第十二舞 弱いところ
劇場に戻ると賑やかになっていた。二つの箏が音楽を奏で、一つの歌が聞こえてくる。愛華は日和が戻ってきたのを見つけると、お盆を取り上げ舞台に連れていった。日和が目を丸くしていると、凛杏や薫が何か目で訴えてくる。日和は理解するとその場で回り出す。結亜や愛華が楽しそうにしているのが見える。自分の踊りを喜んでくれる人がいる。それを知ったからか、以前より踊ることに躊躇しなくなった。それに楽しんで踊れるようになったのかもしれない。
大盛り上がりの中、舞っている日和を面白くなさそうに見つめる姿が一人。秋人が後ろに座る。
「そんな顔をなさっていますと、和の娘に怪訝な顔をされますよ」
「…今日は踊らないと言っていた」
「拗ねないでください。今は舞台の最中ではありません。ただ遊んでいる、と捉えるのでは良いのではないでしょうか」
紫苑がムスッとする。それはただ子供が自分の思い通りにならない、と不貞腐れている様子だった。
「…良くない」
秋人は呆れて溜息をつく。紫苑はもう齢十九だ。もう十分大人なはずである。普段は大人びているのに、時々このような子供っぽさが表れる。特に日和に出会ってから。
子は愛されなければ大人になっても子供のまま、と言うが紫苑は決して愛されなかったわけではない。周りは紫苑を愛し、大切育ててきた。それは小さい子が見ているだけでもわかる。紫苑は羨ましいくらい幸せそうだった。
けれど、色々あったせいか、精神が捻じ曲がってしまったらしい。変に強い所と弱い所ができていた。その弱い所がこの子供っぽさだ。十九をあやすこちらの身にもなってくれ、と思う。
「でしたらそう和の娘にお伝えください」
「できるわけないだろう」
「でしょうね」
紫苑が更にムッとする。秋人の挑発じみた発言は久しぶりだ。怒っているわけではない。教育だ。
「貴方はいつもなら物事についてはっきりと仰います。それなのに和の娘のことになると途端に戸惑いが出る。貴方の悪い所ですよ」
紫苑は目線を下げる。秋人は続けた。
「それに。何も言わずに相手に思いが伝わるとお思いにならないでください。伝わるとすれば、十何年という長い年月共にいた人くらいです。何か言いたいことがあればちゃんと言葉にしてお伝えください」
「…お前も時々俺の立場のこと気にしないよな」
「これは側近である私としてではありませんから」
秋人は真面目な顔で言う。紫苑は苦笑いする。
「そうだな。幼馴染の言うことはちゃんと聞くか」
秋人は少し微笑んだ。
結亜は疲れたようで眠ってしまった。満足そうな顔に安心する。秋人が結亜を抱え、牛車に乗り込む。他の人たちも牛車に乗り込んだ。日和は兄妹を振り返って一礼する。
「ありがとうね、急な話だったのに。結亜様が満足していただけたのはお兄ちゃん達のおかげだよ」
「いいえ。こちらも楽しかったよ」
「日和もまた帰ってきてね」
「待ってるよぉぉぉ」
兄妹に見送られ、牛車は走り出した。
「ありがとう、日和」
沙良が礼を言う。日和はゆっくり首を振った。
「いえ。とても満足していただけたようで私としても嬉しいです」
日和は膝で眠る愛華の髪を撫でる。愛華もはしゃぎすぎて疲れて寝たようだ。紫苑が許してくれたので、起こさないことにした。
「結亜があそこまで楽しそうにしていたのは久々だな」
「はい。あの屋敷に移られてから毎日沈んでいましたから。…私のせいでもありますが」
沙良が暗い顔をする。日和は視線を愛華から沙良に移した。
「沙良さんのせいではありません。それが沙良さんの優しさですから。それに人手が足りなかったのもあると思います。これからは私達もいますから、少しお散歩でもしていきましょう」
「……そうね。ありがとう」
沙良は微笑んだ。




