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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
紅ノ宮編
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第五舞 妖姫

 紫苑が真剣にこちらを見つめている。


「…こいつが“妖姫“なのだろうか」

「あやひめ、ですか?」


 聞きなれない言葉が次から次へと出てきて頭が痛くなりそうだ。考え込んでいる紫苑の代わりに遠子が答えてくれた。


「“妖姫“とは人間と妖を仲介する者なの。妖の祓い屋を妖祓師と呼ぶんだけど、その妖祓師が害無き妖を祓わぬよう、また妖が害無き人間を襲わぬよう仲介し、時には“力“で裁くそうなの。とは言え、会ったことはないし、詳しいことは書物にも載っていなくて分からないことが多いの」

「だが、妖姫は妖には神と崇められる存在だ」


 少しは理解した気もする。しかし自分がその難しそうな立場である気はしない。今まで何も知らず暮らしてきたのに突然その立場に置かれるのはあまりに酷だ。そうと決まった訳ではないからあまり気にしすぎない方が今は楽で良い。


 それにしても、と日和は真剣に秋人と話す紫苑に視線を移す。見目麗しい、という言葉がよく似合いそうだ。この顔立ちで愛華の言う性格が完璧なのだとしたら、そりゃぁ魅力的だと思う。惹かれる人が多いのも頷ける。だが、日和はそう思わない。優しさを一つも感じない。お偉いさんとは皆そうなのだろうか。だとしたら今後あまり関わりたくないものだ。


「可能性があるだけで、現時点で断定はできません。無理な強制もできないかと思われます」

「だとしても妖力を持つことには変わらないだろう。それに白狐も特殊だからな」

「特殊?この白狐ちゃんがですか?」


 紫苑と秋人の会話に遠子が割って入る。日和もその言葉が気になった。


「ああ。本来妖に妖を祓う力など持っていない。だがこの白狐は噛み付くことで祓えるようだ」


 昨夜、子狐が鴉に噛み付いた時に鴉は黒いもやになって消えた。それが“祓う“ことなのだろうか。紫苑がふっと口角を上げる。その顔が悪餓鬼のように見えた。


「おい下女。お前と白狐で御苑に入ってくる妖を祓え」


 即座に日和は心底嫌な顔をする。面倒なことには巻き込まれたくない。


「私は妖祓師として妖を祓うと言う責務を全うしている。この世の妖を全て祓う。だが、ここ最近妖の凶暴化が急速に増えている。血の気が多い者もいるが、基本妖は大人しく暮らしている。だが昨日の犬や鴉のように目の前のものに噛み付いたり我を忘れたかのように誰彼構わず襲う妖が増えている。それにも関わらず妖祓師の数は圧倒的に少ない。とても祓い切れない。ならば、妖ではあるが祓う力を持っている白狐を使わない手はない。白狐はお前に懐いている。私はこいつと意思疎通が取れないからお前に任せる」

(つまり藤ノ宮様と子狐の通訳をしろ、という事か。面倒だ)

「では、この子狐が凶暴化してしまった時はどうするのですか?」

「私が祓う」


 紫苑が即答する。理屈は通っているが、なんとも強引だと思う。しかし、反抗したくても意見も言えず、逆らえないのが下女という立場である。


「……具体的にが何をしたらよろしいのでしょうか」


 日和は諦めた。納期まで大人しくしておくつもりだったが、そうはいかなさそうだ。この貴族のいうことを素直に聞いていたら無事帰れるだろうか。


 紫苑は日和が協力することに安堵したのか、見目麗しい顔を存分に使って優しく、とろけるような微笑みを浮かべた。


「出会った妖を片っ端から祓ってくれ。頼んだぞ」

「……………はい」


 優しい口調も気味が悪く、日和は気持ち悪い生き物を見るかのような顔で返事をした。

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