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第4話 2

 王立フラウディール学園は、王国の貴族子女が通う事を義務付けられた教育機関である。


 在籍期間は三年間。


 基本的に入学は十五歳からなのだが、家の事情などで数年猶予される場合もある。


 ここで生徒達は自身の将来を見据え、それぞれ目指す職業に合った教育課程を専攻していく事になる。


 それは領主であったり、騎士であったり、文官であったり。


 下級貴族の子女などは、上級貴族や王族に使える使用人を目指す者もいる。


 また、在籍中の三年間で人脈を築くという目的もある為、家の階級など関係なく、平等に交流する事が推奨されていた。


 そんな学園の廊下に。


「――見て! あちらに!」


 女子生徒の黄色い声が響く。


「ああ、こんな間近でシャルロッテ様のお姿を拝見できるなんて……」


 中には感涙にむせぶ者までいる始末。


 彼女達が見つめる先には、白を基調にした制服姿のシャルロッテの姿があった。


「あらあら、みなさん。私、まるで珍獣にでもなった気分だわ。

 これからしばらく共に勉学に励むのですから、学友として接してくださいな」


 と、シャルロッテが口元に手を当てて微笑めば、男子生徒は赤面して顔を逸し、女子生徒は歓声をあげる。


 そんな生徒達に会釈を向けて、シャルロッテは生徒達で溢れかえる廊下を進んでいた。


 そのすぐ後には、エレノアが付き従う。


 元々、エレノアはこの学園の二年生だ。


 婚約解消のアレコレで、しばし静養休学していたのだが、シャルロッテが急に学園に通うと言い出した為、エレノアもまた復学したのである。


(――お姉様の事だもの。きっと深い事情があるに違いないわ)


 そして、その舞台が学園ならば、自分もなにか役に立てる事があるはず――エレノアはそう考えたのだ。


 ルキオンとの婚約解消によって奇異の目を向けられるかもしれないと、シャルロッテはもうしばらく休学を勧めたのだが、奮起したエレノアは頑なに同行を申し出た。


 なんだかんだでエレノアに甘いシャルロッテは、折れざるを得なかった。


 さて、そのシャルロッテだが、彼女はこれまでこの学園に通っていなかった。


 というのも、彼女は十四歳で神器に選ばれたので、聖女管理局が王都郊外の山林に保有する聖女候補生養成校に通っていた為だ。


 養成校ではフラウディール学園で履修する内容も教えられる為、当然、学園への入学は免除されていた。


 それにも関わらず、今回、シャルロッテはラジウスに頼んで、学園に入学させてもらった。


 ――目的は勇者との接触。


 現在、勇者アレク・オディールはこの学園の三年生なのだ。


 そう。


 シャルロッテはラジウスに宣言した通り、アレクの心をバッキバキに折り砕くつもりなのだ。


 彼の主な生活の場であるこの学園で。

 表向きは聖女による学園の視察――体験入学という事になっている。


 聖女の裏のお勤めを知らない学園は、諸手を挙げて歓迎した。


 シャルロッテが三年生の勇者の教室を指定しても、特に不審に思われる事もなく受け入れられたほどだ。


「……それではシャルお姉様、わたしはこちらですので……」


 と、エレノアは名残惜しそうに目を潤ませて、シャルロッテに告げた。


「エレン、そんな顔しないの。

 お昼は一緒に取りましょう?

 私、学食というのに興味があるのよ」


 聖女候補養成校では、食事はみんなで決められたメニューを一斉に取っていた。


 だから、シャルロッテが以前語ってくれた、学園の設備には興味津々だったのだ。


 好きなメニューを自分で選んでテーブルまで運ぶ……実態を知らないシャルロッテは、立食パーティーのようなものをイメージしていて、それを毎日用意する料理人の胆力には感服していたのだ。


「はい。ぜひご案内させてください! 絶対ですよ!」


 そう告げて、笑顔を浮かべたエレノアは、自身の教室に向けて階段を登って行く。


 二年の教室は二階なのだ。


 一方、シャルロッテは事前の教員室の案内に従って、一階にある三年の教室を目指す。


 教室の前では、担任のアズレイアが待ってくれていた。


「お待たせ致しまして、申し訳ありません。

 改めまして、シャルロッテ・キーンバリーです。

 しばらくの間、お世話になりますわ」


 作法に従いカーテシーをキメると、アズレイアはパタパタと両手を振る。


「わわ、わたしなんかに頭を下げないでください!

 聖女様を受け持てて、本当に光栄です」


 顔を真っ赤にして言い募るアズレイアに、シャルロッテは微笑みを浮かべる。


「先生は魔道大学での刻印術の実績が認められて、学園の教諭に推されたと伺いましたわ。

 実力ある方に頭を下げるのは当然では?」


「ですが、わたしは平民ですし……」


 彼女のその言葉に、シャルロッテは思う。


(ああ、それならばこの学園では、ご苦労なさってるのでしょうね……)


 表向きは身分の別はないとされていても、年若い貴族子女のすべてがそれを理解するわけではない。


 中には、平民が貴族にアレコレ指図するのを不服に思う者もいるはずだ。


 そんな学園の内情を垣間見て、シャルロッテは改めてアズレイアに腰を落として見せた。


「今の私は聖女や公爵令嬢である前に、先生に教えを乞う一人の生徒ですわ。

 どうぞ、そのように扱ってください」


 シャルロッテの言葉に、アズレイアは目を丸くして、そっと目元を拭うと大きくうなずいた。


「そ、それでは皆さんに紹介しますね。行きましょう」


「はい」


 そうして、シャルロッテの学園生活が幕を開ける。

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