第二十七舞 決着
男妖は八妖樹二人に狼狽えているようだ。しかし、小刀を強く結亜の首に押し当てる。
「お前ら動くなよ。こいつを殺されたくなければなあ!」
結亜が顔面蒼白になる。日和達も身構えた。
「問答無用で殺すつもりのくせに。自分が逃げる為に人質に取るか」
「ねぇ〜。これが愚かって言うんじゃない?」
緊張感や焦燥感のある日和や紫苑と違い、雫と柚寧は落ち着いていた。そして目線をこちらに向ける。
「俺と覚であいつの気を引く。その隙をついて妖祓師はあいつを祓ってくれ。日和と九尾はあの小娘を助けることに集中しろ」
「おい、妖が俺に、指図するな。それに結亜を、小娘と……」
「ねちねち言う暇があったら動け。文句なら後で聞いてやる」
雫が手を突き出すと男妖の足が氷で固められていた。必死に足を動かそうとしている間に今度は目の前が大量の花びらで荒れる。
「くそっ!なんだ!」
自身の状況に手一杯になったのか妖術が消えたようで紫苑と秋人が立ち上がれた。
「…ちっ」
紫苑は不満ながらも雫の言う通りに札を構える。不本意だが、間違ってはいない。今はそうするべきだ。
「秋人。お前は俺の術を唱え終わるまで俺を護れ」
「紫苑様、それは……」
「もう無理はしない。この術は平気だ。ま、前回の疲れが残っているから多少影響は受けそうだがな」
秋人は心配そうな顔をする。その顔に紫苑は笑みを浮かべた。
「絶対倒れない」
「……御意。お気を付けて」
紫苑は秋人が前に立ったことを確認すると目を閉じ、何か唱え始めた。
日和は紫苑と秋人、雫と柚寧、結亜を順に見る。頭が痛むが目を凝らしていた。一瞬の隙も逃せない。
「日和、休んでた方が良いよ?」
雪葵は気遣ってくれるが日和は首を横に振った。
「ううん。皆が戦っているのに一人だけ休む訳にはいかない。結亜様を守らなきゃ」
日和はよろけながら立ち上がり、結亜のいる場所まで近寄る。我が主は自分が守らなければ。任された使命は必ず果たす。
男妖の前から花びらが消えた瞬間、氷の槍を構えた雫が男妖に詰め寄る。そして槍で小刀を弾き、結亜を掴む腕も突く。
「ぐっ!」
「よっと」
手が緩んだ隙に柚寧が結亜を救出し、日和の元に着地した。日和は結亜を抱きしめる。
「はい、あげる」
「ありがとう、柚寧」
「…う、うう〜」
「結亜様、申し訳ございません。もう大丈夫です」
「くそっ!ふざけるな!」
男妖が手を突き出す。また妖術を使う気だ。しかし突然の吹雪に襲われ妖術が使えない。そして蔓が男妖に巻き付いた。
「視線と手を防げば妖術は使えない。だよね?」
柚寧が男妖ににっこりと笑いかける。それを狂気に感じて男妖は青ざめた。
「お前ら!下がれ!」
紫苑の声に雫と柚寧が男妖から離れる。日和も結亜の手を引いてその場から離れようと走り出す。紫苑は札を男妖に投げ飛ばした。
「天人よ、我に力を与えたまえ。天、妙称論《てん、みょうしょうろん》!!」
男妖に張り付いた札が真っ白な光を放つ。
「ぐわああああああ!!」
男妖が断末魔と共に消え、それと同時に強風が巻き起こる。その風に煽られ、繋いでいた手が離れてしまい、結亜が飛ばされた。その先は運悪く男妖が壁に開けた大穴だ。
考えるよりも先に痛む足が動き出す。自らの身を投げ出し、結亜に腕を伸ばす。そして小さい体を引き寄せ反対の腕を空に向かって力強く伸ばした。
二人は真っ逆さまに落ちていく。日和はぎゅっと目を瞑り、死を覚悟した瞬間だった。体が柔らかい感触を感じる。そして左手首に強い感触を感じた。日和が目を開く。下を見れば白い毛並見、上を見上げれば汗でびしょ濡れになった見目麗しい人が日和の左腕を掴んでいた。
「絶対に結亜を離すなよ!」
焦っている紫苑をよそにこんな状況で日和は力なく微笑んだ。
「…当たり前ではないですか。約束、しましたから。必ずお助けしますと」
「……莫迦」
その後、男達を縄で縛った秋人も助けに来てくれ、日和と結亜は無事引き上げられた。
屋根裏に上がり、息を吐く。結亜は気絶していた。首に微かな血の滲みがあった。小刀を突きつけられた時だろう。また怖い思いをさせてしまった。けれど、無事で良かった。
安堵していると突然、悪寒が全身を駆け巡った。辺りを見回す。雪葵も同じらしい。突然、雪葵は走り出した。
「雪葵!」
日和は雪葵を追いかける。屋敷を出て、森の中に入る。雪葵が立ち止まった場所は以前来た大きな岩の前だった。
雪葵は目を閉じ、体は炎に包まれている。
「何があった…」
日和が声をかけようとした時だった。
「ウォォォォン」
大狐雪葵が空に向かって遠吠えする。すると尾が一本生えた。四本の尾がひらひらと揺れている。
「どうして尻尾が?」
不思議な現象に目を疑う。理解が追いついていない。
炎が消えると雪葵は子狐に戻り、そのまま地面に倒れた。慌てて駆け寄る。
「大丈夫っ……!」
日和の顔が青ざめる。これ程強烈な妖力を感じたのは初めだ。知らぬ間に体が震え出す。
「うぅ、あぁ……」
日和は恐怖で足から崩れ落ちた。そのまま地面に倒れ、意識を失った。




