精霊達と遊んで婚約を解消しよう。~聖女候補と王子様の婚約破棄~
「お前が聖女候補か。ちびだな。顔は良いからまあいい。おい、喜べ。俺の婚約者にしてやろう」
とても人様が大事に育てたであろう娘を娶る言葉ではない。
失礼千万な言葉を言い放った男こそ、この王国の第5王子ウイリアム王子殿下13歳。6人いる王子の中で落ち零れと揶揄される将来が危うい王子様だ。
そして顔は良いがちびだと馬鹿にされた聖女有力候補生、カラン・デア。
デア伯爵家の長女13歳。殿下と同年である。
口の利き方がなっていない王子殿下に教育の鉄拳をお見舞いしたいが、相手は王族。グッと握った拳を隠して粛々と殿下の暴言に耳を垂れた。
その後、殿下の独断決行であった婚約の申し込みもあれよあれよと決定され二人の婚約が見せしめの様に告知され「私って人身御供よね」としんみり告げるカランの言葉に誰もが涙した。
カランは「すまぬ、父が無力なばかりに」と両親に泣かれてしまっては悪態など吐けるわけもなく、ちょっぴり貴族に生まれたことを羨んだ。
ああ悲しきノブレス・オブリージュ。
聖女有力候補の肩書に新たにウイリアム王子殿下の婚約者と言う不名誉な立場を与えられたカラン。
少女が夢見る淡い恋心を体験することなく将来が決まったと。
己の不憫さに涙がちょちょぎれた。
『聖女』
この国は『精霊に愛されし聖女が守護する国』と謳われた、ステリア王国。
精霊の加護を得た聖女が王国に恩恵を齎してきた国である。
そう、聖女とは精霊に愛され加護を与えられた者の称号である。
カランは未来の聖女と期待された有力候補生であったのだ。
◇
『ねぇねぇ、カランはおうじさまのこと、すきになった?』
『すきなの、きらいなの』
『わ~おやつ!』
『カランとおうじさまはいっしょになるの?』
カランは自宅の裏庭にある、自分好みにカスタマイズした花壇に水魔法で水やりをしていた。
そこに、腹ペコ精霊達がおやつと言う名の魔力を求めてやってきたのだ。
「そうね。婚約者だから好きになろうと頑張った。でも無理だったわ。あの人ねえ、他に好きな人がいるのよ」
『えっ? カランがすきだからいっしょになるんでしょ?』
『カランとおうじさまはすきすきどうし?』
『おやつおやつ~』
『ええ? おうじさまきらい?』
わいわいと騒ぐ精霊達は、好きでもないのに結婚するのが理解できないでいた。彼等は純粋な生き物ゆえ、政略などと言った人の都合などわからないのだ。
「あら、嫌いよ。私達、好き合ってはいないのに一緒にならなきゃいけないの。悲しいわ」
『『『『ええええ、カランかなしいの? かなしいのはいや~ 』』』』
「ふふ、貴方達も悲しいのはイヤよね。そうよね、なんで悲しい目に遭わなきゃいけないのよって思うでしょ」
『『『『 おもう、おもう かなしいのはいや~ 』』』』
「そうよね。ふふふ、可愛いわ~貴方達。ほら、魔力あげるわ」
『『『『 わ~い~~ 』』』』
精霊達の餌付けは完璧。抜かりなし。
喜びながら魔力を帯びた水撒きの水分を味わう精霊達が可愛くてカランの心はほっこり癒されていた。
カランは思う。
殿下との関係を良くしようと無駄な努力を重ねて正直、心がやさぐれた。
情も敬意も労いも贈り物さえ、まったく寄越さない『ケチくさい殿下』に嫌気がさした。穏便に婚約を白紙にしたいのだ。後腐れなく関係性を解消する方法はないものだろうかと。
「‥‥そうよね、よく考えたら私とウイリアム殿下の婚約って、私が聖女候補だからよね。なら聖女から外れたら婚約も取り消されるんじゃない?」
『カラン、どうしたの? なにかおもしろいことするの?』
「あら、そうね‥…。そうよ、面白いことしようかしら。貴方達も面白い事好きよね。どう、一緒に面白いことをやりましょうか」
