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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
暁ノ宮編
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第十四舞 後悔と誓い

 陽が傾き始めた。そろそろ帰る時刻だ。日和と宗悟が買い忘れているものはないかと確認を始める。結亜は暇だった。すると向こう側の店に可愛い雑貨屋があるのを見つける。結亜はふら〜と足が雑貨屋に動き出す。それに気づいた雪葵はついて行く。


 夕刻の商店街は人が多い。結亜は背の高い人にぶつかる。そのまま人混みに呑まれ流される。小さい体の結亜は抵抗できない。雪葵は慌てて後を追いかける。


 どんどん流され、結亜が突然人混みから投げ出された。雪葵は必死に同じ所に飛び出す。投げ出された場所は薄暗くなった路地裏。その先には先程のいじめっ子達が別の子供を踏んだり蹴ったりしていた。結亜が思わず小さな悲鳴を上げる。いじめっ子達が振り返る。


「あいつ、さっきの熊男と一緒にいた奴じゃねえか」

「お返ししてやらねえと…」


 いじめっ子達が険しい顔でこちらに近づいてくる。結亜は恐怖で動けない。いじめっ子達が手に持った木の枝を大きく振り上げる。結亜が体を強張らせて目をぎゅっと瞑る。


 けれど叩かれることはなかった。結亜は恐る恐る顔を上げ、目を見開く。結亜を庇うようにして人間姿の雪葵が木の枝の攻撃を受けていた。



 買い忘れはない。ならば後は帰るだけだ。そのはずだった。


「結亜。そろそろ帰ろうか…あれ?」

「うん?結亜?どこ行った?」


 日和と宗悟は辺りを探す。どこにも結亜はいない。先程まで傍にいたのに。


 二人は焦り出す。この人混みで結亜を見つけるのは困難だ。それでも二人は人混みに飛び込んだ。ほんの短時間だ。そんなに遠くには行っていないはずだ。日和は後悔した。ずっと手を繋いでいれば。自分が目を離さなければ。


 後悔してももう遅い。とにかく隅から隅まで血眼になって探す。どの店にもいない。道端にもいない。


 あらゆる路地も探す。すると子供の集団が見えた。宗悟がぼこぼこにしたいじめっ子達だ。そう思って流そうとした時、見覚えのある着物が見えた。屋敷で見た着物。今日一日横で見ていた着物。


 考えるよりも先に日和は走り出した。けれど足が止まる。誰かが結亜を庇っていた。金色の髪で白い着物に紺色の袴。日和は声をかけようとして呑み込む。雪葵の名を呼んでいいのだろうか。日和とこの少年は知り合いじゃない方が良いんじゃないか。


 雪葵の白い腕も着物も袴も木の枝のせいか傷だらけだ。日和は足元に落ちていた小石を投げつけ、いじめっ子の一人の頭に直撃する。


「痛てーな!なにすんだよ!」


 相変わらず生意気そうだ。反省の色は全くない。


「悪い子達にお仕置きしてあげようと思ってな」


 日和の意地を張った強気な笑みにいじめっ子達が怯む。しかし、いじめっ子達は日和に向かって木の枝を振り翳しながら駆けてきた。


 その木の枝は日和に届くことはなかった。いじめっ子達の顔がどんどん恐怖で歪んでいく。日和の背後から厳つい圧を感じた。


 いじめっ子達は逃げようとしたが、宗悟にきついお仕置きをされる。そしてまた泣き叫んで逃げて行った。


「大丈夫か?」


 宗悟が日和の顔を覗く。日和は頷く。その時、バタンと倒れる音がした。雪葵が地面に倒れていた。


「結亜様、お怪我はありませんか。君は怪我を見せて」


 日和は結亜と雪葵に駆け寄る。結亜は日和に抱きつく。静かに泣いていた。


 見たところ結亜の着物は多少汚れてはいるが、怪我はなさそうだ。ただ雪葵はぼろぼろになっていた。所々に痣や傷があり、その傷の中には血が滲み出ていて深そうなものもある。晒を雪葵の腕に巻く。体にも傷があることだろう。早く屋敷に帰って治療した方が良い。


