第六話
―――――おっと。話をしてたら真っ暗になっちまったね。さすがにこうも暗くっちゃ、ろくに手元も見えやしない。どうだろう、辺りも静かだし、もう眠ってしまったら。まだ眠くない?横になってれば瞼も段々重くなるもんさ。さぁさ、羽織を上掛けにしてお休みよ。
・・・寝物語、って言われてもねぇ・・・散々話して聞かせたろ?そんなにネタが出てくりゃ売れない物書きなんざしてませんよ、アタシゃ。そっか、とはなんだい、そっかとは。慰めのひとつくらい、くれたっていいだろに。ふーんだ。そんな可愛げのない恵介さんには、とっときの恐ぁい話を聞かせてあげようじゃないか。笑ってられるのも今のうちだからね!
これも随分と古い話さ。そう、この町に海があったのと同じ頃だったかな。近くの村でね、人死にが出た。ただの人死にじゃあないよ?働き盛りで健康な男が一人、突然倒れてぽっくり逝っちまった。・・・ふふ、恵介さんはやっぱり七つとは思えない賢しい子だね。その通り、確かに世の中には人を急に彼岸へ連れて行く病もある。けれど彼の亡骸を検めてみても、とんと病の影がない。医者も首を傾げるばかりでお手上げだったのさ。
時に恵介さん。呪いって本当だと思うかい?おや意外。信じてるとは感心だ。近頃の子ときたら、目に見えないモノは信じやしないからねぇ。迷信だ、まやかしだ、って不用意に近づいちゃ穢れをもらう。あぁもう、面倒ったらないよ。わざわざ進んで危ない目に遭おうなんて。
―――――察しが良いね。うん、そう。彼は呪いで死んだんだ。けど別に、彼が悪いわけじゃあない。真面目が過ぎるくらい、気の好い男だったさ。朝から晩までよく働いてね、人柄の評判が上がるとともに、まぁ当然立身したんだよ。
さて面白くないのは日陰者。自分だって頑張ってるのに、と日に日に妬みを募らせた。酒でも呑んで憂さを晴らせばいいものを、なにを思ったか呪いに手を出しちまったんだ。あぁ、あぁ、愚かだこと。しかもねぇ、この愚か者、一人じゃないから厄介だ。何人いたと思う?五人だよ、五人。三人寄れば文殊の知恵って言うのにさぁ、五人も雁首揃えて凡人以下って、なんだいそりゃ。頭が痛くなっちまう。
そうしてコイツら、夜ごと集まっては呪いをして願い続けた。真面目な彼がこの世から消えてしまいますように、って。
結果としては成功したね。彼は死んでしまったもの。・・・くっくっく、でもさぁ。人の命を奪うような呪いをしておいて、これで済むはずないだろに。ねぇ?
初めは五人も喜んだ。目の上のたん瘤がいなくなったんだから、さもありなん。けれど彼の死から丁度七日目の晩、その五人は残らず一斉にこと切れた。畳を掻きむしり、口から泡を吹いて息絶えている姿は、それはそれは凄まじかったそうだよ。大体「人を呪わば穴二つ」って言葉があるのに、どうして幸せになれようか。誰ぞの不幸を願うなら、自らの墓穴もまた必要なのさ。成功しようと、しまいとね。
あらら。ごめんよ、少し脅かし過ぎたかい?別に恐くない、って・・・アタシの袖を握り締めて言うことかね。え、外で人の声がする?恵介さんを探しに来たご近所さんの話し声じゃ・・・ないみたいだねぇ。ふぅん、そうか。まだ墓の底で苦しんでるってわけだ。恵介さん、あれは気にしなくって平気だよ。どうせここまで来れやしない。
アイツらの魂は今も地獄に繋がれてるんだから。