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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
紅ノ宮編
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第三十一舞 葉ノ宮

 日和は腕飾りを葉ノ宮に届けにいく。けれど何故か後ろに見目麗しい人がついてくる。


「あの、藤ノ宮様。お仕事はよろしいのですか?私のせいで中断させてしまっているのではないのでしょうか?」

「今は丁度休憩中だ。少ししたら祠を見に行くよ」


 だからってついてくる必要ないだろうに。そう言ったら紫苑を怒らせそうなので、黙っておくことにした。


 沈黙になる。日和は別に居心地は悪くないのだが、話しかけるべきかと悩む。何か話題を探し、話しかける。


「藤ノ宮様。葉ノ宮様とはどのような御方なのですか?どのような仕事をされているのか存じていないもので」

「葉ノ宮か。あの人こそ貴族というのに相応しい方だ。いつもはおおらかで気さくな方に見えるだろうが、裏ではどれだけ仕事に熱を入れているか。葉ノ宮は軍事に関するあらゆることを任されている。それがいかに大変なことか。それをあの御方は表に出さず、淡々とこなしてしまう。あのような凄い方は他にはいない」

「…よほど凄い方なのですね」


 思いがけない熱量に日和は後退りしそうになる。しかし葉ノ宮という方を理解することができた。


「顔は整っているし、あの性格から女性にかなり人気ではある。男からは多大なる信頼を寄せられている」

「顔の良さや、女性からの人気は藤ノ宮様の方が勝っていると思いますけどね」


 日和がぼそっと呟くように言う。あんなに黄色い歓声を浴びているのはこの人だけだろう。自慢げになるかと思いきや、少し眉を寄せていた。まるでそれが嫌かのように。


「どうだかな…」

(ありゃ?)


 予想が外れ、調子が狂う。これ以上その話を踏み込むべきではないか。話を戻す。


「ですが、葉ノ宮様が黄色い歓声を浴びているのを見たことありませんね。そもそも姿をあまりお見かけしたことないです」

「葉ノ宮は武家の出身である為、軍事の仕事を担っている。主に巡苑組という軍事の屯所と屋敷の往復だからな。女性と会う機会も少ないだろう」


 なるほど、と日和は納得する。武家は剣術を生業とする武士の一族である。軍事を任されるわけだ。


 会話が終わる。次の話題を考えていると紫苑が口を開く。


「髪、まとめているんだな」

「?はい。仕事上、邪魔になってしまうので」

「短くすることは考えないのか?」

「できればそうしたのですが、姉からは反対されておりまして」


 紫苑が首を傾げる。


「何故だ?」

「髪が長い方が舞踊で映える。後、男性に好かれる、だそうです」


 そう言うと紫苑は意外そうな顔をした。そして少し表情を曇らせる。


「…やはり、お前も女なんだな」

「?まぁ、私的には好かれたいとは思いませんがね」


 紫苑がキョトンとする。表情がころころ変わる人だなあと日和は少し可笑しく感じた。


「女は好かれたいと思うものじゃないのか?」

「偏見すぎませんか?それなら男性も同じなのでは?まあ、私は男性に興味ありませんので」


 紫苑が袖で口元を隠す。けれど目が笑っているのに気づいた。日和はムッとする。


「ふふっ」

「何が可笑しいのでしょうか」

「すまない。ただ、面白い女もいるのだなと思ってな」


 自分の何が面白いのかわからず、馬鹿にしているのかと紫苑を睨む。


「面白い話を聞かせてもらった。感謝する」

「解せません」

「そうか?私としては面白かったぞ」


 何故か余裕な笑みを浮かべる紫苑に腹が立つ。日和の心を感じ取ってくれたのか、紫苑の手に雪葵が思いっきり噛みつく。


「痛あああ!離せ!この野郎!」


 手をぶんぶん振って雪葵を振り払おうとするが、雪葵も懸命に噛みついている。そんな光景を見て日和は思わず吹き出してしまった。


「ふふっ」


 紫苑と雪葵が驚いたように日和を見る。かと思うと雪葵が日和に飛び込んでくる。


「日和が笑った!笑ったー!」

「…笑ってない」


 表情を戻した日和に抱きつく雪葵とポカンとこちらを見る紫苑から視線を逸らす。日和だって笑わないわけではない。笑う場面が無かっただけだ。それなのにそんなに突っ込まれると、気恥ずかしくなってくる。


 居心地が悪くなった日和は早足でその場を離れる。


「藤ノ宮様。ご協力ありがとうございました。ここからは私達だけで大丈夫です。失礼致します」

「そうか。…お前に渡した簪、大切に持っておけよ」


 紫苑はそう言うと手を上げて歩いて行った。日和は疑問に思いつつ、葉ノ宮を探しに戻った。



 先に遠子を探す。遠子を見つけると腕飾りを発見したことを伝え、二人で葉ノ宮の元に向かうことにした。葉ノ宮は仕事の為、屋敷にいるらしい。普通、侍女だけでは他の貴族の屋敷には入れない。特別な用がなければ。葉ノ宮の侍女に紅ノ宮からの使いだと話す。嫌そうな顔をされたものの、通してもらえた。執務室に行くと、葉ノ宮は机に向き合っていた。声をかけると、葉ノ宮が立ち上がる。


「あぁ、悪いな。仕事を放棄はできなくてな」

「いえ、構いません。こちらがお探し物ですか」


 なるべく小声で会話をする。葉ノ宮は腕飾りを見ると、嬉しそうに腕飾りを受け取る。嬉しさで自然と声が大きくなる。


「これだ!良かった〜。本当に助かったよ、ありがとう!いや〜これで怒られなくて済む…」

「誰にでしょうか」


 安堵していた空気が一瞬で凍りついた。葉ノ宮は青ざめ、遠子は顔を引き攣らせている。日和は声の主を見る。そこには緑の着物に身を包んだ女性が一人立っていた。雰囲気からして怖い。葉ノ宮の目が泳ぐ。


「か、佳奈子…」

「何かこそこそされているとは思っていましたが、また失くし物ですか?しかも大切な着飾りの品ですか?」

「いや、これはだな」

「日和、行きましょう。葉ノ宮様、失礼致します」


 遠子が日和の手を取ってそそくさと歩き出す。葉ノ宮が助けを求める顔をしたが、そこまでは助けてあげられそうにない。佳奈子の横を通り過ぎる際、佳奈子がこちらを鋭い目で睨んでいるのに気づいてしまった。


「ご協力感謝するわ、遠子」

「…いいえ、どう致しまして」


 お互いツンとしていて冷たく言葉を言い放っていた。


 葉ノ宮邸を離れ、紅ノ宮邸に戻ってきた。遠子は足を止め、大きく息を吐く。


「あの中にいたら窒息して倒れそうだったわ」

「良かったのでしょうか。葉ノ宮様を放置してしまいましたけど…」

「私達が協力できるのは探し物をするところまでよ。後は葉ノ宮の問題だから口を挟めないわ」


 意外だな、と日和は思う。遠子は困っていたらとことん手を差し出すと思っていた。自身の立場を考えてのことなんだろう。もし遠子が葉ノ宮の侍女であった場合は違っていたはずだ。果莉弥の侍女である手前、出過ぎたことをするわけにはいかないのだ。


 あれから葉ノ宮がどうなったのかはわからない。ただ、昼間の仕事を徹夜しなければならなかった、ということだけ聞いた。

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