9話 新規プレーヤー
遅くなってすみません。
「帰ったら、新しく買ったゲームでもやるか…」
俺はコンビニのバイトを早く終えたいと心の底から思う。
なんで、俺がこんな面倒くさいバイトをしなくちゃいけないのだろうか?
俺はコンビニの外から見えるえみの姿を見ながら思う。
自動ドアに阻まれて途中で見えなくなってしまい、俺はため息をつく。
「どうしたの玲二?」
後ろから同じバイト仲間の小波さくらが話しかけてくる。
「あ!もしかして、またえみちゃんのこと考えてたんでしょ?」
「いや、別に…」
「ふーん」
何やらニヤニヤしながら、問うてくる。
「さっき、えみちゃんがなんか荷物取りに来てたから、ちょうど外であったんじゃないの?」
先ほどまでレジを担当してくれていたので、確信を持ってそういじってくる。
「だから、違うといっているだろ!」
自分でも顔が赤くなるのがわかる。
「そもそも、お前とえみに面識ないだろ」
「いや〜あんたがいつもえみちゃんのことばっかり言うもんだから、特徴で当てられるようになっちゃったよ…」
呆れ顔でそう言うさくらにチョップをたたき込んだ後、レジに戻ろうとする。
「いたた…もうバイトなんて無かったら今頃新作ゲームやってるのになー」
『チョップなんて喰らわずに済んだのに……』と、呟くさくらに俺は思わず聞き返してしまう。
「新作ゲームって、Eternal fantasy onlineのことか?」
新作ゲームと言う部分に反応示したことを意外そうにこちらをみる。
「そうだけど……。もしかしたらあんたもそのゲーム買ったの?」
「ああ、二つゲットしたんだ」
そう告げた後、さくらにものすごく驚かれた。
「あんた、倍率200倍のやつ二回当てたの!?」
「いや、ちょうど発売していたのをポチったら間違って二つ買ってしまったんだ…」
「どんだけ運いいんだよ……」
そんなに運がいいのだろうか?
個人的には、逆にその運とやらでバイトの金がどんどん減っていくのだから溜まったもんじゃない…。
「ってか、あんたもゲームってするんだね」
「バカにしてんのか?」
「いや、そうじゃなくてさ…。あんたっていつもオールバックのヤンキー風の髪型してんじゃない?目つきも悪い方だしさ」
「俺はヤンキーじゃないぞ?それと、ヤンキーだってゲームくらいはするだろ、ヤンキーなめんな」
「あんたそれヤンキー側の発言ってわかってんの?」
夜のバイト中だからか人が来ないため、話が盛り上がる。
そして、二人の会話はまだ続く。
「んで、話戻るけど、お前はそのゲーム誰とやるとかあるのか?」
「え?うーん…。特に決めたはいないけど……そうだ!」
何か思いついたように、顔が明るくなる。
「あんたのところの弟と一緒にやるわ!」
「おい。人の弟を誘惑するなよ…」
「違うわよ!このゲーム持ってる人が少ないから仕方なくよ!あんたとは一緒にやりたくないし…」
「おい!それはひどすぎるだろ!」
店内で大声を叫び、若干声が響く。
「うるさいわね…」
耳を塞いで、迷惑そうな顔をするさくら。
「とにかく!うちの弟には優しくしてくれよ?」
「わかってますよ〜っと」
「はあ〜わかってんのか?まあいい。俺も帰ってやろう!と、言いたいけど、流石にバイト詰めなんだよな〜」
「あんた他にもバイト入れてんの?」
「ああ。だから今日は弟……翔太にゲームをプレゼントして、今日は寝るかな」
大きなあくびをしながら、俺は伸びをする。
「まあ、なんでもいいけど…はいはい!さっさと仕事するわよ!」
「へ〜い」
頭をかきながら俺は話を終え、バイトの残り時間を終えるまで業務に戻るのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「ただいまー」
俺はドアを鍵で開け、中にいるであろう翔太に声をかける。
「あ、おかえり〜お兄ちゃん」
自分よりも高い声が返ってきて、俺は安堵しながら荷物を床に下ろす。
「今日8時までバイト入ってたの?」
「ああ」
無愛想に返事をしながらリビングの部屋から顔を覗かせる翔太の方に顔をやる。
