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覗く片鱗(二十)

「あんただって、小さいじゃない!」

 友香里は口を尖がらせて早苗を指差した。

 小学生相手にそんなことを言うなんて。口にしてみて、我ながら実に大人げないとも思う。でも、仕方ないではないか。

 先に仕掛けて来たのは早苗だ。私は悪くないし、容赦はしない。


「私はこれから大きくなるのよ」

 早苗は動じない。むしろ胸を張って言い返す。何も変わらないが。

「私だって、これから大きくなるのよっ!」

「大人はもう、大きくならないもん」

 返しが早い。それに冷静だ。それに友香里が、既に『立派な大人』であることも理解しているのか。諭すようでもある。

 付け加えて、何か『嬉しいこと』でもあったのだろうか。ニヤリと笑った。視線だけで友香里の顔と胸を交互に追いながら。


「何言ってるの、こっちとこっちから寄せてぇ」

 そう。人間何事も成せば成るものなのだ。決め付けは良くない。

 すると早苗も、友香里の手を見て驚く。『その手があったか』と思いながら目を丸くしたではないか。一歩前へと踏み出していた。


「何やってるのぉ?」

 幸いなことに、雄大が見ていたのは友香里の背中だ。

 それでも、小学生と喧嘩するなんて褒められたことではない。少々気にはなるが、冷めた目でチラ見していた程度。そのレベルだ。

 早苗はそれを見て戦線を離脱。雄大の後ろへと逃げる。

 友香里は忌々しい目で早苗を追うしかなかった。逃げ足がとても速くて、捕まえられなかったのだ。

 怪しい人物から逃れるための脱兎の勢いか。ちょっと悲しい。

 いや、それは否定しておく。陰に隠れた途端『ベー』しているではないか。生意気な。どうやら『安全地帯』は居心地が良いらしい。

 それでも友香里が笑顔で一歩を踏み出すと、一瞬見えた笑顔も雄大の陰へと完全に隠れてしまった。

 雄大のズボンをギュッと握り締める『小さな手』だけを残して。

 仕方なく友香里は、雄大の手元にまだある『手紙』を覗き込む。

 さっきからずっと手紙を読んでいるのは、長い文章だからなのか、それとも翻訳するのに時間を要しているのかは判らない。


 理由はさっきから周りでチョロチョロしている『奴らが原因だ』と、雄大の目は語っている。しかし、本人らに自覚がなさそうで始末が悪い。もうこれ以上手紙を読むのは諦めて、雄大は歩き始めた。

 すると友香里も早苗も、何故かそのままの形で付いて来る。


 丁度アパートの下に、安田が運転するのバンが到着していた。

 すると早苗は『西園寺邸行きのバス』と判ったのだろう。雄大を置いて先に走り出していた。理由は至極簡単。

 雄大に『先に帰れ』と言われないようにするためだ。先に乗ったもん勝ち。乗ってしまえば『降りろ』とまでは言うまい。


「おや、早苗ちゃんこんにちわ」「こんにちわっ」

 車から降りて来た安田と早々にご挨拶。

「早苗ちゃんも行くの?」「うん」「良いって言った?」「うん」

 後ろを指しているが振り返りもしないで二度頷く。そして早くもランドセルを降ろして前に抱え込んでいた。車に乗る準備は万端だ。

 すると騙されやすい安田は、助手席のドアを開けると早苗を軽々と持ち上げて座らせる。

 そのままシートベルトも引っ張って来て、しっかりと固定だ。

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