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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
紅ノ宮編
22/114

第二十ニ舞 仲良し

 その後。


「あはははははははっははっははっ」

「笑いすぎですよ、果莉弥様」


紅ノ宮にて。気まずそうにお互いに視線を逸らしている日和と紫苑の前には笑い転げている果莉弥がいた。

横にはそれを宥める遠子もいる。


 結局お互い訳も分からず気まずくなってしまい、妥協案として共に果莉弥の所に来たのだ。それが間違いだった。事情を話すと果莉弥が大笑いしてしまった。お陰で段々二人の気まずさは増していた。


「だって、紫苑が、紫苑があはははははっ」

「そんなに笑うな!」


 紫苑は耐えられなくなったのか叫ぶ。日和は黙ったままだ。


「そもそも果莉弥が黙っているのが悪いんだろう!前もって言っといてくれたらこんなことには…」

「あははっ…だって、言ってしまえば日和が危ないんですもの。お願いしたのは私達ですし、日和を悪者にしたくなかったのよ」


 果莉弥は目元の涙を拭う。そこまで面白いことなのだろうか。


「お前も言ってくれたら良かったじゃないか」

「身分を隠すという条件がありましたので。そもそも言う隙がありませんでした。誰か様が自分勝手に話をしたかと思えば、さっさと行ってしまわれるものですから」


 言うつもりもなかったが。日和は紫苑の嘆きを横に流す。


(それにしてもこの二人、仲良さそうだな)


 言い合っている二人を見る。貴族は屋敷の名で呼ぶのだが。親しい仲なのだろう。


「まさか嫌っていた女子をべた褒めしていただなんて…あははは」

「…いい加減、口を開くな…」


 紫苑が額に手を当て溜息をついた。



 日和はふうと息を吐く。部屋へと戻ってきており、その前には雪葵が正座していた。


「袴を着ている少年、挙手」

「…はい」


 雪葵が小さくなりながら手を挙げる。日和は首を傾げる。


「どういうこと?どうして雪葵の人間の姿が他の人にも視えているわけ?」

「わ、わかんないよ〜。視えていないと思っていたから走り回ってたんだけど…」

「おかげで御苑を騒がせたけどね」

「僕のせいじゃないよ!」


 雪葵がぶーと拗ねる。人間の姿になれたのがよほど嬉しいのだろうか。


「失礼するわよ〜、いたいた〜」


 果莉弥が襖を開けて顔を覗かせる。


「果莉弥様⁉︎どうなさったのですか」


 まさか主が直々に侍女の部屋に来るとは思っていなかった。


「さっきのことで少しお話ししようと思って」

「でしたら、私が参りましたのに」

「いいのよ。たまには私に運動させてちょうだい」


 果莉弥は微笑んだ。


「それで、随分と大きな声を出していたようだけど何かあったの?」

「あー迷惑になっていましたら申し訳ございません。雪葵のことなんですが…」


 果莉弥に噂の少年が雪葵であったことを報告する。果莉弥の瞳が輝いた。


「そう、この子が雪葵ちゃんなのね!」

「果莉弥様にもお視えになりますか、はっきりと」

「えぇ。子狐の姿の時はぼんやりとしていたけれど、今ははっきり視えるわ」

「わーい!果莉弥にも視えてる!」

「こら!」


 喜んで果莉弥に飛びつこうとする雪葵の襟を掴む。


「果莉弥様に失礼なことしないで。あと呼び捨ても駄目」

「く、苦しい。じゃあ日和にくっつく!」

「わっ」


 雪葵が日和の手をすり抜けて飛び込んでくる。日和は体勢を崩す。


「あのねぇー」

「仲良しね」


 果莉弥が楽しそうに笑う。まあ、果莉弥に失礼がなかっただけ良かったとしよう。


「もう少ししたら遊華演会っていう大きな催しがあるの。そこには沢山の人が来るらしいから、絶対人間にならないでよ」

「…はーい」

「不服そうにしないの」


 雪葵が口を膨らませる。日和は果莉弥を見る。


「藤ノ宮様はもうお帰りになられたのですか?」

「えぇ。面白かったわ。その話なんだけど、藤ノ宮には気付かれてしまったけど、あの人なら周りに言いふらすなんてことはしないから安心してちょうだい」

「お気遣いありがとうございます」


 日和が頭を下げる。果莉弥はにこりと微笑むと部屋を出て行った。


 部屋でぼーっとしていて気付いたことがある。雪葵は人間の姿になれるのは短時間のみと言うことだ。またかなり体力を消耗するらしく、人間の姿になった日はすぐに眠ってしまう。そして長時間眠ったままなのだ。


 雪葵にとって人間の姿になることは体の負担になるはずなのに、本人は嬉しいようで起きては人間の姿になっている。いつか雪葵が倒れたりしないか、日和はそれが不安だった。

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