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月明かりの妖姫  作者: 穂月千咲
藤ノ宮編2
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第三舞 恋の路

 紫苑から新たな任務の命を受けた。今回も遥希と行くよう命じられ、行く日時を決めるため、日和と雪葵は巡苑組屯所を訪れていた。それ程急ぎの任務ではないらしい。日程が合う時に行くように、とのことだ。


 屯所に着くと、武官の一人が遥希の元まで案内してくれた。


「遥希さん。日和さんがいらっしゃいました」

「通して」


 日和が部屋に入ると武官は丁寧にお辞儀をして去って行った。日和は首を傾げる。


「私にそんな丁寧にしなくていいのに」

「秋人さんの知り合いなんだから、そういう扱いにもなるよ」

「あっきーの知り合いで良かったね!」

「その呼び方するな!」

「とりゃ!」

「うわっ!だから近づくなって!」


 遥希をからかって楽しんでいる雪葵の首を摘むと外に投げ出し、話を始める。外でさも寂しそうに鳴く声が聞こえるが、恐らく空耳だ。


「新たな任務ねー」

「?嫌なの?」

「あーいや、嫌じゃないんだけど。…藤ノ宮様って日和のこと雑に扱い過ぎてない?と思って」

「そう?確かに色々と扱いが酷い時は多いけど、任務に関しては当たり前だと思ってる」

「あ……ソウデスカ」


 日和はお世辞を言うような人ではない。本心なのだろう。遥希は呆気に取られた。


 暫くして、日和は屋敷に戻ろうと腰を上げる。雪葵の声はすっかり聞こえなくなっていた。襖をちらっと開けて外を覗くと、嬉しそうに尻尾を振ったので、襖を閉めておいた。


「もぉー!日和ー!このこのこのー!」


 やっと部屋に戻れた雪葵は日和の肩に乗り、好き放題に叩く。日和は無表情で帰ろうと廊下を歩く。見送りだと遥希も来てくれた。すると正面から汗を拭きながら宗悟が歩いてきた。日和に気付くと元気そうに手を上げる。


