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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
紅ノ宮編
38/114

第三十八舞 妖姫の誕生

「というか、お前が一番気に病んでいることはそれと別の話なんだろう?」

「うっ」


 どこまでもお見通しということだろうか。雪男の観察力は鋭い。日和は手元に視線を落とした。


「狭間で下級妖が私がいることで妖祓師に対抗できるって言ってた。けれど私にはそんなつもりはない」


 その話だけで人間と妖の板挟みになっている状況を察したのだろう。雪男は顎に手を当てる。


「私はどうしたらいいのかわからない。人間の味方なのか、妖の味方なのか。蛇神様には私が答えを見つけられなければならないって。そんなことはわかっている。けど、いくら考えても答えが見つからないんだ」


 雪葵は心配そうに日和を見るが何も言わない。ただ静かに見つめている。雪男も日和を見つめた。


「お前は人間だ。それは揺るがない事実でこれからも変わらないこと。だからそこで悩む必要はない」


 日和が顔を上げ雪男を見る。雪男は視線を鳥が羽ばたいている青い空に移した。


「だが、妖姫は本来人間と妖とを仲介する役割を担っている」

「うん」


 日和は頷く。雪男は厳しい目で日和を見た。


「妖姫のこと、知りたいか?」

「…うん。私は自分が何者なのか知りたい」

「……戻れなくなるぞ。自分を役割で縛ることになる」

「いいよ。もう既に戻れなくなっている。私が妖姫であるのなら、その時点でもう後には退けない」


 日和の意を決した瞳は雪男を捉えていた。すると雪男の表情が少し和らいだように見えた。


「分かった、話そう。妖姫とはなんなのか」


 雪男が話し始めた。


「今から八百年前。元々人間と妖の世界はそれぞれ別のところに存在していた。けれど、徐々に近づいてきて二つの世界が交わるようになった。それが今の世界だ」


 八百年前という単語に日和は実感が湧かない。そんなに前から妖は存在していたのだ。


「妖は人間の世界に入り込んだ。しかし、妖の視える者などごく一握り。視えない人間にとっては、妖の世界はないと同じこと。二つの世界が交わったなんて考える奴なんてほとんどいなかった」


 妖が視えないのならば妖の世界も知らない。視えないのならばいくら世界が交わっても存在を知ることはない。


「妖は人間を驚かしたり、襲ったりし始めた。視えていなくても人間は傷つくことはある。人間はこの現象を恐れた。反対に害のない妖を祓おうとする妖祓師も現れる。二つの世界の均衡が崩れれば、世界も崩れるかもしれない。そう考えた人間が妖と人間を仲介する存在が必要だと考えた」

「それが、妖姫だと?」


 雪男が頷く。


「仲介する者は妖でもあり、人間でもあるのが好ましい。初代の妖姫は妖と人間、両方の血を持っていた」

「両方の血?妖力が強い、というわけじゃないの?そんな人物、どうやって…」

「ちょうどその頃、妖と人間との間に子が為されていた」

「え……」


 日和と雪葵は絶句する。人間と妖の間に子が?そんなことかできるのか。


「その子供は妖でもあり、人間でもある。その子供が妖姫とされ、仲介する役割を担った」


 あまりに壮大な話で日和は息を呑む。言葉が見つからない。


「ただ、初代妖姫の体は人間だった。妖のように何百年何千年とは生きられない。ほんの四十ほどで亡くなった。だが、次の妖姫が生まれた。その妖姫が亡くなるとまた次の妖姫が生まれた」

「妖姫は途絶えることはないってことなのね」

「そうだ。お前が死ねば別の誰かが妖姫になるだろう」


 信じられない話だが、信じる証拠はあった。自身が妖姫であることだ。


「話はそれくらいだ。とにかく、お前がするべきことは妖姫として害のない妖や人間を守ること。そして害を為す者には力で裁くこと」

「力で裁く…?」


 日和に妖と対峙できる力はない。雪男も苦い顔をしながら、饅頭の最後の一口を頬張る。


「お前は歴代の妖姫の中でも妖力が弱い。今の状況じゃ中級妖にも喰われるだろうな」

「…じゃあどうしたらいいの?」

「俺にはわからん。修行が必要なんじゃないか?」

「しゅ、修行…」


 やらなければならないことが増えたようだ。具体性は全くないが。


「あと、一つ」


 雪男が人差し指を突き立てる。


「妖姫が縁を結べるのは八妖樹のみだ。もし八妖樹に出会うことがあれば縁を結ぶのも強くなる一つかもしれない。まあ結べたらの話だが」

「雪男は?」


 日和の問いに雪男はそっぽを向く。


「…まだその時ではない」

 雪男は立ち上がると、手で追い払うような仕草をする。厄介払いのように見え、苛立った雪葵がその手に噛みつこうとしたが華麗に避けられていた。


「ほら、話は終わりだ。さっさとここから出ていけ。さようなら」


 突然雑にあしらわれたが、たくさんのことを教えてくれたのだ。感謝の印にさっさと帰ろうと建物から降りる。日和は振り返り、屋根を見上げる。


「話、教えてくれてありがとう。自分で考えてみるよ」


 日和が手を振り、雪葵と歩き出す。二人の姿が見えなくなって、雪男は呟いた。


「これも俺の役割なんだよ」

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