4話 初クエスト
私はゆっくりと後ろを振り返る。
この狭い路地を通ることができる人なんて、そんなにいないはずだ。
子供だろうか?
だとしても声はちょっと低めな気がするんだけど…。
だが、私は思い出す。
そういえば、私ってば猫の鳴き声しかわからないんだった!
非常に嫌〜な感じを抑えきれず、顔が若干歪む。
猫だから表情が変わるのかはわからないが…。
そして、私の視界に何か小さく動くものが見えた。
目線的には私と同じくらいで、そこまで見えたときに私はすでに確信してしまった。
そこにいたのは猫だったのだ!
いやまあ、何を言っているのかわかる時点でなんとなくはわかっていたんだよ?
だけど信じたくないと言いますか、可能性を見出したかったというか…。
目の前にいる猫は私が固まっていることを不思議に思ったのかもう一度話しかけてくる。
「おいお主、聞いているネ?なんか答えて欲しいネ」
にゃあにゃあ言っているようにしか聞こえないが、だいたい言いたいことは伝わってくる。
「にゃ?(こんにちわ?)」
「うん、こんにちわなのネ」
……………待ってよ、話が続かないんだけど!
猫と話したことないからこういう時なんて言っていいのかわからないよ!
「んで、お主どっから来たネ?」
みかねた猫さんが話しかけてくる。
ありがとう!
「にゃにゃ?(遠いところ?)」
「なんでそこ疑問系ネ?」
「にゃ〜(あ〜いや…)」
ツッコマんといてください!
『日本っていうところでVR起動してきました!』って言っても多分わからないだろうから、そう遠回しに言うしかないんです!
「まあそんなのどうでもいいネ。ここに何しにきたネ?」
「にゃにゃ〜にぇ(え〜と、お散歩)」
「そんな嘘つかなくてもいいネ。で、何しにきたネ?」
なんで、嘘だって決めつけられてんの!?
実際、ここら辺を探検してるだけなんで、実質散歩しているって言うのあってるんだけれども。
「ににゃ〜な(嘘ではないんだけど)」
「まあいいネ。でも、ここは危ないからさっさと自分のテリトリーに戻るのネ」
首をかきながらそう言ってくる名前も知らない猫さん。
心配してくれるん?
こんな可愛いだけの猫さんに心配される日が来るなんて……。
ワンチャン運営よりも優しいでこの子。
鬼畜運営より、猫の方が優しいって一体どう言うこと?
「にゃお?(心配してくれるん?)」
一応聞いてみる。
まあ、取って食おうとするような子には見えないんけれど…。
「当たり前ネ。メスがこんなところにいたら危ないネ」
あらま、お優しい。
それと一応まだ、女認定してくれんだ…。
猫の見た目になっちゃったから、性別わかってくれないかと思ってたわ……。
「にゅ〜ん(嬉しすぎる…)」
「!?なんで泣くネ!?おれ、なんかしたネ?」
特には何もしてないから安心ていいよ猫さんや。
前足を浮かせて驚く猫。
ふむふむ。案外こうやって猫を見るのも楽しいかもしれんわ。
普段見ているとさ、何がしたいのかよくわからなかったけど、こうして、自分が猫になると何言ってるかわかるから面白いや。
ただし、運営に感謝はしない!
「にゃう〜(あんたじゃないから大丈夫だよ)」
「ほんとかネ?それならいいネ……」
なんとも言えないような声をもらし、少し首を傾げる猫さん。
「そう言えば名前は何ネ?」
思い出したかのように、私に聞いてくる猫さん。
ちょっと食い気味なような気が……ま、いいけど。
そこで私が名前を教えようとした時、静かなはずの路地に猫の鳴き声が響き渡る。
ただ、その泣き声は私と猫さんが出した声ではなく、どこかしらから声が聞こえる。
一匹ではなく無数の鳴き声に私が驚いていると、猫さんが何か切羽詰まったように、私に向かって叫んでくる。
「見つかっちまったネ!あんまり見つかりたくはなかったのにネ!」
そう言って逃げようとする猫さん。
毛を逆立てて警戒を怠らない姿で、私も何か猫さんにとってまずいことが起こったのだろうということだけはわかった。
そうして、私だけ逃げようとしないのを見て、猫さんが振り返って話しかける。
「何してるネ!早く一緒逃げるネ!」
そう言われた時、私の目の前にまた何かが現れる。
(うわ!)
