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懇願

私の前世の娘。

最愛の娘───…遥菜。

第一王女と最愛の遥菜の同じ所に同じ形の痣がある。

この事実は私をひどく動揺させた。


「レティお姉様?どうしたの?」


頭がクラクラする。

思考が回らない。

呼吸がどんどん浅くなっていくのを感じていた。

「い、いえ…とても…可愛らしい形だと思って…」

蚊の鳴くような声でそう答えるのがやっとだった。

「レティシア嬢?何だか顔色が悪いね。ソフィの相手をして疲れたかな」

「いえ、決してそのようなことは…」


遥菜とこの子は違う。

見た目が違うのは勿論、年齢だって…。

遥菜は2歳で死んでしまった。

けれど、今目の前にいるこの子は4歳だ。

違う、全然違う。




だけど、だけど───…。




「ソ、ソフィさま…御髪が、少し、乱れて…おります」


たどたどしく言葉を出しながら、私は目の前の女の子へゆっくりと手を伸ばす。

明らかに動揺していた私のその手は、震えていた。

そして。

「レティお姉様?」

"ソレ”を、見つけた。




───遥菜と同じ、首の付け根に2つ並んだ黒子を。




「────っ!!」

声にならない声が漏れる。

溢れ出る感情と共に涙も溢れてきた。


遥菜、遥菜、遥菜……!!


私は思わず、目の前の女の子をぎゅっと抱き締めた。

「レティお姉様?大丈夫?」

「…はい、大丈夫、です…っ」




年齢も外見も、何もかも違う。

2歳で亡くなってしまった遥菜は、きっと何も覚えていない。

確かめようもない。

だけど、だけど。

この子は、遥菜だ。

私の最愛の愛娘、遥菜だ。


私はボロボロと零れ落ちる涙を、どうやっても止めることが出来なかった。




───…




「大丈夫?落ち着いたかな?」

「…はい。お恥ずかしいところをお見せして、申し訳ありません」

「いや、落ち着いたなら良かったよ」

人目も憚らず泣き続けて数時間、漸く私の涙は止まっていた。

私が泣き始めてから人払いをし、自身は再び読書に耽っていた殿下だったが、泣き止む少し前にそう声を掛けてきた。

思う存分泣かせてくれたこと、そして涙の理由を深追いしないでいてくれたことが有難かった。

腹黒王子のことなので、恐らくは面倒臭くて関わりたくなかっただけなのだろうけども。


「さぁ、馬車を出すからそろそろ帰ろうか。僕も送るよ」

「…はい。ありがとうございます」

私があまりにも泣き止まないものだから、アルお兄様には"ソフィの遊び相手をしてくれている。こちらが屋敷に送るから先に帰っていて欲しい”と伝えていてくれたらしい。

すっかり外は暗くなってしまっていた。




───…


帰りの馬車の中でも、特に殿下が涙の理由を聞くことはなかった。

泣き腫らして醜くなっているこの顔に少しの動揺をすることもなく。

ただただ、当たり障りない会話をするだけだった。

彼は本当にレティシアに関心がないのだなと改めて思う。

けれど私は、彼が私にどれだけ関心がないとしても彼にどうしてもお願いしたいことがあった。

私は自身の目を水魔法をひっそりと駆使して冷やしながら、彼に向かって口を開いた。


「あの、殿下に…お願いしたいことがあるのですが」

「ん?何かな?叶えられることだといいんだけど」

にこやかに紳士的に答えながらも、彼からは"面倒”"無理難題は言うなよ”という気持ちが透けて見える。

でも、そんなの構わない。

どうしてもこの願いは聞き入れてもらわねば。




「私にソフィ様の教育係を少しだけやらせていただけませんか?」

「ソフィの?教育係?君が?」




彼は面食らっていた。

それはそうだろう。

10歳の子供が教育係として一体何を教えると言うんだという発想は至極当然のことだ。


「はい。私は王妃教育も受けておりますし、何かしらソフィ様にお教えできることはあるのではないかと」

「ソフィ様が愛らしく、どうしても親しくなりたいのです」

「何なら、遊び相手でも何でも構いませんので」

「ソフィ様も僭越ながら私に親しみを感じていただいているのではないかと思います」


私は鼻息荒く一気に捲し立てた。

あまりの勢いに彼は少し引いている。

「いやぁ、それは私の一存では…」

「殿下、お願い致します!」


私は声を張り、深々と頭を下げる。

必死だった。

どうしても、あの子との関わりを絶やしたくない。

親しくなりたい、絆を深めたい。

あの子と。

転生したであろう愛娘、遥菜と。




そして、守るんだ。

───…今度こそ。

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