あなたは私の光
白「いらっしゃいませ~。ご注文はお決まりですか?」
黒「ブラックを一つ」
白「かしこまりました。少々お待ちください~」
黒(芳ばしい珈琲豆の香りと古書の香りが織りなして、ゆったりとした空間を作り出しているこのカフェは、僕の行きつけの店だ。ここでいつも勉強をしている)
白「お待たせしました~。こちらブラックになります」
黒「ああ」
白「ごゆっくりどうぞ~」
黒(美味しい。ここのコーヒーの苦みが味覚を刺激して体が朝だと再認識する感覚が分かる。しかし、今日の珈琲はいつもと違った味わいがあるような…まぁ気のせいだろう)
白「すみませ~ん。ここ、いですか?」
黒「ん?ええ、どうかされましたか」
白「いえいえ、いつもご利用いただきありがとうございます」
黒(来た時にいつも居座るのが邪魔だった…のか?)
黒「…この店の珈琲は僕のお気に入りですから」
白「ふふ、ありがとうございます」
黒「それで、何か僕に用事でも?」
白「休憩時間なんで、私のお話し相手になってください」
黒「話相手に?僕でよろしければ是非」
白「やった~ありがとうございます!」
黒(話し相手くらいなら、僕も休憩がてらにできるか)
白「私は夜白月です。よろしくね」
黒「僕は朝黒陽です。どうぞよろしく」
白「私のことは好きに呼んでください。あなたは?」
黒「僕も特には、あなたに任せますよ」
白「ん~と。じゃあ、私は夜白なんで白、あなたは朝黒さんなので黒なんてどうでしょうか」
黒(…犬みたいだな。まぁ、どうでもいいか)
黒「わかりやすくていいですね。では、白。改めてよろしく。それと敬語じゃなくていいですよ」
白「それならあなたも敬語をやめてください」
黒「…はぁ。白は珈琲は好きなのか?」
白「う~ん。苦いの苦手だからちょっと…ミルクを入れると好きだよ」
黒「ここにはいつから?」
白「ん~パパのお店は小学校のころからちょくちょく手伝ってたかな~」
黒「そうなのか。親孝行だな」
白「ふふ、お父さんは反対してたけどね。勉強が一番だ~って。黒は何をしてるの?」
黒「その勉強だよ」
白「あ、ほんとだ~。難しい本がいっぱいだね。医学部なの?」
黒「ああ、このご時世だ。もう人の医療に頼るよりも自分でと思ってな」
白「すごいね!私も見習わなくちゃ」
黒「白は学生なのか?」
白「うん、私は美術系の大学に通ってるよ」
黒「好きなことはやれてるか?」
白「ん~絵を描くのは好きだから、できてるのかな?」
黒「そうか。あの絵は白が?」
白「そうだよ~。本当はもっとうまく描ける予定だったけどね」
黒「僕はあの絵、好きだぞ。この店の雰囲気にもあっていてこの空間に彩りを与えている」
白「そんな、大層なものじゃないよ」
黒「いいや、この空間を形成するにあたって必要なファクターだ」
白「ファクター?」
黒「そうだ。焙煎された珈琲豆の香りにはじまり、物静かな音楽とあの絵がクラシカルな雰囲気を生み出している。この空間によって珈琲をさらに味わい深くなってるといっても過言ではないだろう」
白「そこまで褒められると、なんだか照れるな~」
黒(しまった。少し熱くなり過ぎたか?)