『『『『 わ~い、するするする~ 』』』』
強力な協力者たちをゲットしたカランは薄らと黒い笑顔で微笑む。
「くくく。聖女様と結婚ねえ。ああ楽しみだわ~」
これからウイリアム殿下は聖女様と結婚するのだ。
いや、するのではなく、させる! カランの決意は固まった。
俄然やる気が湧いてきた。
13歳で結んだ婚約。当時は幼くて碌に抵抗できなかったが、今のカランは16歳。
王国では成人を迎える年だ。
そして聖女候補生が成人を迎える年に『聖女』の選出が行われる。
そこで資格のある者が『聖女』として認定される。後は、国と神殿に馬車馬の如く働かされるだけだ。
そんな聖女の在り方に疑問を抱くカランは己の進退に真剣に向き合おうと決めた。
◇
ウイリアム殿下は自分に臣籍降下の話が出たので焦った。
優秀な自分が何故と悩んだ末に出した答えは、母親の身分が低いからだと。
ウイリアムは歴史に倣い聖女を娶れば王族でいられると踏んでカランと婚約を結んだ。
聖女と王族の婚姻を奨励された歴史は確かにあった。だが弊害も多かった。
だから現在は奨励されていない。にも拘らずウイリアム殿下と聖女候補のカランとの婚約は成立してしまった。
好からぬお節介をする輩がいたのだろう。企てた輩がいたのだ。
デア家に政治的圧力がかかったのも事実。
◇
「もう、これ以上縛りつけられるのは嫌よ。殿下が私を好きでいてくれたなら、耐えれるかと思ったけど。私を大事にしないとわかった以上、もう耐えられない。やってられないわ」
ウイリアムは王子属性と顔の良さで日頃からモテモテだった。
婚約者がいてもお構いなく女が群がる。
カランはウイリアムを毛嫌いすることはあっても恋心を抱くことはない。
なのにウイリアムに秋波を寄せるご令嬢達からやっかみと苛めを受けていたのだ。
「貴女みたいな人がウイリアム殿下のお側にいるなど‥‥図々しいわ」
「聖女候補の立場で殿下に迫まるなんて!卑しい人ね。恥を知りなさい!」
「貴女では殿下の寵愛を得るのは、ふふ。無理ではないかしら」
「貴女がいるお陰で、わたくし、殿下と添い遂げられないの。さっさと婚約者から退きなさいよ」
「わたくしと殿下は、もう男女の仲ですの。貴女はお飾りね。ああ、惨めな女」
これには自称『温厚』なカランでも流石に苛ついた。
カランは気性の荒い面も持ち合わせている。黙ってやられる性分ではない。
あくまで『温厚』と言い切るカランは直接反撃はしない。間接的にやる女だ。
「ねえ、面白い遊びを考えたの。一緒に遊ばない?」
『『『『 わ~やるやるやる! あそぶ~~ 』』』』
いつだって精霊達と遊ぶカランは、ここぞとばかりに攻撃してきた女達を遊び道具に見立てるのが上手い。精霊の扱いに長けているのだ。
「ねぇ、あの子はいつもツンツンして笑わないから、私達が笑わせてあげましょう。眉毛と鼻毛と耳毛を伸ばしに伸ばして結んだら面白いわよ? どうかしら」
「あの人はいつも何かの匂いを体中に振り撒くのよ。匂わないと不安になる人なの。可哀想だから身体の匂いを強くしてあげましょう。きっと泣いて喜ぶわ。そうね、脇とか口とか足とかからきつい匂いさせればいいのよ。どう?」
「彼女、頭に巣を作るのが好きみたい。だけどセンスがイマイチなの。貴方達で飾ってあげたら喜ぶわよ。小枝とか毛虫とか、そうね子ネズミなんていいかも。どうかしら」
カランと精霊達の遊びは尽きない。
遊びでカランは溜飲を下げている。
◇
『聖女』選別の日まであと半月。
『わ~い、カラン、なにする?』
『カラン、なにしてあそぶ~』
『こんやくかいしょうってなに?』
『おやつ~おやつ~』
