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婚約者

「ほらレティ、フレデリック王子だよ」

「まあ、こんなにも早くフレデリック殿下にお会いできるなんて嬉しい!教えていただきありがとうございます、お兄様」


フレデリック王子。

フレデリック・ロイヤル・オースティン第一王子殿下。

すなわち、私の婚約者のことである。

会場に到着して早々に第一王子を見つけたと言うお兄様。

その方向を見てみると人集りができている。

私からは王子らしき人物は全く見えない。

こんな状態でお兄様は王子の姿をよく確認できたなと感心しながら、王子がいるであるらしい所へ歩みを進める。

正直なところ、着いて早々に婚約者と会うなんてことはしたくなかったのだがやむを得ない。

"レティシア”なら嬉々として会いに行くだろうから。


人集りを理由にして"王子に近寄れなかった”という言い訳をしようかとも思っていたが、それは出来なかった。

皆が道を開けて譲ってくれたのだ。

流石は王子の婚約者であり宰相の娘と言うべきか。


余計なことを…と心の中で舌打ちをしてしまいそうになりながら、ついに見つけてしまった。

私の婚約者を。

「フレデリック殿下にご挨拶申し上げます」

「やあ、レティシア嬢」




シルバーブロンドの髪にブルーサファイアのようなキラキラとした瞳が目を引く。

この髪色と瞳の色は王家特有のものであり、王家の血筋を受け継ぐ者は皆この特徴を持つ。

しかしそれにしても、このフレデリック殿下。

美少女であるレティシアが一目惚れしたというだけのことはある。

あどけなさはもちろん残っているが、10歳ながらにして端正で美しい顔立ちをしている。

美少年というのは正にこういう人のことを言うのだろう。




うっかり見惚れてしまいそうだ。

しかしこの王子、実は油断のならない厄介な性格をしている。

一見物腰柔らかい美少年だが、フレデリック殿下は実は腹黒なのである。

"悪役令嬢の婚約者が美男子で実は腹黒”なんて乙女ゲームの王道だが、ここは乙女ゲームの世界なのだから仕方ない。


「フレデリック殿下は今日も素敵ですわね」

「ありがとう。レティシア嬢こそいつも美しいね」


美しい"装いだけに頼って中身は空っぽだ”ね、という空白の言葉が聞こえてくるようだ。

笑顔はあるが瞳の奥は笑っていない。

ゲームの情報云々以前に、前世人の顔色を窺いながら生きてきた私にはよく分かる。


しかし、甘やかされて育ってきたレティシアは当然分かる筈もなかったことだろう。

殿下のこの演技力なら普通の大人でも気が付くまい。

それをレティシアに気付けと言う方が無理な話だ。

だが、そうやって彼の表向きの態度を真に受けながら成長し、彼女は調子に乗っていってしまったのだろう。

哀れなレティシア。

しかし、殿下の対応が演技だと分かっていながらも悪役令嬢である私は愚かで哀れな振る舞いを演じなければならない。

私もピエロだ。


「まあ嬉しい!ありがとうございます」

目一杯の笑顔でそう答える。

笑顔や声のトーンなど不自然ではないだろうかと内心ではドキドキだ。


「あ、そうだ。レティシア嬢、屋敷の中を案内しようか」

「よろしいんですか?是非お願いします」

人集りから逃げるための体のいい理由として、案内するという口実で私は利用されたのだろうということが見て取れた。

利用されるというのは何だか腹が立つが、レティシアなら殿下と2人きりになれる状況を何の疑いもせずに尻尾を振りながら快諾するだろうと思い、私も受諾した。




頑張って"殿下大好きオーラ”を自分なりに放ちつつ、どうにか当たり障りない会話を繰り広げながら広い屋敷を歩く私達。

すると、近くの扉から突然大きな泣き声が聞こえてきた。


「嫌なの!嫌なのぉ!もうお勉強しない!絶対しないんだからぁああ!うわぁぁぁあん!」


一体、誰?何事?

突然の、耳をつんざく叫び声。

動揺しながら隣にいる殿下を見ると、うんざりしたような彼の姿があった。

これは紛れもない等身大の彼の表情だろう。

しかし、私が彼を見ていることに気付くとまたニコリと表情を瞬時に作り替えた。

流石腹黒…いや、将来この国を背負うであろう王子だ。

相手に本心を悟られまいとするその能力に感心する。


「うるさくて申し訳ない。妹なんだけれど、不機嫌なことが多くてね」

「妹、ですか」

彼のその言葉で思い出した。

フレデリック殿下の妹、ソフィア・ロイヤル・オースティン第一王女殿下。

彼女は私と同じく"悪役令嬢”なのだということを。




「うるさくてすまないが、いずれ泣き止むから気にしないでくれ。疲れただろうしお茶でもどうかな?」

殿下にそう言われ、隣室へと案内される。

しかし、泣き声と叫び声は小さくなるどころか威力を増すばかり。

気にするなと言われても気になってしまい、おちおちお茶もろくに飲めやしない。

「全くソフィにも困ったものだ」

流石の彼も困った顔を隠し切れなくなってきていた。


「…あの、殿下。もし宜しければ──…」

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