表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/282

レッスン(三十六)

「息継ぎをすると、想いも切れるよ?」

 不思議そうに友香里が首を傾げている。本人にしてみれば、息継ぎで切れるような想いで曲など作っていないのだが。


「歌っている人の想いが『聴いた人に届くか』だからさぁ」

「うんうん」

 それなら納得だ。何事も『判り易く』することは大切であろう。そう理解して、友香里は素直に頷いた。

「言葉が繋がっている所は、ちゃんと一続きで歌うべきだよ」

「うん。判った」

 すると楽譜に次の紅が差される。

「一小節前に短くブレスして、ココは滑らかにね」

「OK。今度からやってみる。短くブレス」

 また赤。こうして楽譜は、どんどん赤色に染まっていくのだろう。友香里が頷いたのを見て、雄大も頷いた。ではない。

 ノートに目を落としただけだ。すると矢継ぎ早に次の指摘が来る。


「ここの伸ばしが短いよね」「そう? 伸ばしてるけど?」

「うん。一拍短いと思う」

 雄大は友香里の歌を聴いて楽譜を起こしている。

 友香里は雄大が赤く丸した所を見た。レコーディングに使用する楽譜、そこは確か『四分休符』だった筈なのに。


 見れば雄大の楽譜は、『二分休符』になっていた。

 そんな風に歌ったつもりはないのだが。『雄大も筆の誤り』だろうか。そう思いたくもなる。


「サビでしょ? ここが短いとダメだよ」「そうなんだ」

 知ったように言う。しかし『詩』を書いた本人は苦笑いだ。

 何だろう。自分の書いた『詩』が試験問題になって、『作者の気持ち』を問われているような。しかも答えが『不正解』みたいな?


「そう思ったことない?」「うん」

 言っちゃ悪いが『何が判る?』である。

 そんな簡単に『歌が心に沁みた』ならば、どんなに良いことだろう。きっとCDだって馬鹿売れ間違いなし。友香里はニヤける。


「だってさぁ。こういうことでしょ?」

 雄大は友香里が『さっき話してくれたこと』を、『友香里の真似』をしながら話始めた。

 声の質、高さは全然違うのだが、身振り手振り、その言葉遣いは身に覚えがある。むしろ友香里は、雄大がこんな風に自分を観察していたのかと判って、少々、いや、結構恥ずかしい。


「それが、こう聞こえるからね?」

 再び雄大が話始める。それは一度目とはちょっと違う。

 身振り手振りは一緒。良くもまぁ、同じように繰り返し出来るものだと感心する。やはり普段からピアノで同じ曲を、何度も何度も練習し続けている賜物だ。


 声の質、高さまで一度目と一緒なのだが、結局違うのは『話し方』だけである。しかしそれが真面目な雄大の顔に反し、全体的に何だか『ふざけている』ように感じて、友香里は思わず苦笑いだ。


「そぉんなに『ブツ』『ブツ』って、区切ってないからねぇ?」

 単語一つづつを、明確に区切って話す雄大に強く念押しする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