わらわら集まる精霊達に「いい遊び、教えてあげるわ。皆で協力して遊びましょうね」カランは黒く微笑んだ。
カランの婚約解消の日までのカウントダウンが今始まった。
◇
神殿で成人を迎える者達の門出が祝福され、そして『聖女』の選出が行われた。成人を迎えたカランも選出のため、神殿関係者が期待を込めて見守る中、大人しく指示に従った。
当日、成人を迎えた貴族の者達と聖女のお披露目と祝賀パーティが王城で開催される。所謂、夜会に参加…大人の仲間入りだ。
今宵の主役である貴族の子息子女が誇らしげに、それでいて初めての夜会に興奮している。皆は愉しくお喋りに乗じていた。カランも勿論、友人達と楽しく過ごしていた。
ざわつく会場内に姿を現したウイリアムは、カランの姿を目視した後、声高らかに叫び周りの注目を集めた。
「カラン・デア! 俺はお前との婚約を破棄する!」
ざわついていたはずの会場が一気にシーンと静まり返る。
一体何事かと皆の関心が集まったのだろう。
ウイリアムは注目を浴びて満足したのだろう。
威張り顔で態々周囲に聞こえるよう破棄に至る理由を語った。
「お前は聖女になるなどと俺を騙して婚約者となった。だが、当のお前は聖女に選ばれなかったではないか! 俺は聖女と結ばれる運命の男だ。聖女を騙るお前など俺には不要だ!」
「なんだって…」
「何を言って‥‥」
「聖女に選ばれなかったのか」
「殿下が聖女と?」
ザワザワと騒ぐ貴族達は殿下の爆弾発言、話の内容と場を弁えない愚行に驚きつつも何とか現状を理解しようと必死である。殿下の言動で今後の勢力図が変わる恐れが危惧されたからだ。
その混乱の最中、筆頭公爵が代弁でウイリアムに質問する。
「ウイリアム王子殿下、先程のお言葉は…。カラン嬢との婚約を破棄でございますか? これまた‥‥。それと聞き捨てならぬ言葉がありましたぞ。聖女の伴侶となるのが運命ですと? 幾ら殿下でも戯言では許されませんぞ」
周囲は軽く首肯する。思うことは同じだと。
ざわつきが止まらない会場に、「いえ、殿下の仰ることは誠です! 神託がございました!」さっそうと現れたのは神殿関係者達だ。
彼等はウイリアムの言葉を肯定した。
青天の霹靂。
そのような都合の良い神託などと訝しむも神殿長自らの言である。
真っ向から否定し難い。
どうにも反応の鈍い場内の空気をぶった切る様な威厳溢れる声の主が神殿長に真偽を問うた。
「それは誠か 虚言ではないな?」
他者を圧倒する威力ある声の主は国王陛下だ。知らぬ間に会場入りをされていた。恐らく陛下に知らせた者がいたのだろう。場内の者は、突如現れた陛下に驚くも臣下の礼を取りつつ、陛下と神殿長の動向に気を張った。
「はい。誠でございます。実はこの半月ほどから儂や神官達に精霊様の使徒が夢に現れましてな。今代の聖女様の伴侶は第5王子殿下との事でございます。
我らもこのようなことは初めてでありましたので驚きましたが‥…。
それに今宵、聖女が現れるともお言葉を賜りました。ですので聖宝を持参いたしましたぞ。これで鑑定できますわ」
「うううむ。それならば‥…」陛下も戸惑いが隠せない。
神殿長は厳しい表情でウイリアムと相対する。
「では、ウイリアム王子殿下。聖女選出の前に誓約をお願い致しますぞ。聖女様の伴侶として愛と誠で接するよう、そして離婚は認められません。聖女様への愛を失えば聖女様のお力も失われます。よろしいですな殿下。責任重大ですぞ」
「おお、わかった。聖女を大事に至そう。ずっと愛してやるわ」
「では殿下、今から聖女選出致しますが決して約束を違えませぬように」
しつこく念を押した神殿長は聖女選出のために聖宝を高く掲げた。
