聖女様の想い人
「ペイズリー=フォスター・トラー、我が国の聖女マリヤ・セイラーに関する悪逆非道の数々これ以上見過ごせん、貴様とは婚約破棄だ、二度と顔を見せるな。」
ザワザワと卒業パーティーに来ている令息令嬢達が騒ぎ始め、若干シラケた目で王太子と私を見ていた、それはそうだ、私は聖女とは名ばかりの、婚約者がいる男性を寝とった悪女なのだから。
大好きなお姉様が私を睨んで美しいガーネットの瞳を涙で潤ませている、隣で私を庇うように腕を伸ばしているのはこの国の王太子デフォレスト=ケニオン・シートン、黒髪に青い瞳、目が眩むような美貌の男ではあるが、あまりに愚かな選択だ、公爵家の娘ペイズリーをこんな大衆の前でこき下ろして王家とはいえタダで済むとは思えない。本当に馬鹿な殿下だと顔を伏せてニヤつく表情を必死に隠す。
数ヶ月後この国は隣国に攻め込まれる。この国の腐敗しきった上層部が搾取し続けてきたこの国の国力では隣国の高い技術力やらに勝てるわけはない、配線を期した王太子は国王とともに金やら兵やらを連れて国外逃亡、残った王太子妃、つまりお姉様は事の責任を取らされ公開処刑となる、これが私の前世の記憶だ。聖女の私は魔力を根こそぎ吸い取られて死ぬ。
お姉様は何も悪いことなどしていないのを聖女の私はずっと見ていた。平民の私に沢山優しくしてくれて、この国の為に必死に政策を練っては偉そうにするなと王太子や王に折檻を受けて、嫌われて、それでもあんな王太子を好きだったお姉様は尽くして尽くして、絞り尽くされて公開処刑なんて私は許さない。
お姉様が助かる方法はひとつだけ、王家に嫁がないことだ。頑張り屋で人の悪意が分からないお姉様、すぐに何もかも押し付けられて責任を取らされてしまうお姉様。お姉様を助ける方法は、もうこれしか無かった。婚約破棄をされればこの国で唯一まともだった公爵家はこの国を見限って隣国にこの国を売るだろう、優秀な公爵様だ、きっと冷酷に正しい行いをしてくれるのに違いない、もし時間が戻るのなら、絶対に、絶対にお姉様を....。
無念の中に死んだ私が次に目覚めたのは、学園の入学式だった。隣ではお姉様が微笑んでいる、まだ王太子に恋をしている大好きなお姉様が、隣で微笑んでいるのを見て、神様はどこまでも私の味方なのだと、そう思えた。
そこからは簡単だった、礼儀を正されれば意地悪ばかりと泣いた、王太子に近寄ることを咎められれば、お友達として話しているだけよと涙をうかべる、馬鹿な女のふりをするのは容易でも王太子に抱き寄せられる度、2人きりで庭園を歩く度、お姉様が日に日にやつれていくことだけ、それだけは本当に苦しかったが、それも今日でおしまいだ、これまで娘を蔑ろにされ続け、公衆の面前で悪戯に恥をかかせたことにあの娘思いの公爵様は怒り狂うだろう、聖女も王太子も、この国ごと許さないに違いない。
「お待ちください殿下!そんな、私はなにも、何故...!」
「ええいうるさい、衛兵、こやつを出せ、怖かったなあ、マリィ」
「ええ、本当に....。」
涙を浮かべて擦り寄ればデフォレストは甘い顔、優しい手で私の涙を拭う、気持ち悪い、私のことをマリィと呼んで笑うのはあのお姉様だけで良かったのに。
けれど表情は崩さない、お姉様が私のことを最後まで恨んでくれたらそれでいい、心残りと言えばただ1つ、お姉様の笑顔が見られなかったこと。
さようならお姉様、ずっとずっと大好きよ。




