第二十舞 違和感
藤ノ宮邸ではお茶会が行われていた。相手は菊ノ宮、樹。美貌と男顔負けの逞しさを持つ。しかし女性らしい仕草、丁寧な言葉遣い。人によっては彼女が男か女か判別できないという。そんな彼女は御苑の中で下女や侍女から一番慕われているのを紫苑は知っている。
「もうすぐ遊華演会ですね」
紫苑は優しく笑う。果莉弥もそうだが、樹も紫苑の顔に見惚れない。執着してこない。紫苑にとってはやりやすい相手である。
「そうだな。その準備で周りが忙しいそうで、なんだか落ち着かないものだ。毎年感じていることなのだがな」
「菊ノ宮はじっとしているのが苦手でしたね。我々は特に動く必要ないですし」
紫苑が樹の後ろの侍女達を見る。侍女の横にある食べ物に飲み物。不審はないが、目につくのはもう暖かくなってきた春の室内だというのに分厚い毛布、飲み物の量の多さ、小さな木箱。
「ああ。周りが動いている中、私だけが何もしなくて良いというのはなんとも歯痒くてな。けれど動こうとすれば侍女に止められてしまう」
樹が困ったように笑う。けれどそれは信頼し、信頼されているのを理解しているようにも見えた。
「それはそうですよ。我々を働かせるわけにはいきませんから…」
「ごほごほごほっ」
樹が苦しそうに咳き込む。樹の侍女が主を支えたり、飲み物を用意していた。紫苑は目を細める。その迅速な行動は突然のことで動けるような速さではなかった。
「菊ノ宮。お体の調子がよろしくないのですか」
「ごほごほ…す、すまないな。少し風邪を引いているようでな。申し訳ないが、今日はここまでにしてもらって良いか?」
「えぇ、もちろんです。ゆっくりお休みください」
侍女に支えられ、樹は部屋を退出した。
「あの様子ですと遊華演会はかなり辛くなりそうですね」
紫苑の後ろに座っていた秋人が静かに言う。これでも秋人は彼なりに心配している。紫苑は表情一つ変えずに秋人に返す。
「そうだな。お前は気付いたか?」
「はい。しかし、もう少し様子を見てみないことには、動けないかと」
秋人の言葉に紫苑は沈黙で同意を示す。秋人が立ち上がる。
「この後訓練がありますので、失礼致します」
紫苑は「あぁ」とだけ答え、樹の消えた方向をずっと見つめていた。