白「でも、ありがとう!あ、もう休憩終わっちゃう…。ねぇ、これからもたまにでいいからさ、お話し相手になってくれない?」
黒「かまわないよ。僕もちょうどいい息抜きになるし、こちらからもお願いするよ」
白「やった!ありがとう黒!じゃあ、また」
黒「ああ、また」
黒(話程度ならと受け入れたが、それから来店するたびに話しかけらえるとは思ってもいなかった)
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白「こんにちは、黒」
黒「ん?ああ、こんにちは白」
白「今日は何のお話をしようかな~。そうだ!l黒は犬派?猫派?」
黒「僕は犬派だよ」
白「ほんと!私は…鳥派!」
黒(鳥なんて選択肢はなかったぞ…)
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白「黒~絵に使う色なんだけど、どっちがいいと思う?」
黒「素人目線になるが、僕ならこっちの色を使う。調和がとれる上にこの部分が協調されるからな」
黒(やはり、白の絵は目を惹く何かがあるな…)
白「そうだよね!私もこっちがいいと思ってたんだけど先生がね~。でも黒もこっちっていってくれたからこの色にする!」
黒「僕の意見は参考になるか分からないぞ」
白「全然!ありがとう黒!」
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白「黒~外雨降ってるね~」
黒「そうだな」
白「そういえば、あなたが初めてここに来た時も雨の日じゃなかったっけ?」
黒「よく覚えているな。…確か、雨宿りの場所を探して…ん?だとしても家も近いし…」
白「ん~?家近くなんだ」
黒「ああ、すぐそこだ。…あの日は、いつの間にかここに来ていた気がする」
白「そっか。どうしてかな?でもよく来てくれるようになって嬉しいよ。常連さんはいるけど、あんまり若い人はいなかったしね。パパも黒が来てから毎日楽しそうだよ」
黒「…そうなのか。僕もここの珈琲のおかげで集中して勉強ができて助かってるよ」
白「これがwin-winの関係ってやつ?」
黒「多分そうだな」
白「そうなんだ!いいねwin-win!」
黒(…ときどき思っていたが、白は天然なのか?)
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黒(白と話すようになってから、気づいたら一年ほど経過していた。今日も変わらず…だ)
白「黒~」
黒「ん?どうした?」
白「なんでもない~」
黒(白と話さない日もでてきた。話さないならここにくる必要はないと思うが…)
黒「そういえば、どうして僕に話しかけたんだ?」
白「ん~?若い常連さんがどんな人か知りたかったから?」
黒「そうか」
黒(なんで疑問形なんだ。まぁ僕もこの店に初めて立ち寄った理由を忘れてるしおあいこか)
白「ん~…ふぅ」
黒「ん?おい、そのまま寝たら風邪ひくぞ」
宙「失礼。いつも娘がお世話になっているね。黒君、と呼べばいいのかな」
黒「ん?ええ。白の御父上ですか?いつも美味しい珈琲を出してくださりありがとうございます」
黒(まさか御父上と話すことになるとはな。急なことで少々驚いてしまった)
宙「感謝するのは私の方だよ。君のように若い子がよくここに来てくれる人は初めてでね。黒君のおかげで毎日が楽しいんだ。それにしても御父上と呼ばれるとは」
黒「すみません。失礼でしたか?」
宙「いや、かまわないさ。ただ、現代の子でも使う人がいるとは思わなくてね。いつも娘と話してくれてありがとう黒君」
黒「いえ、僕も楽しいですので」
宙「それならよかった。実は、娘が君に話しかけたのは私が原因なんだ」
黒「…はぁ?」
宙「娘は他人と最低限しかコミュニケーションをとらなくてな。それは子供のころから私の店の手伝いをしてくれているのが原因だと思って、友達とたまには遊びに出かけてもいいといったら、遊ぶような友達はいないというんだ」
黒「…そうでしたか」
宙「ああ、それで喧嘩になってしまってな。娘にとっては余計な親心だったようでね。でも君に話しかけた時は驚いたよ。娘が一歩踏み出したと思ってね」
黒「僕でよかったんですか?」
宙「もちろんだとも。あんなに楽しそうに話している娘を見られるんだ。君には感謝しきれないくらいだよ。黒君の勉強の邪魔にはなっていないかい?」
黒「ええ、むしろいい息抜きになってます」
宙「そうか。それならよかった。これからも娘をよろしくね。黒君」
黒「こちらこそ、よろしくお願いします」
黒(失礼がなければいいのだが…今更考えてももう遅いか。前から白とは奇妙な関係だと思っていたがそうか、友人か。僕もあまり人のことが言えないからな。これが友人……か)
黒「ふ、心地いいな」
白「ん~、あ!ごめん寝ちゃってた」
黒「ああ、気にするな。……どうした?そんなに僕の顔をじっと見て、なにかついてるのか」
白「いや、なにかいいことでもあった?黒?」
黒「……そうだな」
白「え~何があったの?」
黒「何もないさ」
白「教えてよ~」
黒(確かに、こういうのも悪くない…な)
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白「聞いてよ黒!今度私の絵が展示されているみたいなんだ!」
黒「ようやく周りが白の才能に気づいたってことか」
白「ふふ、ありがと黒。ねぇ、よかった今度一緒に行かない?」
黒「僕でいいのか?」
白「うん!せっかくなら黒と一緒に見に行きたいな~って思ってたの!」
黒「それは光栄だな。今度の休みにでも見に行くか」
白「そうだね!」
黒(……誰かっと一緒に出掛けるのはいつぶりだろうか)
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黒(少し早く来てしまったか?)
