レッスン(一)
友香里は飽きずに、毎日曲を作っていた。
それにしても、こんなにも『毎日熱中』したことが、今までにあっただろうか。自慢じゃないが、日記は『三日坊主』なら長い方だ。
それは、やっと手にした『幸運の青い鉛筆』を、信じていたからかもしれない。
自分の『カラー』とは、やはり『赤』ではなく『青』だったのだ。
今から思えば納得だ。うんうん。
姉が着て『素敵だなぁ』と思った衣装を、姉にナイショでこっそり着たことがある。
それが不思議とどれを着ても、自分には似合わなかった理由がそれに違いない。多分。
だから一人で文房具屋に向かい、『青いノート』と『青い消しゴム』を追加購入して頑張った。
意外にもそれは意図も簡単に見つかったのだが、なけなしのお小遣いで買うのには気が引けた。
しかし、清水の舞台から下を覗き込む勢いで買った。後悔はしていない。
その甲斐あってか、友香里の新曲は売れた。
その様子を『飛ぶように』とは言い難いが、『売れに売れた』とは言える。胸を張ってニッコリと笑える程に。
何しろ前作と比べれば『三百パーセント増』なのだ。
つまり四倍だ。我ながら凄い。今から思えば『グラフ』にしておけば良かったと思う。
事務所でも社長が左扇子で喜んでいたし、安田もコーラで祝杯を挙げて喜んでくれた。
そして今、事務所の仲間達と親しい関係者を呼んで、『お祝いの会』が開かれているのだ。
天井からぶら下がった紐をニッコリと笑いながらも、しっかりと握りしめているのは友香里だ。
その主賓である友香里自らが、思いっきり引っ張ると、天井からぶら下げられた『くす玉』がパッカリと開く。
すると紙吹雪と同時に、中から大きな垂れ幕が降りて来た。
「祝! 一〇,〇〇□枚突破 おめでとう!」
赤い字で書かれたその垂れ幕を見て、友香里は喜んだ。
何だか一ヵ所、紙が貼り付けていて『再利用感』は拭えない。カンマの位置も何だかおかしい。
でもそんなの気にしない。それより何より、皆の優しさが嬉しかったのだ。この『笑顔』は、目の前にいる皆の為にある。
「やったね。おめでとう」
「ありがとう御座います」
社長が先ず、友香里に握手を求めて来た。ニッコニコである。
垂れ目の目が更に垂れて、垂れ垂れ目になっているではないか。普段のたぬき顔とは違うが、なかなか可愛い笑顔である。
友香里はポケットの中に、幸運をもたらしてくれた『青い鉛筆』を忍ばせていたが、手を離して先ずは社長と握手した。