第二十三舞 遊華演会
すっかり桜が満開になり、祭り事を行うのに相応しい時期となった。
催しは御所内の南にある広場。御所の出入り口に近い場所にある。
広場は豪華に飾り付けされていた。様々な色の暖簾が下げられ、広場にあるただの岩にも装飾がされている。そこまでいるか、と日和は疑問に思う。
催しが豪華なら当然衣装も豪華である。装飾がやたらと付けられた衣装はものすごく重い。錘をいくつも付けているようだ。これで一日を過ごすのはなかなか酷だ。気が滅入りながらも着付けを進めていった。
化粧も会合や茶会以上に丁寧にやり終え、遠子達と共に執務室を訪ねる。そこには今までより更に美しくなった果莉弥が座っていた。侍女とは比にならないほど装飾のついた着物を纏い、煌びやかである。重みで潰れないのだろうかと、思わず心配してしまった。
「あら日和、似合っているわね」
「ありがとうございます。果莉弥様もとてもお似合いです。美しゅうございます」
「ふふ、ありがとう」
準備は全員既に終わっており、広場に向かうだろうと思っていると果莉弥に呼ばれる。側に近付くと、果莉弥の両腕が伸びてきた。シャランと音がしたと思うと首に銀の首飾りが下げられていた。中央には大きく赤い宝石が埋め込まれている。
「こちらは?」
「貴女が紅ノ宮の侍女である証よ。大切に持っていてちょうだい。さあ、行きましょうか」
見れば遠子達も同じ首飾りを付けている。なるほど、大切にしなければならない。
広場は既に賑やかになっていた。貴族に武官、天皇陛下ゆかりの客人。ここまで華やかなものだとは思っておらず、日和は少し緊張する。
貴族は特設の高い壇に座る。壇は向かい合って二つあり、三人ずつ座るようになっていた。壇上に上がり、指定の席に座るとその後ろに付き人として遠子が座る。他の侍女は壇の脇に待機していた。芸を披露する際は、出入り口が別にあるようだが、出番は暫く後だ。
他の宮も壇上に上がってくる。前回の会合では、彼らの顔を見る余裕などなかった為、ほとんど覚えていない。今回は、見ておいた方がいいだろうと壇上に目を向けた。
左端に果莉弥がおり、その隣は葉ノ宮だった。興味ありげに辺りを見回しては果莉弥に話しかけている。その隣には黄色の衣装から菊ノ宮だろう。
もう一つ壇に藤ノ宮が上がってくる。相変わらずキラキラした微笑みを群衆に振る舞っている。周りの侍女は皆見惚れていた。すると青い衣装の小さな少年が藤ノ宮を追いかけるようにして小走りで上がってきた。藤ノ宮に何か言われ、照れくさそうに笑っている。きっと、天ノ宮だ。あんなに小さいのにお偉いさんとは大変だなと同情した。
そうなると、一番右に座ったのが、残りの黒い衣装、夜ノ宮だ。衣装は真っ黒なのに煌びやかに見えるのは何故だろうか。こんなにも黒を着こなせる人がいるのだと日和は感心した。しかし、顔は薄い布で隠されている。視界が悪くないのだろうかといらぬ心配をしてしまった。きっと顔に傷があって見せたくないのだろう。
もう一つ壇がある。貴族の壇よりも装飾が派手なことから天皇陛下の壇だと伺えた。
「あちらの席は陛下のお席ですよね?」
隣にいた真菜に話しかける。真菜はうんうんと頷く。
「そうだよ。本来はあの席に内親王様と皇太子様もお座りになられるんだ。けれど、お二人とも今までの遊華演会は全部欠席かな。まだ幼いからだって聞いたことがある」
内親王と皇太子。つまり、今は亡き皇太后の娘と息子。随分と欠席の理由はいい加減だ。
「おいくつなんですか?」
「えっとねー、内親王様が齢十四で皇太子様が齢十だったと思う。あんまりお二人の話って出回らないんだよねー」
その歳なら参加できないこともないだろうが、天皇陛下は過保護なのだろうか。
武官と文官も並んでいる。こんなに人がいるとは思わなかった。日和は息を呑む。
「緊張しなくてもいいわよ。私達がいるし」
紗綾が優しい言葉をかけてくれる。少しは紅ノ宮の侍女として馴染めてきたのかもしれない。
最後に天皇陛下が壇上に現れ、席に着く。天皇陛下はこれまた凛とした顔立ちで豊富な顎髭を撫でている。天皇陛下が座ったのを合図に遊華演会が始まった。
四半刻が経った。以前、紗綾の言っていた意味がやっとわかった。
「…寒」
まだ春初め。気温は低く、風も吹いている。侍女達は姿勢を正しながら催しを見つつも震えていた。
「うぅ〜やっぱ寒い!」
演目と演目の間に毎回真菜が日和に抱きつく。少しでも暖を取ろうとしているらしい。日和もありがたく真菜に抱きついた。
それを見ていて羨ましくなったのか、紗綾と伊万里も抱きついてくる。団子のようになって周りから白い目で見られたことは間違いない。
付き人の交代の時間になり、名残惜しそうな紗綾が壇上に上がる代わりに遠子が降りてくる。奇妙な団子を見つけて呆れるかと思いきや、楽しそうに笑う。
「ふふっ、皆んな楽しそうね」
壇上から果莉弥が羨ましそうに頬を膨らませているのが見えた。悪目立ちしているので苦笑いしか返せない。
少し温まったので団子を崩す。そうしてまた出し物を見ていると、隣からの視線が気になった。見れば葉ノ宮の侍女である。ニヤニヤとこちらを見ながらこそこそ話している。前の茶会もこんなんだったなぁ。こんな催しの時でさえ、妬むの好きだなぁと感心した。
侍女達の芸の催しが始まる。日和達は最後の出番だ。準備の為、出入り口に向かう。
「私達の披露が終われば休憩に入るわ。その後は、外部からの出し物よ」
遠子が予定を教えてくれる。遊華演会はとても豪華な催しだと改めて感じた。
いよいよ紅ノ宮の出番である。音楽と共に踊り出す。桜の下で舞う彼女らは美しい。誰もがそう感じた。皆が見惚れ、魅了されていく。
日和は良い気分だった。自分達の踊りで誰かが楽しんでくれているのだから。外の空気というのも気持ちが良い。いつまでも舞っていられそうだった。
披露が終わると大歓声が巻き起こる。暫く拍手は鳴り止まなかった。




