第3話 昇格! ランクアップ試験!
ということで店を出た俺たちは早速彼女に着せる服を探すことにした。幸い、銀貨25枚が残っているので、俗に言うエンチャントなどが着いていない、普通の服なら買えるはずだ。
「あの……さ、服、買わないか?」
これまで女性とまともに話したことがなかったので言葉が上手く出ない。
「……別に、あなたに助けられたとか、そんなの思ってないから」
『ツンデレ』という単語が一瞬浮かんだが、慌てて消す。恐らく、件の出来事で心を閉ざしてしまったのだろう。と、自分を納得させる。
「助けたつもりはない……」
なんて嘘、本当は言いたくないんだけどな……。
「じゃあ、ここで契約は終わりね」
「い、いや、そんなつもりじゃ……」
俺はそう言って彼女の肩に手をかける。
「なに? まだ話あんの?」
「その……ごめんっ」
「はぁ? なんであなたが謝るわけ?」
「い、いや……それはその……君が苦しんでるとか、そんなこと勝手に思ったりして、それで……、俺のただの自己満足だったかもしれないから……」
「自己満足……じゃあ、私を買って満足してるんだ?」
「……?!」
突然そんなことを言われたものだから思わず黙りこくってしまう。周りから見たらかなり顔が真っ赤になっていたに違いない。
「ふふっ、ぜーんぶ嘘よ。第一、私の独断で契約解除なんて出来るわけないじゃない。ほら、それより服、買ってくれるんでしょ?」
彼女はそう言って服屋の方向へ走っていく。その目には一瞬、涙が浮かんで見えた、気がした。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
俺もその後を追い、ようやく服屋へと辿り着く。予想通り、おしゃれ重視の店ということで、商品は全て銀貨単位での販売となっていた。俺は彼女に欲しい服を聞き、それを買った。俺の全財産は銀貨1枚と、銅貨が13枚のみとなってしまった。一応、今日分の宿泊費は残っているので今夜の寝泊まりは出来る。俺は彼女と一緒に宿屋に行く。ちなみに、予算の関係で一部屋し借りれなかったので同じ部屋で寝泊まりする運びとなった。
「っていうか、まだ聞いてなかったし、教えてくれないかな? 君の名前」
「……アザレア。アザレア・サレンダ」
こういう時、なんて返せばわからないよね。そんな時はこれ! ……なんて、アメリカのTVショッピングは置いといて。
「……いい名前だね」
「うれしい……って違う違う! あなた……確かレントとか言ったわよね。レントは私を買ってナニをするつもりなの?」
「何って……俺、実は魔法使えなくて、それで一緒に戦える人探してて……でも君……いや、サレンダさん────」
「普通にアザレアでいいわよ、別に」
「ん、わかった」と、俺は話を再開する。
「でもアザレアを買ったのは戦わせるためじゃなくって……もう、わからなくなってきた」
「……てか。……魔法使えないってどういう意味?!」
「なんか、ネームプレートの魔法の欄に『無』って書いてあって……ほら」
俺は懐から取り出してアザレアに見せる。
「『無』ねぇ……まぁ、いいわ」
俺のプレートを見てアザレアは呟く。
「てか、あなたもうLv.5になってるじゃないっ。すごい!」
やっぱこの世界にもレベルアップって概念あるんだな。そんな気配は全くなかったけど……。
◇◇◇
神代蓮翔によって命を救われた少年、来栖圭太は命の恩人の行方を調べていた。名前は分からないのであの事故の名前で検索をかける。
『○○市での交通事故、未だ被害者高校生の行方掴めず』
という記事がヒットした。というかこの事故について纏めているサイト自体が少なく、この記事も個人によるものであった。
「やっぱり、名前は書いてないか……ってあれ?」
ページをスクロールしていくと、記事の製作者による独自の取材で被害者の身元を掴んだというページへのリンクが貼られていた。僕は藁にもすがる思いでそのリンクをクリックする。
『被害者の高校生は神代蓮翔。彼は至って普通の高校生であった。が、来る大学受験が残り1ヶ月に迫った頃、当時付き合っていた彼女の裏切りに逢い、更には親からも絶縁を告げられるという波乱万丈の人生を送っていたことがわかった』
ここから下は広告だらけだったので割愛する。
「神代……蓮翔さん」
この際、彼の人生についてはどうせもいい。でも、行方が分からないって……どういうことだ?
そんなことを考えていると、ドアの呼び鈴がなる。
「なんか頼んでたっけ?」
少し疑問に思いながらドアを開ける。すると……。
◇◇◇
時を同じくして冒険者 神代蓮翔は、あるクエストを受けようとしていた。それは、Cランクへの昇格クエスト、他の冒険者と共にドラゴンを討伐するというものらしい。もちろん、それ以外にも寝泊まりするなどで3日間を共にした上で、合格か否かを決めるようだ。まぁ、合宿みたいなものだ。奴隷は、主人のランクと同じランクとして冒険者に登録されるのでアザレアと一緒に受けることにした。
「3日間もあんたと一緒に泊まらないといけないの? まぁ、いいけど……」
相変わらず俺の脳内にツンデレという単語が浮かんでくる。
「でも驚いたよ。アザレアが水魔法と補助魔法を使えるなんて」
そう、あの夜の次の日、一緒にあのカエルを倒した際、水魔法を使ってカエルを一網打尽にしていたのだ。つまり、あのモンスターは水が弱点ということ。
「まぁ、補助っていっても相手の攻撃力とか防御力を落としたりだけどね」
いやいや、それが一番重要なんだよなぁ……。
「っと、もうすぐ集合時間だ。急ぐぞ」
例のクエストは数人での合同クエストとなるため、集合時間が設けられているのだ。俺はアザレアと共に集合場所である時計台の下へと急ぐ。
「っぶねぇ……ギリギリだったか……」
「もう、無駄話をしてるからでしょ」
「アザレアから始めたんだろう」
「それはそうだけど……でも、そんなの関係ないでしょ。あんたが全部悪いの」
「なんだよその理論」
俺は笑いながら言う。
「……おい、あれで女の方が奴隷ってまじか?」
「そうらしいぞ。なんでも、男が生粋のMだとかなんとか……」
なんだか根も葉もない噂をたてられているな……。しかも、これから3日間を共にする仲間だと言うのにだ。
「よし、全員揃ったな?」
「はい!!」
教官の声に、全員が反応する。
「よし、よろしい! ではこれより、クエストの概要について説明する!」