「…ご、ごめんな、さい…」


 小さな声で結亜が謝る。日和と宗悟は耳を澄ませた。


「勝手に、行動したせいで、日和達に迷惑かけたし…お兄ちゃんに怪我させちゃった…」

「き、気にしないでぇ〜。君に大事がなくて良かったよ〜」


 結亜が泣き止む様子はない。宗悟は雪葵を、日和は結亜を抱えて、できるだけ人目を避けながら商店街外の死角で待つ牛車に戻った。


 牛車に戻っても結亜が泣き続けている。雪葵が弱々しい手で結亜を撫でる。


「泣かないでぇ〜。誰も迷惑だなんて思ってないし、僕の傷も大したことないから〜」


 先程よりは落ち着いたらしい。それでも申し訳ない気持ちが残っているのか俯いて鼻を啜っている。日和は結亜の手を握った。


「私達の不注意でした。申し訳ございません」

「う、ううん、違う…」

「今回の件は私達の責任です。どんな罰でも受けます。鞭打ちでもなんでもやります」


 結亜が全力で首を横に振る。そうはしないと言っているのだろう。


「ですが、もし結亜様が自分のせいだと仰るのであれば、次からしなければ良いのです。今回のことを気にしすぎてはいけません。次にお出かけする際には一人で行動しない。それを守れば良いのです」


 結亜は日和の顔を見て、潤んだ瞳のまま頷いた。


 屋敷に着くと出迎えてくれた沙良が驚く。それはそうだろう。帰ってきたと思ったら、泣き腫らして真っ赤になった目の結亜と着物も体もボロボロになった少年がいるのだから。雪葵が急いで治療された。


 沙良に事情を話す。沙良が困ったように溜息をついた。


「結亜様に怪我がなかったことや彼の傷が酷くなかったのは不幸中の幸いでしたが、もし重症だったら。お二人ならわかると思います。どうか、よろしくお願いします」


 結亜と雪葵を部屋に寝かせ、宗悟を見送る為、屋敷の外に出る。


「宗悟さん、申し訳ございませんでした。私の不注意で…」

「日和だけの責任じゃない。どちらかというと二人の護衛を任されていた俺の責任だ。日和も気にしすぎないようにな」


 宗悟は日和の頭をぽんぽんと軽く叩く。


「今日は楽しかったよ。ありがとう。ゆっくり休んでな」

「……はい。ありがとうございました。お気をつけて」


 結亜の部屋に戻ると愛華の膝で結亜は小さな寝息を立てていた。日和は静かに愛華に近づき腰を下ろす。


「ごめん、愛華。愛華が結亜様を連れ出したこと、私が叱る資格ない。私、結亜様を危ない目に遭わせた」


 無言の末、愛華がきょとんとした顔で日和を見る。


「でも日和は体を張って結亜様やこの子を助けようとしたんでしょ?それって凄いことだと思うな。私なんて元気づけようと話しかけることしかできなかったもん。日和は胸張っていいんだよ?」


 愛華はそう言うと優しく結亜の髪を撫でる。彼女は良い子すぎる。叱って当然のはずだ。それを許せる、いや凄いと言えてしまう愛華の方が遥かに凄い。


 結亜と雪葵を見る。どちらも安心しているようだった。同じことは繰り返さない。日和は強く心に誓った。



 空が真っ暗に染まっている頃。紫苑は疲れて机に伏していた。このまま寝てしまいたいが、夢にまでこの書類が出てきそうでそれはごめんだ。そもそも寝ることは許されないだろう。


 紫苑が重い体を立ち上がらせると同時に襖の向こう側から秋人の声が聞こえてきた。何か深刻そうに紫苑の名を呼ぶ。許可され襖を開けた秋人は、軽く一礼すると、早歩きで紫苑に近づき、耳打ちする。


「…!」


 それは衝撃的な内容だった。

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