伝承に、聖宝は精霊からの授かり物。精霊の加護持ちに反応する水晶玉とある。聖女選出はこの聖宝を使って成されるのだ。
皆、固唾を呑んで聖宝に見入いる。これから「何が起こるのか」期待が膨らむ。
カランは静かに成り行きを見守る。
『あっ、婚約破棄の返事してなかった。破棄じゃなくて解消にして欲しい』と呑気に考えながら。
この茶番の結末を想像するカランは込上げる笑いをグッと堪えて耐えていた。
傍から見れば悲しさを堪える美少女の出来上がりだ。
掲げた聖宝がキラリと輝き、それに呼応したかのようにある女性の周りがキラキラと光り出したのだ。
幻想的な光に誘われた神殿長はその女性の元に寄り聖宝に触れさせた。
すると、聖宝はカッと閃光し聖女はこの人だと言わんばかりに輝いたのだ。
「おおお! 聖宝がお認めなさいました。聖女様ですな!」
なんと今年はいないと思われた聖女がいたのだ。
一瞬、場内に「はっ? あれが?」「うそだろう…」どこか非難めいた声が上がる。
だが『取り敢えずの聖女だ。ここは喜んでおこう』取り繕うのは貴族の十八番。腐っても貴族。阻喪はしない。
指名された女性も周囲も、神殿関係者も皆歓喜の声を上げ祝言を述べる。
「おめでとうございます!」「我が国もこれで安泰ですな!」「素晴らしい精霊の加護ですわ!」
騒然とした場内でウイリアムだけが「ま、待て! 待つのだ! 其の者は聖女ではない!」と声を荒げ否定した。全力で真向否定だ。
「殿下、往生際が悪うございます。聖宝が認めました。間違いございません」とは有無を言わせない神殿長の圧だ。顔が怖い。
殿下と聖女認定された女性を交互に見やる周辺貴族は『うわ~ これは‥…』と思うも、この状況を作ったのが他ならぬウイリアムだ。
貴族は憐憫の情を浮かべるも『自業自得か』と浅はかな王子殿下に呆れ果てた。
必死で拒絶するウイリアム。自分で誓約したのだ。逃れられない。
この愚かな王子殿下は教訓として若者の心にいつまでも残ることとなった。
『浅はか者は馬鹿を見る』と。
まだ混乱を来たす場内を沈めたのは「ここに宣言する。ウイリアムと今選ばれた聖女の婚姻を認める。これは王命だ。受け入れよ」国王陛下の命令だった。
わっと貴族たちの歓声が上がった。取り敢えず決まって良かったと安堵する貴族達。色々な思惑のなかの一件落着だ。『取り敢えず喜んでおけ』である。
王命とされた以上、ウイリアムに否と言えない。
粛々と受け入れるしか道はない。
絶望し青褪めた死人のような表情のウイリアム。
その彼とは正反対に満面の笑みを綻ばす今代の聖女。
見事なアンバランスな今世紀最大の大物カップル爆誕だ。
周囲の者が寄越す視線の中には侮蔑も混じる。
『選ばれた聖女。ウイリアム王子殿下の伴侶』
どう見ても陛下と同じ年齢、下手すれば上かも知れない。
お相手は親より年上っぽいのだ。
社交界で浮名を流す未亡人。
ぼってりしたボディに体臭を誤魔化す香水。
若作り感のあるドレスに身を包み、厚くベッタリ塗ったお化粧。
若い男が好みで金に任せて侍らす様は、お世辞にも淑女の素行とは言い難い。
社交界のゴシップをかっさらうレディなのだ。
今はウイリアムの腕をがっしりホールド。執着の権化だ。鍛え抜かれたウイリアムでも振り払うことが出来ないでいた。恐ろしや。
『ご愁傷様』と、どこからかひっそりと投げられた言葉。
それはカランだったかも…‥。
歴代聖女とは似ても似つかぬ今代の聖女。
築き上げられた聖なる象徴の聖女像をぶち壊す新たな聖女の誕生だ。
聖女とは真逆の『悪女』の別名を持つレディでもある。
聖らしき要素がどこにあるのだと誰もが思う。でも言わない。
『何故あの女性が選ばれたのだ?』
思うことは一致した。疑惑は晴れないまま騒動に塗れた夜会は終わる。
