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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
暁ノ宮編
55/114

第十二舞 弱いところ

 劇場に戻ると賑やかになっていた。二つの箏が音楽を奏で、一つの歌が聞こえてくる。愛華は日和が戻ってきたのを見つけると、お盆を取り上げ舞台に連れていった。日和が目を丸くしていると、凛杏や薫が何か目で訴えてくる。日和は理解するとその場で回り出す。結亜や愛華が楽しそうにしているのが見える。自分の踊りを喜んでくれる人がいる。それを知ったからか、以前より踊ることに躊躇しなくなった。それに楽しんで踊れるようになったのかもしれない。


 大盛り上がりの中、舞っている日和を面白くなさそうに見つめる姿が一人。秋人が後ろに座る。


「そんな顔をなさっていますと、和の娘に怪訝な顔をされますよ」

「…今日は踊らないと言っていた」

「拗ねないでください。今は舞台の最中ではありません。ただ遊んでいる、と捉えるのでは良いのではないでしょうか」


 紫苑がムスッとする。それはただ子供が自分の思い通りにならない、と不貞腐れている様子だった。


「…良くない」


 秋人は呆れて溜息をつく。紫苑はもう齢十九だ。もう十分大人なはずである。普段は大人びているのに、時々このような子供っぽさが表れる。特に日和に出会ってから。


 子は愛されなければ大人になっても子供のまま、と言うが紫苑は決して愛されなかったわけではない。周りは紫苑を愛し、大切育ててきた。それは小さい子が見ているだけでもわかる。紫苑は羨ましいくらい幸せそうだった。


 けれど、色々あったせいか、精神が捻じ曲がってしまったらしい。変に強い所と弱い所ができていた。その弱い所がこの子供っぽさだ。十九をあやすこちらの身にもなってくれ、と思う。


「でしたらそう和の娘にお伝えください」

「できるわけないだろう」

「でしょうね」


 紫苑が更にムッとする。秋人の挑発じみた発言は久しぶりだ。怒っているわけではない。教育だ。


「貴方はいつもなら物事についてはっきりと仰います。それなのに和の娘のことになると途端に戸惑いが出る。貴方の悪い所ですよ」


 紫苑は目線を下げる。秋人は続けた。


「それに。何も言わずに相手に思いが伝わるとお思いにならないでください。伝わるとすれば、十何年という長い年月共にいた人くらいです。何か言いたいことがあればちゃんと言葉にしてお伝えください」

「…お前も時々俺の立場のこと気にしないよな」

「これは側近である私としてではありませんから」


 秋人は真面目な顔で言う。紫苑は苦笑いする。


「そうだな。幼馴染の言うことはちゃんと聞くか」


 秋人は少し微笑んだ。



 結亜は疲れたようで眠ってしまった。満足そうな顔に安心する。秋人が結亜を抱え、牛車に乗り込む。他の人たちも牛車に乗り込んだ。日和は兄妹を振り返って一礼する。


「ありがとうね、急な話だったのに。結亜様が満足していただけたのはお兄ちゃん達のおかげだよ」

「いいえ。こちらも楽しかったよ」

「日和もまた帰ってきてね」

「待ってるよぉぉぉ」


 兄妹に見送られ、牛車は走り出した。


「ありがとう、日和」


 沙良が礼を言う。日和はゆっくり首を振った。


「いえ。とても満足していただけたようで私としても嬉しいです」


 日和は膝で眠る愛華の髪を撫でる。愛華もはしゃぎすぎて疲れて寝たようだ。紫苑が許してくれたので、起こさないことにした。


「結亜があそこまで楽しそうにしていたのは久々だな」

「はい。あの屋敷に移られてから毎日沈んでいましたから。…私のせいでもありますが」


 沙良が暗い顔をする。日和は視線を愛華から沙良に移した。


「沙良さんのせいではありません。それが沙良さんの優しさですから。それに人手が足りなかったのもあると思います。これからは私達もいますから、少しお散歩でもしていきましょう」

「……そうね。ありがとう」


 沙良は微笑んだ。

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