覗く片鱗(十八)
雄大は何事かと思う。手紙を覗き込んだ友香里が、隣で驚いているからだ。しかし、友香里が思わず叫んだのも無理はない。
その手紙は、日本語で書かれていたものではなかった。ミミズでも這いつくばっているような文字。友香里には読めないのだ。
友香里はハッとなって早苗の方を見た。案の定『薄笑い』。
その瞬間友香里は確信する。『早苗には判っていた』のだと。
『奴には読めまい。ヒヒヒッ。どれ、悔しがる顔でも拝んでやるか』
きっとそうだ。友香里の『普段の言動=粗暴』『目付き=悪し』『顔つき=ブスブスブス』『性格=最悪』『スタイル=ケッ』『洋服のセンス=調子に乗ってんじゃねぇぞ』『住まい=ボロい』『預金残高=三百円』これら全てを入念に調べ上げた上で『総合的に判断』する。この短期間の間にやってのけた。
『だったら『女からの手紙』を、目の前で渡しても大丈夫』
そう結論付けたに違いない。見逃さないぞ。そっちがその気なら、こっちも観察してやる。今、小さく『フンッ』と鼻息を荒くしたね。
ちゃんと判ってるんだから。鼻までヒクヒクさせちゃって。
友香里は早苗の目付きから、『全ての想い』が読めた。
こいつ、小さいのにやりおる。とても侮れないではないか。しかも悔しいが、『調査結果がだいたい合っている』と来たものだ。
が、読みたいのは手紙の方。この『暗号文』は雄大に何を指示しているのかを探りたい。ついでにこれは何語なのかも。
隣でチョロチョロし続ける友香里を差し置いて、真剣に手紙を読み続ける雄大だって気に入らない。黙って読んでいないで何か言え。
『本当は何て書いてあるか、判らないんだよねぇ』
そんな一言で、この場を笑いに変えて見せろ。出来ないか。
仕方なく友香里は、したり顔の早苗に質問をすることにした。
「誰からなの?」「ジェニファー」
それはさっき聞いた。聞こえてた。しかし早苗は『聞いたことにしか答えないつもり』らしい。一言発した後は押し黙る。
「ジェニファーって誰?」「オーストラリア人」「オーストリア」
急に雄大が口を挟む。挟まれた二人は雄大の方を一瞬見て、再び顔を見合わせた。すると早苗の方が驚いているではないか。
何だ。雄大は無視しているだけで、聞こえてはいたのか。相変わらず『手紙を読みながら』ではあるのだが。耳の良い奴め。
それにしても、早苗の『しまった顔』はどうしたことだ。
気にするな小学生よ。どちらも確かに『実在する国』だ。
確か『あの辺』と『この辺』に存在したはず。うん。間違いない。
「女の人?」「そう」「留学生だよ。ホームステイしてたんだ」
雄大の補足には誰も耳を貸さない。興味すらもない。だからと言って雄大の方も気にせず手紙を読み続けている。
すると早苗は『手紙の影に隠れている』ことを確認し、友香里に向って『ニヤッ』と笑ったではないか。こんちくしょうめっ!
当然のことながら、友香里はその『笑顔の意味』が直ぐに分かる。
だから奥歯を噛み締めると、目付きを悪くして早苗を睨み付けた。




