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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
暁ノ宮編
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第十六舞 反帝軍 その二

 数日後。見目麗しい貴人は現れた。けれど、側近の秋人はいなかった。今回の用件は沙良と日和に向けてらしく、暫く足に引っ付いていた結亜を剥がして愛華に任せると別室を要求した。沙良は自身の部屋に案内した。


 日和がお茶を紫苑に差し出す。紫苑は珍しく真剣な顔をしていた。


「どのようなご用件でしょうか?

「反帝軍を知っているか?」


 沙良が首を傾げる。代わりに日和が手を挙げた。


「天皇陛下に反発する平民の組織のこと、ですよね。花盛りの街でもそれらしき人を見かけたことがあります」

「本当か!」


 紫苑の声を大きくなり、体が前のめりになる。日和は明らかに嫌そうな顔をすると、紫苑はハッとして座り直し、わざとらしく咳払いをした。


「こほん。彼らの集会場所に心当たりはないか?」

「たまたま話を聞いただけですので、詳しいことは何も」

「そうか…」


 残念そうに項垂れる紫苑に沙良が聞く。


「その反帝軍が集会をすることに何か問題があるのですか?」

「最近、彼らの動きが目立ってきてな。御苑に何か仕掛けてくる可能性がある。お前らも警戒しておけ」


 なるほど。結亜が危険に晒されることも考えられる。結亜から目を離すな、ということだろう。


「結亜を不安にさせない方がいい。このことは内密にしておいてくれ」


 紫苑が立ち上がり、部屋を出ようとする。日和は思わず呼び止めた。


「藤ノ宮様」

「なんだ?」

「どうしてそこまで、結亜様のことを気にかけるのですか?」


 ずっと不思議だった。貴族の中では紫苑しかこの離れに来ていない。天皇さえ来ていない。こんなに定期的に通うのは何故なのだろうか。


 日和は一つの可能性が思い浮かび、血の気が引く。


「ま、まさか、結亜様に下心がおありで…」

「え⁉︎」

「どうしてそうなる!変な誤解をするな!」


 怒鳴られてしまった。そんなに声を荒げなくてもいいのに、と思いながら、とりあえず沙良と二人で安心する。


「陛下からの命だ。忙しくてここを訪れる時間が取れないそうでな。その代わりだ」

「結亜様は天皇陛下にお会いできなくて寂しくないのでしょうか」


 両親が亡くなってしまった結亜にとって天皇が一番近い親族になるのではないだろうか。叔父に会えないのは辛いことではないのか。


「正直、結亜と陛下はあまり交流がなくてな。私の方が交流していたな」


 紫苑はまずい、という顔をする。すぐに表情を戻したが、日和は見逃さなかった。


「と、とにかく!これからも見回りには来る。お前達も気をつけていろ」


 紫苑はそう言って部屋を出て行った。


 逃げたな。日和は心の中で舌打ちした。二人の関係が気になったが、それより気がかりなのは反帝軍だ。今度こそ結亜を危険な目に遭わせない。何があっても守る。


 沙良と共に結亜の部屋に戻ると、結亜と愛華が本を読んでいた。そこに紫苑はいない。付き人の武官は見かけているので屋敷の何処かにいるのだろう。話の詳細を聞こうと屋敷内を探す。中庭を覗くと紫苑はそこにいた。折角ここに来ているのだから結亜の相手をすればいいのに。そう思ったが険しい顔で考え込んでいるのを見て、何か深刻な考え事をしていると察する。


 日和は近づくが、気づかれていないようだ。日和は後ろから驚かすことにした。


「ふ〜じ〜の〜み…」

「うわああ!」


 予想以上に驚かれ、日和もびくっとする。紫苑は日和を睨む。久しぶりの蔑んだ瞳だ。


「何の用だ」

「反帝軍についてもう少し詳しくお聞きしたいと思いまして」


 紫苑が困った顔をする。


「…実は情報がほとんどない。今、葉ノ宮や秋人らが動いてくれているが、反帝軍は利口らしい。全然足取りが掴めない」

「そうなんですね…。結亜様は必ずお守り致しますので」


 日和が真っ直ぐな思いで言葉を伝えると、紫苑は視線を外す。


「無理はするな。…お前はもう御苑の人間だからな。何かあれば…俺が困る」


 ちらりと横目で日和を見るが、その日和は首を傾げていた。


「現在、私は御苑から離れておりますが?それに藤ノ宮様がお困りにあることはないのでは?あ、妖に関してはお困りになるのか…?」


 紫苑は目をぱちぱちとさせ、その後、がっくしと項垂れる。視線を上げると日和の目の周りがほんのり赤いことに気づく。


「目が赤いがどうした?」

「え?あぁ、まあ。色々ありまして」

「何があったのだ?」


 空気を読んでくれ。言いたくない。


 日和はお茶を濁そうとするが、紫苑は視線を外してくれない。貴族に逆らえば首が飛ぶ。そう考えた日和は正直に離すことにした。


「あの妖狐が…。まあとにかく全員、無事でよかったな」

「まぁ…そうですね」


 日和にはまだ罪悪感が残っている。無事なのは良かったが、それで済ましても良いのか、日和には疑問だった。



 紫苑が御苑に戻ると誰かが駆けてきた。手を振っているので秋人ではなさそうだ。葉ノ宮だった。走ってきたにしては相当な汗を掻いている。また素振りでもしていたのだろう。


「戻ってきたか」

「ええ、少し様子を見に」

「暁ノ宮の所か。そうだ、藤ノ宮に頼みがあってな」


 葉ノ宮がここでは言えない、と葉ノ宮邸の応接間に紫苑を連れて行った。


「実は急遽、明日から出張になってな。ここ《御苑》を空けなければならんくなった」

「…それは困りました」


 反帝軍のことで御苑に武力を固めておきたい。葉ノ宮が一人抜けるだけで武力が大幅に下がる。


「俺も抗議したんだが、歯が立たなかったよ。明日お前が来なければ全てが失敗するだのなんだの脅されまくって、結局こちらが折れるしかなかった」


 葉ノ宮がやれやれと首を振る。この人も苦労人だ。


「だから、御苑のことはお前に任せる」

「私は武家貴族でもましてや武官でもありませんよ」

「心得や多少の技能はあるだろう?反帝軍の規模がわからないが、総力上げて攻めに来ることはまだないと踏んでいる。お前以外に任せられる奴いないしな。秋人もなかなかの強者だ。手合わせまだしたことないし一度くらい頼みたいな」

「ただでさえ忙しいのですから、これ以上仕事を増やしてやらないでください」

「仕事じゃなくて娯楽だ。まあとにかく、よろしく頼むな」

「…承知しました」


 正直嫌だが、了承せざるを得ない。


 自分になんとかできるのだろうか。不安は募るばかりだ。

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