カランと家族の心は晴天の青空の如くスッキリと晴れ晴れとしたまま王城を後にした。
ふざけた婚約は無しになり面倒な手続きは父親にまるっと丸投げを決めるカラン。
後始末に翻弄される父親をちょっぴり『可哀想かな? 優しくしてあげよう』と心に留め置いた。
◇
ウイリアム殿下の電撃結婚のニュースが 新しいスタイルの聖女様とともに国内外に流布された。
今のところ聖女の力は健全だ。
暫くは続くが、期間限定の聖女の力なのだ。
「あらら、聖女様と殿下の電撃婚! 賑わすわね~。殿下に相応しいお相手が見つかってホント良かったわ! みんなもありがとう。楽しかったわね~あの遊び!」
カランはコロコロと鈴のような笑い声と楽しんだ感想を述べる。
勿論、お相手はいつもの精霊達。
彼等もカランの魔力を帯びた蜜飴や飲み物を美味しそうに堪能している。
『たのしかった~』
『またあそぼうね~』
『カランがせいじょなのに~』
『おやつ~おやつ~』
カランは優しい眼差しで精霊達を見つめる。この穏やかなひと時が何時までも続けば良いと願いながら。
カランは疲れていたのだ。幼い頃より聖女候補生として神殿の奉仕活動に強制参加させられた挙げ句、殿下の婚約者の労苦を負わされて。
少女時代を不本意な形で過ごさねばならない環境に追いやられたからだ。
カランは本来なら送れたであろう少女の生活を取り戻したい。
それが今の彼女の願いである。
カランは自分の願いを自らの手で叶えた。
実力行使に出たが誰も傷つけていないからセーフ。
『殿下はお仕置きだからいいの』とカランは思っている。
カランは今回の遊びを思い出す。
仕込みに手間暇かけたのだ。
『成功して本当良かったわ』カランはホッと胸を撫で下ろした。
『聖女を当てろ』と『聖女ごっこ』は精霊達との遊びの名前。
まずカランは精霊達に遊びと称してウイリアムと神殿関係者の夢に干渉させた。
ウイリアムには『運命の相手が聖女』だと。
神殿関係者には『祝賀パーティの会場で聖女が見つかる。伴侶は第5王子殿下』と。
聖女役に抜擢した女性には『祝賀パーティに参加すると運命の出会いがあるよ。参加しようね』と。
聖宝の作動は精霊ならば簡単だ。
ちょこちょこ弄ってもらったのだ。
精霊達は遊びが大好き。
聖宝を持った人が聖女役の女性を見つけられるかのゲームをしたのだ。
神殿長が光る聖宝で女性を捜す様を精霊は『みつかるかな?みつかるかな?』クスクス笑いながら女性の周りで笑っていた。
隠し事が出来ない彼等だからきっとお目当ての女性の周りに集まるなぁと。
案の定、女性に群がった。
『わ~いわ~いみつかった!』
『みつかった~』
ふわふわ浮かぶ姿は可愛いものである。
『聖女ごっこ』はもっと単純だ。
お目当ての女性が聖宝に触れたら『あたりー』と光って知らせるよう決めていたからだ。
カランは思う。
この遊びの面白さがどこにあるのかは精霊達にしかわからない。
精霊達が楽しめたなら上々だ。後はご褒美である魔力を振る舞えばゲーム終了。
今回は裏技を使った。
精霊達にお願いした聖女役の女性のサポートを頃合いを見て止めればいい。
本来、聖女ではない者を聖女に仕立てたのだ。何時までも続けられない。
幾ら私の魔力量が豊富であろうとも。彼等は強欲に魔力を強請ってくるからね。
聖女の力が消えたら、原因はウイリアム殿下の愛が覚めたからだと判断されるだろう。それでいい。
周囲の者が勝手に行動をしてくれると思う。
多分、殿下は『物理的な死』ではなく『社会的な死』を与えられるのではないかな。
穏便に済むといいね、殿下。
乙女の心を弄んだ責任は取ろうよ。殿下。
―――― 完
サラッとお読み下さい。