そこに現れたのはまた透明なボードだった。
(何これ?……特殊クエスト?)
書かれている内容を読む。
(何なに?猫の抗争っていうタイトルで……猫についていくとスタート…か)
多分、この猫さんについていけばいいんだろうね。
こんなところで初クエストなんて……どうしてこうなった……。
「こっちくるネ!」
そう言って走っていく猫さん。
「にゃおにゃお〜(今行きますよ〜っと)」
私は、猫さんについていく。
《特殊クエスト・猫の抗争を開始しました》
なんか聞こえてきたんだけど?
こうやって始まるんだね。
びっくりするからこういうのあんまやって欲しくないけど…。
私はひたすら、どこかにいるであろう敵から猫さんと一緒に逃げ出す。
「にゃにゃ?(これ、どこまで逃げるの?)」
「おれたちのテリトリーまでネ。臆病者の追いかけてきてる奴らは、入ってこないと思うのネ」
へー。
特に感想はないが、追いかけてきてる奴を臆病者って……。
逃げてるのは私たちなんだけどね……。
苦笑をしていたら、猫さんが何か思ったことがあるのか話しかけてくる。
「随分と余裕ネ…。おれがここらでは一番早いと思ってたんだけどネ。まだまだ修行が足らんのネ……」
そう言って、走りながら落ち込む猫さん。
いや、多分君がほんとだったら早いんだろうね。
でも、私のステータス素早さに極振りされてあるから分が悪いどころじゃないと思うよ猫さん……。
そう思っているうちにやや、広いところに出てくる。
ただ、そこにも人の気配はなく辺りにいるであろう猫の鳴き声しか聞こえてこない。
「回り込まれたネ…」
そう呟く声が聞こえてくる。
「にゃ?(逃げきれんの?)」
一応、私ってば女だからね。
当然男であろう猫さんがエスコートしてくれるんでしょうね!?
「……………」
私の問いに沈黙を持って返す猫さん。
「にゃにゃ〜(どうすんのよ!)」
「おれに聞くなネ……。まあ、お主は大丈夫ネ。無事ではいられると思うネ」
そう私に言い聞かせるように言ってくる猫さんに私はなぜかと質問する。
「にゃ?(どうしてそう言い切れるの?)」
「………。まあ、見た目見ればいいネ…」
何か言いにくそうに言ってくる猫さん。
見た目ってどういうことよ?
猫に見た目とかって関係あるん?
「つかまっても生きてはいれるネ…。向こうのオスたちに嫌というほど全身舐めるように見られるだけネ…」
「にゃにゃ!?(それどういうこと!?)」
体全身をブルっと震わせている猫さんを見て私も何か嫌なものを感じる。
「おれもつかまった時……いや、これは言いたくないネ…」
え?猫さんってもしかして女性の方に………。
あ(察し
察してしまったからにはこれ私のためにも、猫さんのためにも逃げるしかないよねこれ…。
もともと逃げ切るつもりだったから、別にいいんだけど。
私は荒技で突破することを決意する。
「にゃにゃ〜(ちょっとこっちきて〜)」
「?別にいいネ」
私の問いかけに訳がわからずに応じる猫さんに向き直り、私は思いっきり猫さんの首元を噛む。
「!?」
「んんん〜(ひょっとひょばふよ〜)」
「なんて言ってるネ!?」
私は一気に目の前に出てきている猫たちの間を突破する。
いつの間に出てきていたのかは知らんけど、結構私が思ってたよりも近くまで来てたんだな。
索敵能力があんまりない私としては気づくはずがないのも当然である。
(暗殺者のスキルでそういうのない訳?)
ただ、それがなくてもこれくらいなら逃げ切れると私は確信している。
なぜなら私のすばやさは百を超えているからである。
初期ステータス(真面目にやれば)平均十くらいになるはずだ。
これが人間でだよ?
ただの猫が人間様より早い訳ないじゃん。
もうわかったかもしれないが……つまり!
ただの猫ではなく、さらに素早さに極振りしている私に追いつける猫なんていなくってよ!(お嬢様
「ちょ!加速するなネ!舌噛んじゃうネー!」
私は猫さんを咥えた状態で、どんどん加速してくのであった。
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覚えなくてもいい設定
私(黒猫)
猫さん(灰色猫)
「私ってば一応モテるらしい…」
猫にモテてもしょうがないのに…。
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