始まりは慰めから
皆が、唖然としていた。
王女の侍女達も、そして殿下ですらも。
その原因は私の腕の中にあった。
私の腕の中には私にぎゅっと抱きついてニコニコとご機嫌なソフィア様がいた。
「レティお姉様だーいすき!」
「私もソフィ様が大好きですわ」
私がいとも容易くソフィア様の機嫌を直したため、皆が自身の目を疑っていたのだった。
───…
少し時を遡る。
あれから殿下にお茶を勧められたものの、私はソフィア様の泣き叫ぶ声が気になって仕方がなかった。
気にしてしまうのであるならば、いっそ私もソフィア様の様子を見てこよう。
そう思い、私は彼に"もし宜しければ”と許可を得て、ソフィア様の部屋を伺うことにしたのだった。
そうして一応第一王女に挨拶をして入室はしたものの、自身の大きな声に掻き消されて殆ど聞こえていなかったのだろう。
私の存在に気付いた彼女はかなり驚いた顔をして、見知らぬ私を警戒もしていた。
しかし、そんな顔もまた愛らしかった。
王家特有の髪色と瞳の色は勿論持ち合わせているが、お姫様と言うよりも天使か妖精かと思う程、ふわふわとした可愛らしい女の子だった。
「…だれ?」
「レティシア・トムソン・イーデンと申します。フレデリック殿下の婚約者ですわ。お目にかかれて光栄です」
多少なりとも人目があるため形式ばった挨拶をとりあえずするものの、ゲームの情報によるとフレデリック殿下とソフィア様は確か6歳の歳の差があった筈だ。
つまり、彼女はまだ4歳。
難しいことを言っても分からないだろう。
私はしゃがみこみ、彼女に目線を合わせた。
「ソフィア様。どうして泣いているのか、私にも教えてくれませんか?」
「……いいよ」
ソフィア様の話を要約すると、つまりこういうことだった。
彼女は現在文字を書く練習をしていた。
しかし如何せんまだ4歳。
そう簡単にスラスラと文字が書けるようになるわけはない。
しかし、完璧主義の彼女は上手く字を書けない自分を許せなかったらしい。
ゆえに腹を立て"もう勉強しない”と泣き叫んでいたとのことだった。
ソフィア様の話を聞き、私は彼女をぎゅっと抱き締めた。
無礼だろうが、今日は無礼講なお茶会の日だ。
これに便乗して、この際知ったこっちゃないという気持ちだった。
「ソフィア様は上手に書きたかったんですね」
「…うん」
「今、どんな気持ちですか?」
「…悲しい」
「そうですよね。上手く書けなくて悲しいですよね」
「うん。あのね、あのね…」
ソフィア様の背中を撫でながら話を聞く私。
次第に彼女は落ち着きを取り戻し、気付けば彼女の涙は止まっていた。