白「お~い!黒、お待たせ。待たせちゃったかな?」
黒「いや、僕も今着いたところだ」
白「よかった~。じゃあ、さっそくいこうか」
黒「ああ、そうだな」
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白「どれが私の絵か当ててみてよ」
黒「あれか?」
白「お~よくわかったね~」
黒「いつも店で白の絵は見てるからな」
白「ふふ」
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白「楽しかった?」
黒「ああ、楽しかったよ」
白「よかった~。ねぇ、まだ時間ある?」
黒「ん?ああ、今日は一日あいてるよ」
白「ふふ、せっかくだし、ちょっと付き合ってほしくてさ」
黒「どこに行きたいんだ?」
白「ついてきて!バスの時間が迫ってる!」
黒(白のやつ、足が速いな……)
白「こっち、こっち~」
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白「黒!こっちとこっちならどっちが似合うかな?」
黒「こっちの方が落ち着いてて白に合ってると思うぞ」
白「じゃあ、こっちにしちゃお~」
黒「それでいいのか」
白「うん!次は黒だね!黒はこんなのどうかな?」
黒(……いつの間に僕は着せ替え人形になっていたんだ?)
白「似合ってるよ~!」
黒「…そうか」
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白「黒~この映画面白いかな?」
黒「ん?確か、有名作家が脚本を手掛けていた気がするから面白いと思うぞ」
白「よ~し、これに決~めた」
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白「まさか、あんなふうに終わるなんて…」
黒「そうだな」
白「悲しい結末だったね。私も友達を大事にしないと」
黒「ああ、僕も肝に銘じておくよ」
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白「美味しい!黒、よくこんなお店知ってたね~」
黒「たまたまだよ。でも、喜んでくれてなによりだな」
白「うん!ありがとう黒!」
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白「今日は付き合ってくれてありがとう黒」
黒「こちらこそ、楽しかった。ありがとう」
白「よかった!ここまで送ってくれてありがとう!またね、黒」
黒「ああ、また」
黒(こんなに歩き回ったのはいつぶりだろうか、これが友人…か)
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黒(ん?今日は閉まっているのか?)
白「黒!」
黒「白?なにかあったのか?」
白「パパが、パパが倒れちゃった!」
黒「何?救急車は?」
白「さっき呼んだけどまだ…」
黒「わかった。僕だって医者の卵だ。救急車が到着するまでは僕に任せてくれ」
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黒「あの医者も安静にしておけば大丈夫だといっていた。だからもう大丈夫だ」
白「ありがとう…黒がいなかったらパパは…」
黒「そんな大層なことはしてないさ。でも、本当に良かった」
白「うん…」
黒「今日はもう休んだ方がいい。白も倒れたらいけない」
白「うん…」
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黒「白。ゆっくり休むんだぞ。また明日も様子を見にくるから」
白「…黒……もうちょっとでいいから…そばにいて」
黒「…わかった」
黒(白が安心して休めるまではできるだけ力になれたらいいが…いつも通りの白に戻れるように、閉まってはいるが、いつも座って勉強している席にでもいれば落ち着くだろうか)
白「…ねぇ、黒。隣に座っていいかな。…パパのお店さ…広いから…黒が傍にいないと寂しいよ…」
黒「…ああ」
白「…パパはね、私がお店を手伝うの…ほんとは反対してたんだ。私には好きなことをしてほしいって。でも、私は…パパと…パパのお店が…一番好きだから…」
黒「……ああ」
白「ごめんね。急に暗い話しちゃって…少し外の空気でも吸いに行こうかな。黒も来てくれる?」
黒「ああ、行こう」
