表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
紅ノ宮編
24/114

第二十四舞 交流

 紅ノ宮の侍女達が退場すると休憩という名の交流時間になる。いろんな方々と話せる良い機会らしい。


 ふと屋敷で大人しくしているよう言いつけてた雪葵は本当に大人しくしているだろうか。変に走り回って騒ぎを起こしたならそんなに面倒なことはない。大勢の目撃証言は噂として誤魔化せず真実としてしか捉えられない。


 相変わらず抱きつき合っていると果莉弥も一緒に抱きついてきた。奇妙な光景も果莉弥が加わることによって許される、雰囲気な気がした。


 苦しくなってきたので、団子から抜けて散歩をしていると背後から声を掛けられる。


「待て、そこの娘」


 足を止め振り返る。紫苑だ。見惚れる微笑みを向けてくるのだろうか。それは気持ち悪いからやめてほしい。


「何のご用でしょう」

「用がなければ駄目か?」


 紫苑が微笑む。日和は眉根を寄せる。


「滅相もございません」

「今日は白狐を連れていないのか?」

「はい」


 日和はさっさとここを離れたかった。周りの視線が刺さってくる。だと言うのに、紫苑はじっとこちらを見つめてくる。鬱陶しくなってきて睨みつけてやろうと顔を上げると、見つめていたのは優しい瞳だった。


「やはりその姿の方が美しい」


 そう言って、懐から何かを取り出し、日和に差し出す。


「…これを、渡そうと思って」


 紫苑の手には簪があった。銀素材で作られており、花が形作られている。簪にぶら下がっているのは紫色の珠だった。


「…えぇっと?」


 受け取って良いものなのか。周りの視線にそろそろ耐えられなくなってきた。これを受け取れば体に穴が開くかもしれない。


「受け取れま…」

「ふ、藤ノ宮ぁー‼︎」


 小さな影が紫苑に向かって駆けてくる。天ノ宮だ。


「天ノ宮。もう少し静かに走りなさい」

「だって僕を置いていったじゃないですか!一緒に行きたいんですぅ!」


 七織が涙目になりながら訴える。紫苑は天ノ宮の頭に手を置く。


「悪かった悪かった。さ、行こうか。では失礼」


 紫苑は日和に手を上げると天ノ宮を連れて去っていった。日和は手元を見下ろし、簪が置かれているのに気付く。


「…いつの間に」


 日和は周りに見つからないよう隠した。


 そろそろ遠子達の元へ戻ろうと足を進めていると、背後から何か視線を感じる。ゆっくり振り向くと黒い布を被った夜ノ宮が立っていた。


「…貴女が、最近紅ノ宮に入ったという侍女か」

「え、はい。そうですが…」

「そうか。…やはり…」

「?」


 日和は首を傾げる。零はくるりと背を向けるとそのまま行ってしまった。


「何あれ」


 元いた場所に戻ってくる。簪の話をすると、真菜がキラキラした顔で肩を掴んだ。


「凄いじゃん!」

「何がですか?」

「貴族の方から着飾りの品を頂けたことだよ!それにあの藤ノ宮様からでしょ!いいなあ」

「着飾りの品?」


 興奮している真菜とは反対に日和はきょとんとする。紗綾が日和を妬ましそうに見ながらも教えてくれる。


「着飾りの品っていうのは、その屋敷を表す装飾品のこと。果莉弥様ならこの首飾り。藤ノ宮様だったらその簪なの」 


 自分の手元にある簪に視線を落とす。そしてまた顔を上げた。


「頂いてもよろしいのでしょうか?私は藤ノ宮様にお仕えしていないのに」

「そこは気にしなくていいよ。果莉弥様は良い顔しないかもだけど、光栄なことだし」


 珍しく伊万里が口を開く。やっぱりなんだかんだ言って打ち解けているようだ。


「滅多にないことなんだけど、自分の侍女以外に着飾りの品を渡すっていうことは、その貴族の方がその人をお気に召したか、何らかのつながりを持ちたがっているか、なの。…悔しいことに」


 最後にぼそっと心の声が漏れている気がしたが、聞こえなかったことにしよう。


 お気に召した訳ではなかっただろう。つながりを持つということはやはり妖に関することだろうか。けれど殺意も不機嫌な感じもなかった、ように思う。変な人だと感じた。


「あらら、果莉弥様が怒ってしまうかもね」


 簪を見た遠子が苦笑いする。日和は首を傾げた。



 交流時間が終わり、外部からの出し物が始まった。休憩があったとはいえ、侍女には疲労が見え始める。それに比べ。壇上の貴族を見る。


(よくもまあ、あんな姿勢よく座り続けられてるなぁ。根性かなぁ)


 そんな感心も虚しく、暫くして壇上が騒がしくなる。まだ出し物の途中であるにも関わらず、侍女がバタバタしていた。あちこちに走り回っている。何があったのかと、周りもザワザワし始める。壇上から侍女が肩を貸してゆっくり人が降りてくる。黄色い衣装。菊ノ宮だ。出し物の最中に倒れてしまったらしい。菊ノ宮の顔色は悪かった。そして尋常じゃない汗を掻いている。彼女は広場から姿を消した。


「菊ノ宮様はお体が弱いって噂なの。最近は会合や茶会以外は屋敷から出ていないらしいよ」


 紗綾はこっそり教えてくれる。壇上に上がる際はそんな様子はなかったが、無理をしていたのだろう。


 夕刻、遊華演会は無事に終了した。無事、というと語弊があるかもしれないが、大きな問題が起こらなかった為、無事と言えよう。ただ、菊ノ宮は遊華演会が終了しても戻ってこなかった。こんな寒い中でじっとしてしているだけ。相当体への負担は大きかっただろう。


 ちなみに紫苑から貰った簪は果莉弥見つかってしまった。隠していたつもりはないが、没収はされなかった。ただ頬を膨らませられる。


「渡すかもと思ってたけど、絶対日和は渡さないからねー!行っちゃ駄目よ!」


 強く念を押されたが、日和には意味がわからなかった。


 やっと重い衣装から解放され、部屋に戻る。子狐姿の雪葵が座布団の上で丸まって眠っていた。大人しくしていたようだ。日和は雪葵の頭を撫でた。


 遊華演会が終わると、何事もなかったかのように平凡な日々が訪れた。あれ以来、菊ノ宮に関する話は聞かない。噂好きの愛華に聞いても何も知らないようだった。


 日和はいつも通りに洗濯や掃除に追われていた。暫くは会合や茶会はないらしい。忙しい日々はお休みだ、と日和は喜んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