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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
紅ノ宮編
28/114

第二十八舞 休息を

 少し暑さが滲んできた頃。


「日和ってさ、御苑内を見て回ったことある?」


 真菜の問いかけに日和は首を振った。


「仕事で回るくらいでしたら…」

「だったら折角だからゆっくり探検しておいでよ!」

「え?あ、真菜さん?」


 箒を真菜に奪われる。そして屋敷の外に連れ出された。他の侍女にも出会ったが、誰もそれを止めなかった。


 屋敷の玄関では遠子がいた。遠子は日和の手を取る。


「遠子さん?いやでも、仕事をしないと…」

「今日のお仕事は御苑の見回りよ」

「屋敷の仕事は私たちに任せなさい」


 紗綾と伊万里が手を振る。日和は訳がわからないまま屋敷から連れ出された。


 日和は諦めて遠子について行く。溜息をつくと、遠子が日和を見た。


「どうしたの?」

「…私、お邪魔だったでしょうか。皆さんに追い出されて…」


 そう言うと遠子はふふふっと笑った。


「違うわよ。むしろ働きすぎて心配になるくらい。日和、本当に真面目なんだもの。皆んな、日和に息抜きしてほしいのよ」

「私ってそんなに働いていますか?」

「ええ、とっても」


 日和は首を傾げる。皆がお茶を飲んだりおしゃべりしている時に、部屋の隅が気になって掃除したり、喋りながらも洗濯の手は止めなかったりはしていたが、まだ仕事をし切れていないと思うほどである。


「だから今日くらいは息抜きしましょ。私が御苑を案内するわ」

「でも遠子さんも仕事が…」

「紗綾達が任せてって言ってくれているから大丈夫よ。それに日和、色々考え込んでいるでしょう?ゆっくり外の空気でも吸いましょうよ」


 そこまで気を遣ってくれているのなら、これはもう思う存分休むしかない。日和はお言葉に甘えて探検を楽しむことにした。


 日和が侍女になってから二ヶ月程経ったが、毎日仕事しかしていなかった為、御苑のことを何も知らない。下女も侍女も仕事が主であるからして、日和としては今まで御苑を回ってみる気もなかったわけだ。


 雪葵も連れて外を歩いていると見覚えのある人が俯きながらウロウロしているのを見つけた。


「葉ノ宮様だわ。どうしたのかしら」


 遠子と日和は葉ノ宮に近づいて声を掛けた。


「葉ノ宮様」

「!あ、あぁ。紅ノ宮の侍女か」

「はい。どうかされましたか?」


 葉ノ宮がうっと顔を引き攣らせたが繕った笑みを浮かべる。


「し、仕事さ、仕事。少し考え事をしていてね」

「左様でしたか。お邪魔してしまい申し訳ございませんでした。では失礼致します」


 遠子が頭を下げる。日和も続いて頭を下げた。顔を上げて先に進み出すが、葉ノ宮が妙に焦っているように見え、日和は足を止めた。


「何かお困りでしょうか?」

「え⁉︎」


 図星を突かれた顔をする葉ノ宮。けれど彼は慌てて否定しようと頭を横にブンブンと振る。


「いやいやいやそんなことない。平気だ平気。大丈夫、大丈夫…」


 だんだん言葉に勢いがなくなっていく。まるで自分に言い聞かせているようだ。遠子も流石に怪しいと感じたのか足を止める。けれど日和の肩に手を置いた。


「葉ノ宮様がお困りよ。私達にお話できないことも多いはずよ。これ以上は失礼にあたるわ」

「…そうですね。私達は葉ノ宮様の侍女ではありませんし、配慮不足でした。申し訳ございませんでした」


 日和は遠子の意図を汲み、深く頭を下げると今度は振り返らず歩いて行く。すると後ろから声が飛んできた。


「ま、待ってくれー!」


 振り返ると葉ノ宮がバタバタと追いかけてくる。そして言いづらそうに頭を掻く。


「き、君達だからこそお願いしたいことがあるんだ」


 遠子と日和は話を聞くことにした。

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