第六舞 天ノ宮2
七織と知音の足が止まる。日和達も話を止めると目の前の光景に感嘆の溜息を漏らした。
首が痛くなる程見上げなければ頂上まで見えない門。御苑の貴族邸も豪華ではあったが、それとは比べものにならない。
入ることのない規模の屋敷に日和と遥希の顔が歪む。緊張する所の話ではないのだ。しかし七織と知音は何ともなく進んでいく。遅れをとらないよう、歩くしかなかった。
この屋敷の侍女が現れ、待合室へと案内される。部屋に入ると侍女は主人に来客を伝える為、扉を閉めて行ってしまった。襖には大きな虎や鳥の絵があちらこちらに描かれており、部屋の中央に腰を下ろして待つが、何とも落ち着かない。
「…なんか、色んな方向から常に見られているみたい」
「さっさと終わらせて早く帰りてぇ」
早く帰りたいが交渉するのは七織である為、日和達にできることはない。ただ懇願するだけだ。
せっかくの機会だ。気になっていたことを口にする。
「侍女の方々は随分と賑やかですね」
「そうだろう。こちらが元気をもらっているくらいだ」
笑顔で答える七織。日和は続ける。
「お見送りのご様子を拝見しましたが、かなり慕われているようですね」
「あ、ああそうだな」
「一度貴族の方に聞いてみたかったのですが、ご自身が留守の間、屋敷が心配になったりしませんか?」
「……」
七織から笑みが消え、黙り込んでしまった。流石に踏み込みすぎたか。日和は頭を下げる。
「申し訳ございません。失礼なことを申しました」
「いや、いいんだ…」
知音も困った顔をする。そして七織に声をかける。
「天ノ宮の内情は噂にもなっております。藤ノ宮様が遣わした方々であればお話しされても…」
七織は少し考える。その後服装を正した。
「どんな噂を聞いている?」
「えぇっと…。天ノ宮の侍女は仕事をしないと…」
「……その通りだ。本当は屋敷が心配ではある。だから極力外に出たくない。けれどそういうわけにもいかないから任せている」
「恐らく、今屋敷はどんちゃん騒ぎでしょう。七織様や私が気づいているとも知らずに」
困った様子で溜息をつく七織。この歳で苦労しているなと感じた。
「それなら注意したらいいんじゃないですか?貴族の方に注意されれば侍女はそれに従うでしょう」
遥希がそう言うが七織は首を横に振る。
「僕がもっと大人だったら効果的だっただろう。けど僕は侍女達よりも歳が下だ。正直慕われているかも怪しい」
要するに舐められているようだ。あったはならない由々しきこと。早々に対策を練るべきだろう。
「侍女を丸々入れ替えるとか…」
大胆な発言をする遥希。だがそれが一番の最善策かもしれない。けれど七織は渋い顔をしている。代わりに知音が口を開く。
「七織様はこの事態はご自分に非があると考えていらっしゃるのです。そんなことないと申し上げても気になっているようで…」
自分が未熟だから、などと考えているのだろうか。日和は関わってほんの少ししか時間が経っていないが、遊華演会の様子を見ても、未熟者のようには見えない。むしろこの歳で御苑にいることに拍手を送りたいくらいだ。胸を張っていいことであるのに、目の前の壁がそうはさせてくれない。少し可哀想に感じてしまうのだった。




