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最強の敵

───...詰んだ。




あれから私は自分なりに悪役としてどのように生きていくか考えていた。

ヒロインが登場してから嫌がらせを繰り返せば、自ずと私は"悪役令嬢”と呼ばれるようになるだろう。

そしてその末路は断罪だ。

何も悪くないヒロインに嫌がらせをすることに多少良心の呵責はあるが、これは私の役目。

因果応報で私は断罪されるのだし、まあ良しとして貰おう。

仮にヒロインが"レティシアが悪役令嬢ではないルート”に進んだとしても、私が適当に悪態をついてさえおけばシナリオの強制力も相まってストーリーは滞りなく進む筈。

よって、悪役令嬢として生きることは比較的容易たろう。


が、しかし。

私にとって問題なのは"レティシアのラスボス化”だった。

元々ヒロインと同等の魔力を持つレティシア。

そんな彼女は、最終的にヒロインを圧倒する力を得る。

ヒロインが攻略対象達と一致団結して戦うことで漸くどうにか倒せる程の強さだ。

だからこその"最強の敵”なのだ。

ゲームではレティシアが力を得た経緯の詳細は描かれていない。

"レティシアは嫉妬を始めとするどす黒い感情を抱え、それに呑まれた結果力を得た”といった感じのぼんやりした表現をしていた。


"どす黒い感情”。

これが私にとってネックだった。

私はゲームのレティシアとは違い、ヒロインに嫉妬をしない。

魔力の強さにも、属性の希少性にも、身分の違いにも、攻略対象にも、私は何も興味がないのだから。

それはつまり、私がヒロインに対してどす黒い感情を持つ可能性がゼロだということ。

ラスボス化のきっかけである、嫉妬を芽生えさせる要因がゲームのレティシアとは違って私にはないのだ。

そんな私がラスボス化出来るのか。

最強の敵になれるのだろうか。

正直、自信がない。

けれどやるしかない。

やり遂げるしか私に道はない。

正しく"最愛の彼ら”の元へ行くために。



どうすればいいのだろう。

ぐるぐると考えた。

考えて、考えて、考えて。

そして閃いた。


「そっか。経緯はどうであれ、つまりとにかく最後には誰より強くなっていればいいんだ」

私の閃きは、何とも安直なものだった。

それ以外には思い浮かばなかった。




けれど、この考えは間違ってはいない筈。

最終的に誰をも圧倒する力を持ってさえいればスムーズにシナリオは進むことだろう。

最後に私がその強い力でとにかく全力で暴れ回れば恐らく問題ないだろう。

"レティシアがヒロインに倒されること”が重要なのであり、経緯の違いなんて些細なものだ。

だからとにかく必死に鍛錬し未来に備えよう。

全力で、実力で、最強の敵になろう。

そう決意した。


それなのに。

「詰んだ...」

私はポツリと呟いた。




王立魔法アカデミーの入学は15歳から。

つまり、入学するまであと5年弱。

通常、入学するまでの子供達は家庭で日常の生活魔法と触れ合いながら過ごす。

家庭とは魔法に慣れる場であり、子供の家庭内での魔法についての学びは不要だった。

だが私は普通の子供ではない。

いずれラスボスになるのだから。

そんな私にとって"慣れるだけ”というこの期間は勿体ない以外の何者でもなかった。

何せ実力で最強にならなくてはならないのだ。

1分1秒が大事なのだ。

それなのに5年弱もこれからただダラダラと過ごすなんて。

あまりにも長過ぎる。

そんなこと、受け入れられなかった。


今すぐに学び訓練し技術を高めよう。

早速私は魔法について学ぶため父親に家庭教師をお願いすることにした。

娘に甘い父親であるがゆえに彼は快諾した。

むしろ"4属性だということに奢らずに学びの意欲があり、謙虚さも向上心も素晴らしい!”と、父だけでなく家族も屋敷の面々も私に感嘆の声を挙げていた。

そうして父は国内屈指の優秀な魔術師を数名私の家庭教師として雇ってくれたのだった。


簡単に事は進んだ。

順調だった。

それなのに、想定外の事態が起きたのだ。




「流石お嬢様、素晴らしいです!」

「まさか。こんなに強大で優れた能力をお持ちだなんて...」

「私共にお教え出来ることは、よもや何もありません」

皆口々に満面の笑みでそう言いながら辞めていってしまったのだった。




ラスボスチートというものだろうか、はたまた乙女ゲーム故に魔法についての設定が緩かったのだろうか、教師の彼らよりも10歳の私の方が既に魔法について優れていた。

と言うのも、基礎を学んだ後、瞬時にそれを使いこなし、それをさらに応用した魔法を私が披露したことが原因だった。

国内屈指の魔術師ならばこれくらい大したことはないだろう、だからもっと更なる技術を教えて貰おう、と。

自分の実力の高を括っていたのだ。

しかし実際にはそうではなかったようで、披露した魔法を彼らは口をあんぐりと開けたまま目を丸くして見ていた。

そしてそのまま、私を褒め称えながら流れるように辞めていってしまったのだった。


家庭教師に学んだ期間。

たった4日。

これから私はどう成長すればいいのだろう。

自主練しかないのだろうか。

早くも私は詰んでしまっていた。


このままでは最強になれない。

正しく死ねない。

私は焦燥感に襲われていた。

悪役として、ラスボスとして、生きなくてはならないのに。

夫と娘に再会するために。




けれど数日後、私のこの考えは根底から覆されることになる。



死を固く誓っていた私だったのに。

そんな私が。

生き続けることを願うようになるなんて。

悪役として生きるまい、最強の敵にもなるまい、そう思うようになるなんて。





───まさか私が、生きる希望を見つけることに、なるなんて。

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