14話 死の宣告
さて、私はいつまで抱かれていればいいの?
森の中で女の子の腕で眠そうにあくびをする。
森の中ではこんなに眠くなるものだろうかぁ〜。
1時間は立ちそうだ、森の中で癒しを探し始めてから。
私は当初の目的を忘れたわけではない。
ただ、森が私の予想以上に危険だっただけだ。
私だってこの二人となんか知んないけど、お仕事について行こうなんて思わなかったよ?
ついて言っているというより、連れて行かれているのほうが正解だが…。
色々となんや感やあってオークキングとかいうやつを討伐しにいくことになりましたとさ。
どんな状況やそれ?
ってなるかもしれない。
私は現にいまだにさっきから信じられないようなことを体験しているからである。
まず、ルキさんっていう人が狼の群れを消し飛ばすと……。
この時点でヤバイ。
何?消し飛ばすって……生き物に使うべき言葉じゃないよねそれ。
影から見ているだけでもめちゃくちゃゾクッとしたよね。
あんな感じに強くなってみたいというのはあるが…。
やっぱりああいうかっこいい姿を見ちゃうと自分も真似したくなっちゃいうよね。
こう、どかーん!って感じで。
剣を奮っている自分の姿を想像する。
日焼けしていない白い肌にヒョロヒョロの腕で、頑張って大剣を振り回そうとしているか弱い自分を……。
無理だ…。
と、その前に猫であるが故に私は人間見たく戦えないんだった。
(いや、私だってきっと何か人間みたいに戦える方法がどこかにあるはずだ!)
そう思った私は、スキルというものに着目する。
私は今二つのスキルを保有している。
1つ目が『脱兎』というスキル。
簡単にいうと、素早さをめっちゃ上げてくれる。
他は特にこれといった凄みはない。
ほんとにこれだけである。
早くなるっていうのは先頭においてかなり重要になってくるのであろうが、ほかステータスほぼ0の私には特に魅力を感じさせるほどの効力はない。
素早さだけだったら、狼………シルバーウルフっていう魔物と同じくらいである。
それが、すごいのかすごくないのかはよくわからないが、この2人が楽〜に倒しているところを見るとそこまで強そうには到底思えない。
ルキさんの真面目そうな顔と、女の子の気の抜けたような明るい表情を見ながらため息をつく。
Cランクの魔物と2人が言っていたが、実際それがどれくらいの程度のランクなのかがわからないため、この2人で考えるしかないのだ。
もしかしたら、Cランクが一番上かもしれないし、(多分ない)もしかしなくても1番下のランクかもしれない。
何せ私は早いだけの猫なのだ。
ゲームには疎く、初めてまだ2日ということもあって知識はない。
(単純に考えるとEランクくらいからAランク……Sとかもあるのかな?)
シルバーウルフがCならSってどんな化け物だよ!
ドラゴンのようなものだろうとなんとなく思う。
ちょっと議題がずれてきたなと思い、私は思考を戻す。
2つ目のスキルは『奪取』という名前だ。
正直これはどういう能力なのかわかっていない。
説明には……
ーーーーーーーーーー
強奪
説明
スキル・『奪取』の進化系。
一人につき一度に二つランダムでアイテムを奪える。
最終進化先
『強欲』
ーーーーーーーーーー
1人につき……ランダムで2つか。
アイテムを奪ってどうしろというのだ。
ちょっとした例を上げてみよう。
相手が武器を持っていて私が例えば手ぶらだったとしよう。
…私が人間である前提であれば、その武器を奪って自分の武器として用いることができる……ただし、私が人であるという中での話だが…。
その通り!
吾輩は猫である!
猫にサイズ合わない武器持たせてどうしろというの?