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白「ふぅ…」
黒「…少し冷えるだろう。これを着てるといい」
白「でも、黒は…。ありがとう。今日は甘えさせてもらうね」
黒「気にするな」
白「今日…満月だね」
黒「そうだな」
白「私ね、満月の夜に生まれたから月って名前になったらしいんだ」
黒「僕とは真逆だな。快晴の朝に生まれたから陽って名付けられたんだ」
白「ふふ、ほんとに真逆だね」
黒「ああ、面白い偶然だな」
白「……黒さ、前に私がなんで黒に話しかけたかって聞いたよね」
黒「ああ」
白「それで若い常連さんがどんな人か気になるからって言ったけど、ほんとはね、パパの淹れた珈琲をあんなに美味しそうに飲む人初めてだったからさ、お話ししてみたくなったんだ」
黒「…そうだったのか」
白「実はさ、初めて話した日の珈琲は私が淹れたんだよ。その時の黒、ちょっと驚いてたけど、その後パパの珈琲を飲むときと同じ表情しててさ」
黒「そんなに顔に出ていたのか?」
白「うん。すこ~し口角が上がるんだよ、黒。それでね、この前一緒に出かけた時に飲んでた珈琲だと表情が変わらなくてさ。私、嬉しかったんだよ」
黒「…よく見ているな」
白「ふふ、パパにはまだおよばないけど、またいつか、私の珈琲、飲んでほしいな」
黒「あの日の珈琲の味は今でも覚えてるよ。…僕はあの日の珈琲が一番好きだったから」
白「黒…」
黒「白の珈琲、楽しみしてるよ」
白「…ねぇ、黒。黒は遠くに行ったりしない?」
黒「ん?ああ、しないよ」
白「よかった…。黒、私のお願い聞いてくれる?」
黒「僕にできることならなんでも」
白「…これからもずっと、私の淹れた珈琲を飲みにきてほしい」
黒「ああ、もちろんだ」
白「ふふ、ありがとう黒。それにしても、今日は星がよく見えるね」
黒「そうだな。満月がよく見える。とても綺麗だ」
白「…うん。今夜は少し冷えてきたね」
黒「そろそろ戻るか」
白「うん。黒、傍にいてくれてありがとう。」
白(私は、あなたがいるから笑顔でいられる)
黒「ああ」
黒(上着を貸したのはいいが、やはり体が冷えてしまったな)
白「 これからもよろしくね 」
黒「ん?白?何か言ったか?」
白「なんでもないよ~。ほら、はやく中に入ろう」
黒「走ると危ないぞ」
白「ふふ、ほら、はやくはやく~」
黒「 こちらこそ、よろしく頼む 」
白「黒?」
黒「ふ、何でもない」
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宙「黒君。君のおかげで私はまたこうやって店を開けることができた。ありがとう」
黒「いえ、僕もまたあなたの珈琲が飲めて嬉しいです」
宙「ははは、私の珈琲でいいのなら何杯でもだそう、といいたいところだが…」
白「パパ!黒には私が珈琲を淹れる!」
宙「この年になってもやはり娘には勝てんな」
黒「本当に仲がいいんですね」
宙「はは、ありがとう。これも黒君のおかげかな」
黒「…僕はそんな」
白「お待たせ!黒!はい、珈琲。パパ、黒に変なこと言ってないよね?」
宙「さて、どうだったかな。そろそろ豆が届く時間だ。黒君、ゆっくりして行ってくれ」
黒「はい。ありがとうございます」
白「…黒。パパと何話してたの?」
黒「何も、ただの世間話さ」
白「…そういうことにしといてあげる~」
黒「ああ、そういうことにしておいてくれ」
白「そういえば、どうして雨の日にこの店に入ってくれたのか、また聞いてもいい?」
黒「…忘れた」
白「私はあなたに話しかけた本当の理由を教えたのに、不公平です」
黒「…そうだったな。僕がこの店に入った理由…か」
黒(あの日、陽が落ちたかもわからないほどに空を埋め尽くした黒い雲と無限に感じられる雨の雫の広がりの中で僕を照らしてくれた光。それは、とあるカフェで働いていた少女の笑顔で————)
黒「ただ、僕は…」
黒(君と話してみたかったんだ)
黒「いや、やはり忘れたよ」
白「そっか、残念だな~。ふふ、黒」
黒「ん?どうかしたか?」
白「なんでもない」
黒「そうか」
白「…黒は私の太陽だよ」
黒「…ふ、白は僕の月だ」
白「なにそれ」
黒「さぁな」
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白(月は太陽がないと輝けない)
黒(太陽は月がなければ照らせない)
白・黒((これまでも、これからもずっと、あなたは私の光))