第十七舞 幼馴染
いつ頃だっただろうか。突然現れた“お前“ は俺の胸に飛び込んできた。最初は“お前“だと気づかなくて、思わず殴ってしまった。ごめん。けれど、俺は嬉しかった。もう二度と会うことはできないと思っていた。辛い時に傍にいてくれた、俺が悪いことをしたら叱ってくれた、俺の話をいつも笑って聞いてくれた。感謝してもしきれない。だから、“お前“を殺したあの日、俺は絶望するしかなかった。俺のせいだ。俺があんなことをしなければ…。
何百年経って、不意に“お前“に再会した。俺に他の選択肢はなかった。一目散に“お前“の手を取った。また一緒にいられる、そう感じた。
今度こそ離さない。傷つけられたとしても俺はずっとこの手を繋ぎ続けてみせる。
日和と雪葵はまた林檎を採る為、森を歩いていた。
雪葵は今、子狐姿で隣を歩いているが、屋敷にいる時はずっと人間姿である。それが気になっていた。
「人間姿でずっといるの、疲れない?大丈夫?」
「うーん、なんかね、少しずつ慣れてきたみたい。疲れはするけど、夜にしっかり寝るから朝には回復するんだ」
以前は人間の姿になれば、その後十時間程は眠り続けていた。成長、なのだろうか。
「それなら良いんだけど。結亜様の為だからって無理しすぎないでね」
「もちろんだよ!」
雪葵の明るい様子に日和はホッとする。怪我も完治しているし、ひとまず安心だ。
「あ、またあいつがいる」
林檎の木が見えてきた所で雪葵が不機嫌な顔で木の上を指差した。足をぶらつかせている覚だった。雪葵は気づかれないようにそっと歩くが、隠れているわけでもないので、簡単に見つかっていた。
「こんにちは〜妖姫〜。あと九尾」
「僕だけ対応酷いっ!」
「こんにちは。私のこと日和で良いよ」
「そう?じゃあ日和、今日も林檎?」
「うん」
「僕は無視なのぉー!」
雪葵は叫んでいるが、地面に降りた覚は全く相手にせず、日和にばかり話しかけていた。
世間話をしていると突如、茂みが大きな音と共に激しく揺れ、何かが飛び出してきた。それはとてつもない速さで覚に一直線に向かっていく。
「覚!」
日和が叫び、雪葵が駆け付けようとするが間に合わない。覚は全く避ける素振りを見せず、微笑んだままその何かを受け止めた。日和と雪葵は唖然とする。
その何かは四足歩行の妖であるが、どの動物とも似つかない。覚に止められても尚、唸りながら大暴れしている。覚は何故か嬉しそうだった。
「また来てくれたんだね、那津」
「ヴゥゥゥ」
「…那津?」
雪葵がきょとんとする。日和も同じだった。笑う覚に対して、那津と呼ばれた妖は敵意剥き出しである。奇妙な光景だ。
「覚、知り合いなの?」
日和はそっと聞いてみる。覚は頷いた。
「そうだよ。俺の幼馴染なんだ」
人間の頃は、の話だろう。今はそういう風には見えない。
「覚、危ないよ」
雪葵が心配しながら近づくと、覚は那津を庇うように覆いながら笑う。
「大丈夫。那津は優しい子なんだ。危なくなんかないよ」
鋭い牙と爪で大暴れしている様子を見て危なくないと思う方が難しい。今にも覚が引き裂かれないかとヒヤヒヤする。
「離れなよ。怪我しちゃうだろ」
雪葵が覚と那津を離そうとして近づく。日和も心配で一歩前に出ると、覚が鋭い目で睨んできた。
「来るな!此奴に手出しはさせない!日和でも許さない!」
あまりの気迫に息を呑む。それでも食い下がる他ない。
「その…那津さんは覚を覚えているの?」
「もちろんだよ。だから何度も俺に会いに来てくれるんだ」
「きっとそれは違う。だって覚に襲いかかって…」
「うるさい‼︎柚寧って呼んでくれているんだ!」
覚の様子に日和達は困惑する。
彼は必死だった。ゆったりと余裕そうな笑みを浮かべている人とはまるで別人のようだ。
「俺は誓ったんだ!この手を二度と離さないって!」
覚は那津の手を握りしめる。そして、あの日のことを思い出していた。




