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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
紅ノ宮編
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第二十六舞 お使い

 あれから数日。雪葵に変わった所はない。楽しそうに御苑内を走り回ってる。それと対照的に日和の心は沈んでいた。


 自分が無力であること。そんなことは初めからわかっていた。妖を認知したのも妖力を感じるようになったのもついこの間だ。周りの妖力なんて正直ほとんど感じられない。妖や妖力を持つ者という認知があって初めてなんとなく感じられる。そんな自分が妖姫などという立場であることが莫迦らしい。もっと他に適任がいたのではないのだろうか。


 妖を祓うことだって好きで祓っているわけではない。上からの命令だ。日和に祓う理由なんてない。祓うことに意味があるのだろうか。考えても答えは見つからず途方に暮れる。


 そんなことを考えているせいか、仕事も捗らない。そんな時、真菜に呼ばれ、遠子の部屋に着く。遠子は紙にさらさらと何かを書いていた。


 今の世の中、紙は高級品と言われている為、なかなか使える者ではない。さすが貴族様だなあと思った。


「二人にお使いを頼みたいの。これをお願いね」


 そう言って、遠子からの書き付き《メモ》を二枚、真菜が受け取る。真菜に続いて部屋を出ようとした時、遠子に声を掛けられる。


「日和。気分転換でもしておいで」

「…ありがとうございます」


 心配をかけてしまっていたらしい。日和は礼を言って部屋を出た。


 御苑を出る際は、普段の着物とは別の物を着るらしい。普段は自身の所属を示すために、屋敷の色の着物を身に纏っているが、その鮮やかな着物の格好で街に出ると目立ってしまう。それに単に動きにくい。その為、質素な着物に着替える。日和にとって着慣れた着物で懐かしさを感じる。


 屋敷の入り口には武官が一人立っていた。侍女が外に出る時は護衛が必要らしい。その足元で雪葵も座って待っていた。日和は雪葵を手招きし、御苑の門に向かう。書き付きの一枚を門番に渡す。御苑の外に出る為の許可証なのだろう。書き付きを受け取った門番は門を開けてくれた。


 昼間の商店街はかなりの人で溢れかえっていた。


「うわぁ〜!今日も賑わっているね!」


 真菜が楽しそうに飛び跳ねる。この商店街は御苑近くにあり、商店街の中では国一番の大きさを誇る。ここを更に奥に行けば花盛りの街、日和の育った街がある。その為、この商店街は花の商店街と呼ばれている。花盛りの街に行かないのは日和にとって安心だ。今は顔を合わせる気分ではない。


「えっと〜、まずは、化粧品から〜」


 真菜は慣れた様子で商店街の商品を見ていく。日和も何度も来たことがある為、店や商品の配置はある程度把握していた。けれど今回は真菜に任せて気楽に歩くことにする。


 化粧品の店につく。白粉、紅など、たくさんの種類が並び、白粉だけでも数種類ある。けれど真菜は迷わず一つ手に取った。


「おばさん、これください!」

「はいよー」


 真菜は売り手に銀を渡す。日和は真菜に話しかける。


「いつもこうやって果莉弥様の物や屋敷に必要な物をここで買っているんですか?」

「うん、そうだよ!ここは種類豊富だからね。何でも揃う!」

「商売人が御苑に来ているのですから、そこから買えば楽なのでは?」


 真菜は顔を曇らす。


「うーん、まあそうなんだけどね。前はその商売人から買ってこうやって買い物はほとんどしていなかったんだけど、一回、衣類に毒針が仕込まれていたことがあってね。商売人が犯人ではなかったんだけど、信用無くしちゃってさ。こうやって多くの人が買う商品の方が安心かもって話になったの」


 貴族向けに販売すると決まっていれば、貴族殺害を目論んだ輩が毒を忍ばせる可能性は上がるだろう。それに比べたら、不特定多数の人が買う品物はいささか安心だといえる。大量殺害や無差別殺人を目論む人がいなければの話だが。


 次は菓子だ。書き付きにはどれも甘い菓子ばかり描かれていた。果莉弥が好きな物だ。これだけ甘いものを食べるのなら、口直しに塩気が欲しくなるなと思う。


「良い匂い〜」


 最後に饅頭の店に来ていた。ここも御用達だそうだ。


「おじさーん、饅頭くださーい」

「あいよー。よかったね、最後の一個だよ」

「え、ほんと?良かった〜」


 ここの饅頭は果莉弥が一番好きな菓子らしい。真っ白なもちもちの生地に粒あんがぎゅうぎゅうに詰まっている。暖かいともちろん美味しいが、冷めても美味しさが変わらない、と大人気の饅頭である。日和が毎日のように通っても一度しか食べれたことのない幻のような品物。無事買えて真菜は満足そうだった。

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