第六舞 部屋改造計画
翌日。日和はお使いを頼まれ、愛華と街に出ることになった。買い物は今まで人手が足りなかった為、武官が届けてくれていたそうだ。しかし今回は、侍女が二人増えたこと、結亜の部屋を変える為の材料を買うという日和の要望の為、出かけることになった。とはいえ、日和は生活必需品は選べても女子の趣味などには全く疎い為、愛華にも来てもらうことにした。愛華は街に出るのが初めてらしく、目を輝かせてわくわくしている。
お使いには武官が一人、護衛としてついて来てくれるそうだ。牛車が迎えに来てくれて、日和と愛華は乗り込む。その武官の名は宗悟。なんとも明るく、元気な人だ。
「街に出るなんて久々なんだ。楽しみだなあ」
「そうなんですか!私、初めてなんです。だからもう今日が楽しみで楽しみで!」
「本当か!」
宗悟と愛華は気が合うようであっという間に話が盛り上がっていた。日和はついていけず窓の外を見る。森の木々が颯爽と流れていく。雪葵が日和の頭の上から顔を覗いた。
「日和〜ぼーっとしているよ?」
「いいの。ぼーっとしたい時もあるんだから」
「それもそっかあ。あ、あのさ」
日和は雪葵を見る。にしても距離が近すぎる。
「初めて離れに来た時、何か感じた?」
「うーん、なんとなく、だけど」
宗悟と愛華に気づかれないように小声で話す。雪葵も感じているということは妖なのだろうか。最近になって以前より妖の気配が少しわかるようにはなってきたものの、まだはっきりとはわからない。
「でも襲ってくるような感じじゃなかったんだよね。なんて言うんだろ、そこにいるだけ、みたいな」
妖が視える者は妖の気配を感じることができる。それは妖力と比例し、下級妖の気配は小さく、上級妖は大きい。ただ、妖の階級が上がるにつれ、気配を自在に操れるようになるそうだ。気配を全部や一部消すこともできるらしい。雪葵が離れで感じた気配は大きかったらしい。つまり、それが妖力の一部だったとしても上級妖である可能性は高い。
「襲ってこないのなら良いんだけど。気にしていた方が良いかもね」
「うん、そうだね」
暫くして牛車が止まった。商店街に到着したようだ。宗悟が扉を開けてくれて、牛車を降りる。
宗悟は日和達の後ろを静かについて来てくれていた。女子の買い物には口を挟まないよう気を遣ってくれているようだ。
愛華はきょろきょろと辺りを見回しながら、途中何度も立ち止まるのを日和が引っ張る。お使いとはいえあまり時間はない。夕刻までには帰って沙良のご飯の準備を手伝わなければならない。急ぐ必要がある。日和達はまず布屋に向かった。
布団袋に使えそうな布を探す。たくさんの種類があるが、質が悪いものも多い。大きな商店街ほど、質の良い店や悪い店が混在している。それをしっかりと見分けないと損な買い物をしてしまう。
良い質の布を見つけた。綿で作られており、それなりに高価だが、沙良から貰った銀なら買えるだろう。柄も愛華曰く可愛いらしい。同じ布を布団袋以外にも枕用としても使いたい為、多めに購入した。
布屋を出て、商店街を歩く。すると愛華がある店に駆けて行った。日和が視線で後を追うとおもちゃ屋だった。愛華は一つのぬいぐるみを手に取って日和を呼ぶ。
「これ可愛いね!結亜様に似合いそう!」
桃色のうさぎのぬいぐるみ。顔が愛らしく、確かに結亜が好きになりそうだ。
「そんなに高くない…。愛華、買っていく?」
「うん!」
大きく頷いて愛華は桃、水、黄、紫色の同じぬいぐるみを抱える。日和は愛華の腕を取った。
「待って、そんなに買うの?」
「そうだよ。だって皆んなの分がいるでしょ?」
四体買えないことはないが、沙良に怒られないかと不安になる。あと単純に日和は欲しくない。けれど、愛華はさっさと店主にぬいぐるみを渡してしまった。日和は仕方ないと溜息をついて、支払いを済ませた。
最後に雑貨屋に来た。部屋の灯りを少しでも可愛いものにと思って店内を探す。日和には“可愛い“の概念がほとんどない為、どれが可愛いのかよくわからない。結亜の雰囲気が可愛らしいのはわかったがなんとなくである。ここは愛華に任せることにした。
「これ可愛いなあ。あ!これも良さそう〜」
愛華は店内をぐるぐると回る。日和はのんびりと回っていた。途中、ふとある物に目が止まる。それは簪だった。紫苑から貰った着飾りの品に比べれば品質は劣るが、普段から日和が使っている簪よりかは良い品だ。今使用している簪は少し壊れていて、丁度買い替えたいと思っているところだった。
いろんな簪を見ていると、愛華が隣に来た。顔を上げると白色の生地に花柄が描かれた灯りを持っていた。これに決定したようだ。愛華が簪を覗き込む。
「どれか買うの?」
「ううん。ただ、こんなのあるんだなあって思って…」
「よし、選んであげよう!」
「人の話聞いてくれます?」
愛華はもう簪を選ぶのに夢中になっていた。良い性格である、ある意味。
愛華からそっと灯りを回収している宗悟。こちらは気遣いができる正真正銘良い性格である。
少しして日和の前に一つの簪が差し出された。それは桜の花に型どられた木材が桃色に塗られ、それが銀色の簪の先端となっている。
「なんだか、日和っぽくない?」
そう言われても日和本人にはわからない。
悩んでいるうちに愛華はさっさと店主に灯りと簪を渡してしまった。
(この子の行動力は凄まじいわ…)
日和はまた諦めることにした。
夕刻頃に日和達は屋敷に戻ってこれた。愛華は結亜と沙良に買った物を見せている。その間に日和は四人分のお茶を淹れ、結亜の部屋に運んだ。丁度、ぬいぐるみを選んでいるところだった。
「あ、日和。ぬいぐるみどれが良い?」
「最後で良いよ。皆さんで選んでください」
結亜は桃色、愛華が黄色、沙良が水色を選んだ。日和は紫色のぬいぐるみを手に取る。そして暫くそれを怪訝な顔で見つめた。
(……紫って…なんの縁だよ)
早速買ってきた布を布団の大きさに合わせて切り、縫い合わせていく。愛華に手伝ってもらおうかと思ったが、裁縫ができないらしく、どうしようもないほど見事な縫い目を披露してくれた為、結亜のお守りとなった。
枕用を沙良に頼み、日和は布団袋用を縫う。大きい為、かなり時間がかかるが、枕用があっという間に終わったようで沙良が手伝ってくれた。
一時中断して夕食を摂り、また再開する。結亜が寝るまでにはなんとか完成した。結亜は可愛らしくなった部屋を見て嬉しそうに何度もこちらを振り向く。相当お気に召したようだ。
日和と沙良はへとへとだった。愛華が夕食の洗い物をしてくれて助かった。
結亜はぬいぐるみを大切に抱えていた。食事中もお話しする時も寝る時もずっと一緒だった。それだけ気に入ってもらえたようで嬉しかった。
「大丈夫でしたか?こんなにぬいぐるみを買ってしまって」
「全然。お揃いなんて初めてじゃないかしら。とても喜んでいらっしゃったから良かったわ」
沙良にそう言ってもらえて安心する。
灯りも無事気に入ってもらえ、買い物は大成功だった。




