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葛藤

ルーカス先生に教わり始めて早数ヶ月。

彼は他の家庭教師と違い、"レティシアお嬢様は素晴らしい!”と言って辞めることはなかった。

いや、辞める必要がなかったのだ。

何故なら、私なんて足元に及ばないくらい優れていたから。

そして更に私を驚かせたのが…。


「え、先生ってまだ17歳なんですか!?」

───彼の年齢だった。




ラスボスとなる私より魔法に優れているルーカス先生。

しかも彼は属性は光の1つだけだと言うのに。

確かに属性としては珍しいけども、能力としては4属性持ちの私の方が上な筈なのに。

それなのに、彼の方が私を優に上回っているいるのだ。

だからこそ、当たり前のようにもうアカデミーは卒業しているものだと思っていたのだ。

アカデミーは3年制。

つまり、まだ彼は学生なのだ。


「そうですよ。初めてお会いした時、お父様がおっしゃっていたでしょう?"留学してた”って」

「いやそうなんですけどでも…」

「私はれっきとした学生ですよ。学生証お見せしましょうか?」

驚いている私に微笑みながらそう言う先生。

嘘をついているわけでもなさそうだ。


「いや大丈夫です!すみません勘違いしちゃって」

「やだなぁ。私そんなに老けて見えますか?」

「や、違います違います!あまりに素晴らしい先生なので学生だなんて思わなくて…」

慌てて答えると、彼は優しく私の頭を撫でた。




「本当に可愛いですね、レティシア様は」




───"本当に可愛いなぁ”




優しく私を撫でる手。

暖かい言葉。

何故か、夫と重なった。

ああ、恋しい。

ああ、逢いたい。




そして、ふと気付いた。

普段の様子も言動も、もちろん姿形も全然違う。

けれど先生の優しい雰囲気や不意に出る言葉が、夫と重なるなと。

それに気付き夫に逢いたい思いが深まり、また胸が苦しくなった。




───…


「レティおねーさまーー!!」

「ソフィ様こんにちは。今日もよろしくお願い致します」


最愛の娘と会える恒例の日。

ソフィ様は5歳となり、またすっかり成長していた。

相変わらず可愛らしい彼女。

どんどんお姉さんになっていく姿を見て、愛おしさが募る。

けれどその一方で、最近の私は葛藤していた。




"成長を見届けたい”

"死にたくない”

"でも夫に逢いたい”

"夫も転生しているのではないか”

"でもそんな都合の良い話があるわけがない”

"仮に転生していても会えるとは限らない”


娘が悪役令嬢化しないためと言うのなら、喜んでラスボスとして散る。

欲を言えば死なずに成長を見届けたい。

でも、夫にも逢いたい。

ラスボスとして死ねば会えるかもしれない。

けど、もし彼も転生していたら?


グルグルとこのようなことを考えるようになっていた。

自分が今後どうすべきか、どうしたいのか。

靄がかかったようにそれが分からなくなってしまっていたのだった。




「レティ?大丈夫かい?」

「すみません、少しぼんやりしてましたわ」

不意にフレデリックが私に声を掛けてきた。


───この1年の間に彼はいつの間にか私を"レティ”と呼ぶようになっていた。


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