「仕事の打ち合わせか?」

「はい、そうです」

「侍女も大変だなあ」

「そんなことありませんよ」


 軽い立ち話をしていると入り口の方で声が聞こえてきた。


「ごめんくださーい」


 その瞬間、宗悟が物凄い速さで入り口へと駆けて行く。日和は驚いて後を追ってみた。


「遠子さん!」

「あら、宗悟さん。皆さんに手土産をお持ちしたんです。良かったら」

「わあ!いつもありがとうございます!」


 今までに見たことない嬉しそうな宗悟の顔に物陰から見ていた日和は「はは〜ん」とにやにやしていた。


 遠子が皆に挨拶するそうで、宗悟がそれをるんるんで案内してる。日和は遥希を見る。


「遥希。……あれ何」

「ん?宗悟さん」

「いやいや。あまりに性格変わり過ぎじゃない?理由は分かるけど」

「あーー、分かりやすいよね。当の本人達は気付いてないみたいだけど。日常茶飯事だよ」

「えーーー」

「何なに!どういうこと?」


 雪葵だけが分かってないらしい。日和は「知らなくてもいいよ」と受け流した。


 こんなに分かりやすいのに、何故気付いていないのだろう。鈍感すぎやしないか。


「宗悟さんと遠子さん、昔からの幼馴染みのようなものなんだって。秋人さんの父親が開いてる道場に宗悟さん、拾われたんだと。遠子さんはよく道場で手伝いしてたらしいし」

「え?遠子さんが秋人さんの道場で手伝い?遠子さん、秋人さんの家の侍女だったの?」


 日和が驚き、そのことに遥希が驚く。


「あれ、聞いてねぇの?秋人さんと遠子さんは従兄弟」

「え、初耳!!」


 日和は思わず前のめりになる。二人が仲良さそうなのは前からなんとなく感じてたし、疑問に思っていたが、まさか従兄弟だとは。なんだか腑に落ちた。


「なるほどねぇ……ん?宗悟さんが拾われたって何」


 変なことを聞いたように眉間に皺を寄せる。雪葵はこの手に興味ないのか、廊下を駆け回っている。


「そのまんまだよ。宗悟さん、昔荒れてたらしいんだけど、その宗悟さんの死にかけている所を秋人さんとその父親が助けたんだとさ」


 日和は宗悟さんを見る。彼が昔荒れていた等、今の姿からは想像できない。


「昔の宗悟さんってどんな感じだったの?」

「あーー、俺が宗悟さんに会った時には既にあんな感じだったからなー。…あ、慎二しんじ


 遥希が前を通り過ぎようとした武官を一人呼び止める。


「はい?遥希さん。あ、確か日和さん、ですよね?話すのは初めてですよね。俺、監査員の慎二です。よろしくお願いしますね」

「え、あはい。こちらこそよろしくお願いします」


なんとも礼儀正しく気軽な少年に日和は少し圧倒された。


「お前って昔から秋人さんの道場にいるよな?宗悟さんってどんな感じだった?」

「副長の昔ですかー、それ知りたいなんて物好きですね。副長はもう人を寄せつけない感じでしたよ、一匹狼みたいな」

「えーーー」


 全然想像がつかない。日和は疑問を聞いてみる。


「じゃあ今はどうして明るい感じになったんですか?何か理由があるんでしょうか」

「あーーそれは遠子さんの影響ですね」

「遠子さん?」

「副長は昔は『鬼の人斬り』って呼ばれてたんです。誰構わず人を殺していたようで。それのせいで局長(秋人)やその父親以外誰も副長に近付きませんでした。けど、遠子さんは違いました。遠子さんは無視されても何度も菓子やお茶を持って行ってたんです。その健気さ、ですかね。副長が心を開いたようで、段々明るくなって今の副長になりました」


あの宗悟さんが人斬りだったこと、遠子さんの優しさ。色んなことを知ってなかなか整理がつかない。ただ一つだけ感じることがあった。


「皆さん、出逢うべくして出逢ったんですね」

「……そうかもしれないですね」

「日和、そろそろ帰らなくて良いのか?」

「あ、本当だ。お話聞かせて頂きありがとうございました。失礼します」


 日和は遥希と慎二に頭を下げると、屯所を後にした。



 それから数日後。屋敷周辺を掃除していると、宗悟が数人の武官と御苑内を歩いているのを見つけた。日和に気付くと近付いて来た。


「宗悟さん、お仕事帰りですか?」

「ああ。日和も仕事お疲れ様。先日は悪かったな。途中で放置しちまって」

「いえ。宗悟さんの面白いすが……こほん。嬉しそうな姿が見れて良かったです」

「面し、え?嬉し、え?そんな顔してたか」


 宗悟が動揺する。構わず日和は真っ直ぐ頷く。


「はい。顔だけでなく全身から滲み出てましたよ」

「え、えぇ?ええ?」

「…日和。宗ちゃんになんか恨みでもあんの?」


 雪葵に白い目をされたが、日和としては単純に宗悟の反応が面白いだけだ。


「宗悟さんは遠子さんのこと、いつから……」

「なあああ!そんなことない!」

「…まだ何も言ってません」

「あ」


 宗悟が固まる。冷や汗をかきだす。日和は心底面白かった。


「遠子さんの良い所ってどこですか?」

「あり過ぎて言い切れん。月が上るまで語っても良いか!」

「ひと言でお願いします」

「………遠子さんは優しい人だ。でもそれだけじゃない、優しさの中に強さを持っている。何せ、昔荒れていた俺にしつこい程話しかけてくれたのだからな」


 宗悟の瞳は優しく暖かい。きっと遠子の優しさと強さに大きく助けられたのだろう。


「それを遠子さんにお伝えしたら良いのでは?」

「何言ってんだ!そんな畏れ多いことできるか!」

「うぇ?あ、はい、すみません」


 予想外に言い立てられ、日和は後ずさりする。


「あ、そろそろ戻らねぇと。悪かったな、じゃあ」

「はい、お疲れ様です…」


 嵐のように帰って行く宗悟をぽかんと見つめる。けど、それだけ宗悟も優しい人なんだと感じた。

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