逆に不利になってしまうじゃないか。
これが私の持ってるスキルだ。
でも、きっと私がまだ持っていないようなスキルがあるはず。
そう……例えば、『変化』みたいなね。
こんなスキルがあれば私だって人間…人に戻れるというのに。
あったとしても、スキルの取り方とかそんなわかってはいないので、かなりの時間がかかるだろうが…。
「ついたようだな」
「もしかして、この奥の横穴のところ?」
「ああ」
どうやら目的地に着いたようだ。
そして、2人はシルバーウルフの時と同じように、ゆっくり動き、ちょうどいい草むらの中に入り込んだ。
「へこんだ大地に穴を掘ってそこで暮らしているのか?存外知能は持っているんだな」
へこんだ大地というのは、私たちのいる場所から一段下がった位置にあるからだ。
実際にへこんだような、なだらかな登り坂が洞窟とは反対側に見て取れた。
「ん?ちょっと待て、あれは集落じゃないな」
中からはいつの間にかオークらしき二足歩行の豚が出てくる。
ただ、大きな石を運んでどこかへ向かおうとしているようだった。
「採掘場?はあ、あんた探索も下手になったんじゃない?」
「お前が魔法で探せば良かったのに……ここにたくさん生命反応があったんだしょうがないだろ?」
「まあ、いいわ。今出てきたやつを追っかけて向かうとしますかね」
「へいへい」
いまだに私を手放そうとせずに私を集落まで連れて行こうとする女の子。
私のこと忘れてませんよね?
私は女の子の方を向きながら『にゃ〜』と小さく鳴くのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「ああ、もう!だるいわー。魔法が使えたら一気に殲滅できるっていうのに…。オークさーんちょっと出てきてもらっていいかな〜」
私を連れながら、オークの集落らしき場所に着いた途端、女の子が大声で叫ぶ。
(何やってんの!?私まで狙われちゃうじゃん!?)
腕に抱いている可愛い子が目に入んないの?
というか、せめておろして?
愚痴を呟いている間にいつの間にかオークがそれぞれの持つ家…テントから顔を出してきて、私と女の子とルキさんを見るなり、ニヤニヤとした表情にかえ、仲間をどんどんと呼んでくる。
(は?何にやついてんの気味が悪いんだけど?)
私たちのことをおかずとかにしか思っていないような目つきに見えた。
(私たちを晩ご飯のつまみにしようとか考えてんのかな〜)
私だって、今夜が焼肉と知れば、ニヤニヤしながら学校から家まで帰宅しそうだもの。
そして、オークは私の予想以上の人数を見せていた。
「ありゃりゃ?なんか予想よりだいぶ多いな〜」
めんどくさそうに呟く。
私はどうすればいいの?
抱えられた状態で、この子戦おうとしちゃっているわけだけども、私死んじゃうよ?
「ん〜猫ちゃんは〜っと、まあ、大丈夫でしょ。ここで待っててね〜」
そう言って腕の力を緩める女の子。
『ありがとう!』と言いたいのは山々なのだが、おろした場所が問題である。
(誰が、オークに囲まれている場所におろせと言った?)
私の目の前……女の子の後ろに広がるのは、無数のオークたち。
完全に囲まれている。
「まあ、我らが魔神様だったら大丈夫かな〜」
魔神様って誰のこと?
ここにはオークと私こと猫と女の子しかいないというのに(ルキは草むらで見学)何を言っているのだこの子は。
(なんでもいいや……)
理解するのを諦めた私は素直に状況に向き合おう。
「それじゃいっくぞー!」
やけにテンション高めでオークの群れに突っ込んでいく。
その速度はルキさんと同じく、常人の域ではなかった。
2人とも私の目には追えないので、どちらが早いかはわからない。
だが、そこはあまり関係ないだろう。
「ふん!」
圧倒的速度で振るわれたその拳はオークの体を分解するには十分過ぎる威力だった。
ただし、うまく拳の力を制御したのか、オークの体は吹き飛んだり削れたりせずに、その場でバタっと倒れ込んでしまった。
オークの仲間は驚いたようにやられた仲間を凝視する。
だが、その後また女の子に向かって何人かが歩み出た。
おそらく彼らは仲間が気絶しただけと気付き、警戒度を少し上げる程度にとどめたのだろう。
ポリゴンとなっていないのがいい証拠である。
ただ、向かっていった勇敢なオークも彼女にすぐに薙ぎ払われた。
「手加減は難しいね〜。1匹殺しちゃったよ〜」
そう言いながら、目の前のオークが1匹ポリゴンへと変わる。
そこで、警戒度をぐんと上げ、何匹かで攻撃しようと陣形のようなものを取り始める。
そして、一部の賢いオークは自分では勝てないと判断したのか、私の方に向かって歩いていく。
(あぁ〜そうなっちゃいますよね〜)
じっくりと観察していたせいで、私は守ってもらっている弱者とでも思ったのか、1匹前に出てくる。
まあ、その通りなんですけども…。
逃げ場がない私には、それは死の宣告のようなものだった。
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