待ち合わせ
秋晴れの空は今日がデート日和と教えてくれる。けれど、最近仕事で忙しそうな彼。
だからあまり期待をしていなかったのに、ランチに誘われて私は朝からそわそわしていた。
でも、午前中は仕事があるというから、連絡を待っている。
お気に入りの服を卸して、彼好みの香水を振りかけて。
連絡が来るまで家にいればいいのに、連絡があったらすぐ電車に乗れるようにと何の用もないのに駅前まで出てきてしまった。
好きでもないコーヒーをちびちびと飲みながら無機質な四角い機械を睨んでいる。
忙しい中私のために時間を作ろうとしてくれたことに喜んでいたはずなのに、時計が30分、40分、45分と進むごとに違う気持ちが芽生えてくる。
私が待っているのに、急いでくれていないのかな、なんて。
可愛くないな、と思ってため息をついて小さく首を横に振る。
彼は終わったら連絡するから、と言っていたのに、連絡を待たずに家を出てきたのは私なのだから。
黒々とした気持ちは苦いコーヒーで飲み下す。
ついにコーヒーを飲み干してしまって、さてどうするかと考える。
まだかかるのかな? なら、もう一杯頼もうかな?
よし、と立ち上がったところでブルブルと何かが振動する音が耳に入る。さっきまでうんともすんとも言わなかった無口な機械がぴかぴかと光っている。
少しの期待を胸に手に取ると、それはまさに待ちわびていたものだった。
自然と頬が緩む。さっきまでのもやもやした気持ちなんてあっという間に消え去ってしまう。
鞄を引ったくって向かうのは化粧室。前髪を整えて、お化粧直しをして。最後に少し微笑んで。うん、笑顔の練習も大丈夫。
弾んだ気持ちで電車に乗る。ただ揺れるだけのこの時間すら楽しくて。
目的地が近づくごとに胸は高鳴る。別に久しぶりなわけでもないのに、この先にいる彼を思うだけで心が躍る。
電車を降りて、待ち合わせのカフェへ向かう。
彼はもう着いているかな。今日のワンピースは彼の好みに合うかな。頭の中に浮かぶのは彼のことばかり。
店に入って見渡すと、私を呼んで手を振る彼がいた。
練習なんて必要なかった。彼の姿を見ただけで、私は最高の笑顔になるのだから。