序奏舞 プロローグ
小さい頃は幸せだった。あの頃に戻れたら、と何度思っただろうか。
暖かい場所はもうなくなっていて、寂しい部屋にしか居場所はない。外にも出れず、することはない。やりたい、という思いはどこかへ消えてしまった。ただ、何もせず毎日を過ごすだけ。
名前を呼ばれ、襖が開く。料理が運ばれてくる。栄養を考えているらしく、味は薄めだ。ただ箸を動かし、食事を口に運ぶ。無音の中で黙々と二人での食事。当たり前のようになって寂しさはない。
食事が終わるとまた何もない時間が流れる。会話をしようにも話題がなく、話も弾まない。以前は弾いていたお琴も埃を被っている。
起きて食事を摂り、何もない時間を過ごし、食事をして何もない時間を過ごし…。毎日毎日同じことの繰り返し。まるで同じ日を繰り返しているかのようだ。
周りは森。住む屋敷以外建物はない。少し行けば御苑が見えてくるが、歩ける距離ではないらしい。牛車などの乗り物はない。外は危険だと言われ、庭に出してもらうことさえできない。それなら、と外に出たい思いも消えていった。
夜になり、空に満月が見える。もし月に行けるのなら、どれだけ今とは違う非日常な生活ができるだろうか。月じゃなくても良い。今の生活が変わるのなら。届かないとわかっていながら、月に手を伸ばす。
(誰か…誰かこんな生活を壊して…)
少女はそう願っている。




