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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
紅ノ宮編
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第二十九舞 探し物

 葉ノ宮の話は衝撃的だった。


「着飾りの品を失くしてしまったと」

「…あぁ」

「遠子さん、大丈夫ですか?顔色悪いですけど」

「え、えぇ、大丈夫よ」


 遠子が真っ青になっていることからして、かなり一大事であることがわかる。しかもその失くした物というのが… 。


「葉ノ宮様が遊華演会で身につけられていた品であると…」

「…はい」


 相当落ち込んでいるようで葉ノ宮も敬語になっていた。


「思いつく所を全て探したんだが見つからず…。早く見つけないと佳奈子に知られたらどうなるか…」

「佳奈子、さん?」

「葉ノ宮様の侍女頭よ。自分にも厳しく他人にも厳しい人なの。それが葉ノ宮様も例外ではないわ」


 遠子が呆れたように溜息をつく。こんな遠子を見たのは初めてだった。怖い人なんだろうなと日和は想像した。


「頼む。探すのを手伝ってくれないか!佳奈子に内緒で!」


 葉ノ宮が手を合わせて頭を下げる。日和は遠子を見る。遠子は頷いた。


「もちろんです。お手伝いさせてください」

「あ、ありがとう‼︎」 


 葉ノ宮が今度は深く頭を下げた。


 葉ノ宮と分かれ、着飾りの品を探す。日和は遠子に聞いた。


「良かったんですか?」

「えぇ。葉ノ宮様がお困りなのを知って何もしないなんてできないもの。きっと果莉弥様もそう仰るわ」


 本当に良い人だなーと日和は心から尊敬する。


 しかし容易に見つかるものではなかった。落とした場所の検討がつかず、苦戦していた。


「葉ノ宮様は思い当たる所を全部探したんですよね?他にどこがあるのでしょう」

「そうねー。手当たり次第に探すしかなさそうね」

「でしたら私達も分かれて探しますか?その方が効率が良い気がします」

「…そうね。ごめんなさい、御苑を案内するって言っていたのに」

「いえ、気になさらないでください。お困りの人を放っておけないのは私も同じです。それに探しながらでも探検になりますから」


 申し訳なさそうな遠子に日和が笑いかける。遠子も微笑んだ。


「ありがとう。それじゃあ、分かれましょうか」


 日和は雪葵と共に着飾りの品を探していた。御苑は思っていたよりも広い。


「葉ノ宮様の着飾りの品って腕飾りだったよね。あんなのどうやって失くすんだろう」


 遊華演会の時、侍女たちが身につけていたのを思い出す。細い手首に装飾の入ったゴツい腕飾りをつけていた。圧倒的な存在感を放っていた。あれを失くす理由が思いつかない。


 御苑を囲む壁の脇に少し大きめの池を見つけた。日和は近寄ってみる。ありそうではないが、そこに沈んでいるのかもしれない。日和は持っていた紐でたすき掛けをして池に手を突っ込んだ。水が濁ってきて目視では確認できなくなる。


(流石に葉ノ宮様はこんなことしないよな。…うーん、手応えないなー)


 諦めて手を抜こうとした時だった。


「おい、何してる!」


 後ろから声が聞こえたかと思うと襟を掴まれ、後ろに引っ張られた。ドスっと地面に尻もちをつく。


「…う〜何さー」

「それはこっちの台詞だ」


 聞き慣れた声であることに気づくと振り向く。後ろには紫苑がいた。紫苑がそそくさと日和から離れていく。雪葵が唸っているのを尻目に紫苑は日和を見る。


「またお前か」

「藤ノ宮様。何していらっしゃるのですか?」

「だからそれはこっちの台詞だ!お前こそ何してる!」

「私は探し物をしています」

「池の中にか?」

「違ったようですけど」


 紫苑は大きな溜息をついた。


「探し物をするのは結構なんだが、紛らわしい行動はやめてくれ。池に落ちそうになっているのかと思ったぞ」

「ご心配おかけして申し訳ございません。ただ池の中を調べていただけでした」

「…池の中に手を入れるのもやめてくれ。周りから見ればただの変質者だ」


 日和の片腕が泥だらけになっている。周りのことを全然気にしていなかった為、日和はハッとする。


「確かにそうですね。ご指摘ありがとうございます」

「……」


 怪訝な表情をされたが、気にしないでおく。


「それで、探し物って一体なんだ?」


 水場に移動すると何故かついてきた。隠すべきだろうか。同じ貴族なら何かわかるだろうか。


「葉ノ宮様の着飾りの品です」

「……はあ〜」


 今度は盛大な溜息をつく紫苑。日和は顔を顰める。


「どうしたんですか?」

「あー、いや、また失くしたのかーと思って」

「また?」


 紫苑は呆れたように肩を落とす。


「あの人、よく物を失くすんだよ。大切な物ほど失くしている」

「…タチ悪くないですか?」

「割とな」


 少々日和の口が悪いのは咎めないらしい。紫苑は同意した。


「んで、なんでお前が探しているんだ?葉ノ宮の侍女ではないだろう?」


 遠子さんとの話を伝えると紫苑は納得する。


「確かに遠子ならいいそうだな。お節介というかなんというか」


 他の人から見てもお節介…もとい世話好きに見えるらしい。良いことである。


 日和は腕を組んで考える。一体どこに落としたのだろうか。


「どこまで探したんだ?」

「私はほとんどまだです。しかし葉ノ宮様は思い当たる所を全て探しても見つからないと仰っていたので、他に探す場所が見当たりません」


 葉ノ宮の思い当たる所がどこかはわからないが、恐らく自身の屋敷や遊華演会が行われた広場は探しているだろう。

 紫苑は少し考え込むと日和を見た。


「遊華演会が行われた広場にある可能性が高いかもな」

「ですが、流石に葉ノ宮様が既にお探しになられたのでは?」

「いやあの人、探している物が目の前にあるのに、見つからないって嘆くような人だからな」

「……」


 日和はもう何も言えなかった。


「私ではその広場には行けませんね」


 御所内のその広場には通常侍女だけで入ることはできない。主の付き人か、催しがある時にのみ入ることが許される。


「なら、私も一緒に行こう」

「え、ですが…」

「入りたいのだろう?」


 紫苑が勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。確かに貴族が一緒ならば入れる。けれど…。日和はあの勝ち誇った笑みに抗いたかった。しかし、状況的には諦めるしかない。


「……わかりました。よろしくお願い致します」

「おい、その間はなんだ」

「なんでもございません。行きましょう」


 日和はスタスタと歩き始めた。雪葵は日和の頭の上で紫苑をじっと睨みつけていた。

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