機感は感じている。


「今までは俺が御苑外にまで祓いに行っていたが、正直手に負えない速さで暴走化が進んでいる。そこでお前と妖狐も妖祓いをしろ」

「こら。『しろ』じゃなくて『して欲しい』でしょ」


 果莉弥が窘めるが紫苑は無視する。紫苑としては命令が当たり前だ。お願い等したことない。する必要もない。


 日和は目を見開いていた。今までは偶然出会った妖としか戦ったことがなかった。しかしこれからは自ら赴くことになるのだ。それがどれだけ怖いことか、不安なことか。


「しかし、私は侍女である為、一人で御苑外に出てはいけないのでは?」


 離れでは割と自由に外に出入りしていたが、天皇がいる御苑には厳しい制約がある。侍女は基本御苑から出ることは出来ず、主人の付き人としてしか許されていない。


「そこに関しては案ずるな。秋人が武官に良いように言ってくれる話になっている。それに護衛も付ける」

「護衛、ですか」

「後ほど紹介する」


 秋人が動いてくれているのなら、こちらが心配することはないだろう。


「御苑に戻ってきたばかりなのにこんな大きな仕事を任せてしまってごめんなさいね」


 果莉弥が申し訳なさそうに声をかけてくれる。日和は首を横に振った。


「いえ。妖姫として暴走した妖を祓うことは役目です。果莉弥様がお気にすることではありません。ただ…」


 日和は俯く。妖姫の使命とは言え、それが日和にできると限らない。雪葵がいてくれたとしても、自分は…。


「成長しろ。自分に何もできないと考え込むより何ができるかを見つけて来い。それが今お前にできることだろ」


 紫苑は素っ気なく言い放つ。けれどその言葉は日和に響いた。そして大きな返事で決意を伝えた。


「はい!」

「ふふっ。ほらせっかくなんですし、紗綾達にも会っていきなさい。良いでしょう?紫苑」

「ああ」

「遠子、よろしく頼むわね」

「はい。果莉弥様」


 三人の速すぎる会話に追いつけず日和は気付けば遠子に手を引かれていた。自分の意見は?そう言えない立場であるのは分かっているが目で訴えかけた。紫苑は無表情、果莉弥はにこりと笑って手を振っている。無駄だった。


 日和と遠子が執務室を出て襖が閉まると、果莉弥が安堵で一息つく。


「本当に元気そうで良かったわ」

「あれでも解雇された時は落ち込んでいた。それに結亜が離れから出て行って仕事を失った時もかなり沈んでいたらしい。あいつの兄が言っていたそうだ」

「そう。でも今は貴方の侍女になった。天皇を説得するには骨が折れたでしょ?」

「かなりな。でも納得してもらえた」

「どうなのかしらね〜」

「?どういうことだ?」


 紫苑が首を傾げる。天皇は「分かった。許可しよう」と言ってくれた。それは納得してくれたということではないのか?


「貴方が頑固だから仕方なしに許可したんじゃないかしら。貴方、時々怖いから」

「何がだ」

「……おしまい。たぶん話し出したら一生終わらない話だし。ただ…」


 果莉弥は紫苑を見る。その瞳は柔らかさの中に真剣さが含まれていた。


「日和を大切にしてあげて、紫苑」

「当たり前だ」


 紫苑の目も据わっていた。覚悟ある瞳に果莉弥はそれ以上何も言うことはなかった。


「そうあの話…鬼が復活しようとしている話は本当だったのね…」


 果莉弥は少し残念そうに視線を落とす。紫苑の顔も険しくなる。


「知っていたのか」

「里で噂程度で聞いていたの。でも噂は所詮噂。誰も信じていなかったわ」


 噂が現実であった時。それ程恐ろしいものなどない。


「私も何か方法がないか調べておくわ」

「…あぁ」


 紫苑の不安が増すばかりだ。



 遠子に連れられた日和は紗綾達のいる部屋にいた。ちょうど休憩中らしく全員揃っていた。日和を見た瞬間、紗綾達が驚きの声をあげる。真菜が日和に抱きつく。日和は苦笑いして軽く抱きしめ返した。


「日和に是非着てもらいたい衣装があるの」


 そう言って遠子は窓際に掛けられていた衣装を持ってくる。綺麗な衣装だった。赤色が基調となっているが、主張し過ぎない優しい赤色だった。


「日和に着てもらうためだったんですね。急に棚から出してきたから何かと思いましたよ〜」


 真菜が衣装を見ながら言う。日和は遠子を見た。


「これは一体…」

「私が侍女として舞踊することになって初めてお披露目した時に着ていたものよ。日和に似合うんじゃないかって思ってたから貴方にあげたいの」

「え、よろしいのですか」

「ええ。是非貰って欲しいわ。一度着てみてもらえないかしら」


 日和は喜んで衣装を手に取る。こんな綺麗な衣装を着る機会は少ない。是非着たいと思った。


 遠子に手伝ってもらい、衣装を着る。簡易な模様だが、布の生地は良いことが日和にも分かる。準備を終えると部屋の外で見張りをしてくれていた紗綾達が部屋に戻ってきた。おぉ〜と歓声をあげてくれる。日和はなんとなく踊り出す。衣装がひらひらと舞う。その感覚がとても気持ち良かった。


 真菜も隣で踊り出す。気付けば全員で踊っていた。音楽もないのに動きが揃う。紅ノ宮の侍女達は本当に凄い人達ばかりだと日和は改めて感じた。


 何も考えずただ踊っていると視線が刺さる。日和は出入口の方を見ると、紫苑と果莉弥が立っていた。侍女達もそれに気付き固まる。そして遠子と日和以外がぺこぺこと頭を下げる。


「申し訳ありません!はしたないところをお見せしてしまい…」

「来客中にはしゃいでしまい誠に失礼致しました!」


 果莉弥がふふふっと口元を押さえて笑う。紫苑も笑みを浮かべているが目が笑っていない。


「全然いいのよ。楽しそうにしているところを見たら私も楽しくなっちゃうし」


 緩く暖かいところだなーと思っていると紫苑と目が合う。手招きされ部屋の外に出た。果莉弥達から見えないところに移動すると突然拳骨が落ちてきた。日和は頭を押さえてしゃがみ込む。


「い〜〜〜!な、何なさるのですか!」


 敵を睨むかのような鋭い目で紫苑を見る。紫苑はむすっとした顔で日和を見下ろしている。ただその顔が蔑んでいる、というよりかは子供ぽかった。


「そんな格好で踊るな」


 日和は自分の格好を見る。綺麗な衣装だ。それの何が悪い。


「踊る時にこのような綺麗な衣装を着ることは当然のことです」

「そもそもそのような衣装を着るな。踊るなと言っている」

「ますます分かりかねます」


 日和には理解できない。紫苑は何故分からない、と睨む。


「衣装のことは百歩譲ります。ですが、踊ることに関しては一万歩も譲れません。それに私から踊りを取らないで頂けませんか。何も残らなくなります」

「取るつもりはないが、他の人の前では綺麗な姿も踊りも見せるな。それだけだ!」


 紫苑はすたすたと部屋とは反対方向に歩き始めている。何故か最後吐き捨てるように言われた。日和は戸惑う。


「紫苑様、部屋は反対ですが…」

「もう用事は済んだ。帰るぞ」


 紫苑は早歩きで行ってしまう。日和は困惑しながらも部屋に戻ると果莉弥達に挨拶し、侍女服を拾うと急いで紫苑を追いかけた。

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