そこにはいつも通りの顔がある。
ボサボサの髪にメガネをかけている翔太がトテトテと俺の元に近づいて、俺が床に投げやった荷物…制服などをかき集め、洗濯機に入れたり、元の場所にしまったりする。
「お兄ちゃんの世話は僕がやらないとね。お兄ちゃん、絶対片付けとか掃除とか放置とかしないだろうしね」
苦笑いを浮かべながらも、せっせと俺の荷物を運んでいく。
少しばかり、申し訳ないように感じる。
「もういいぞ。あとは俺が自分でやる」
「え、でも……」
「大丈夫だ。お前は休んでおけ」
「うん、わかった!」
荷物をとりあえず、その場にあったテーブルに置いて、そそくさとリビングの方に戻っていく。
「はあ〜、めんどくせえな……」
自分でやるっていっておきながらも、あまりやる気が起きなくて少しばかり体のだるさが増したような気がする。
「いよっし!やるか〜」
俺は片付けを始める。
♦︎♢♦︎♢♦︎
「なあ、翔太?」
「ん?何?」
ソファーに座って、スマホを眺めながらくつろいでいる翔太に話しかける。
いざとなると少し、緊張してしまう。
「プレゼントがあるんだ」
「え?」
声には『何いってるのお兄ちゃん?』といったような疑問に思う声をあげてはいるものの、その目は『なになに!?プレゼント!?』と、期待に溢れる目つきをしているのを感じ取る。
何せ、俺は翔太の兄であるのだから。
それゆえに、なかなかに気恥ずかしい気分が拭え切れないのだが……。
「これだ!」
声に気合を入れて、翔太の目の前にEternal fantasy onlineのゲームを出す。
「これって、ゲーム?」
不思議そうな声が聞こえてくる。
「不満か?」
やはり不安になって聞いてみた。
「そんなわけないじゃん!このゲーム僕すっごく欲しかったんだ!それに、何よりこれ…お兄ちゃんからのプレゼントだし…」
照れながら告げる翔太を見て、思わず『うちの弟可愛い…』と言う親バカならぬ、兄バカだと自分でも感じてしまう。
それほどまでにその顔がとても嬉しかった。
むず痒い気分はほとんどなくなり、純粋に喜んでくれていることに歓喜する。
「そうか…ならよかった」
安心した呟きが声にもれる。
それを聞いた翔太はいまだに恥ずかしそうに顔をうつむけて、ゲームと睨めっこをする。
「それで、いつやるつもりなんだ?」
「えっとね…明日から夏休みだし、その時にでもやろうかな!」
元気よく告げる翔太に『そうか』と、いつも通りの淡白な返事を返して、俺は思い出したかのように、翔太に告げる。
「そういえば、うちのバイト仲間のさくらがお前と一緒にやりたいっていっていたぞ?」
「え?さくらさんが?」
昔から、時々あって遊んでもらっていた記憶が蘇ったのであろう翔太の回答を待つ。
「うん。じゃあ一緒に遊ぼっていっておいて!」
「ああ、わかった。ついでにあいつの連絡先も教えておくか?」
「お願い」
そうして、会話を切り上げ、俺はラインを通して、翔太にさくらのラインを教えるのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎
俺は喉が乾き目を覚ます。
「ん…今は…真夜中か」
暗い部屋の中にある時計を光らせて時刻を確認したのち、俺は翔太が寝てるであろう、リビングまで足を運ぶ。
正確に言うと、リビングとくっついている居間で寝ている、だ。
俺はゆっくりと扉をあけ、忍足でお茶を注いで喉の渇きを潤す。
ついでに、翔太の寝顔でもみようと思い、居間に踏み込む。
普段一緒に寝ていないため、こう言う機会は少ないのだ。
たまには、翔太も許してくれるだろう。
廊下の電気をつけていたため、俺は翔太の寝顔をうっすらとみることができた。
そこには、大事そうにゲームの箱を抱えている翔太の姿が見えた。
箱を顔に押し付けて、そのままスースーと寝息を立てている。
(喜んでもらえたってことかな?)
それだけ確認して、俺は嬉しく思いながら、自分の部屋に戻るのだった。
なお、その時のことを翔太に告げて怒られるのは、この時の玲二に知る由もなかった…。
誤字などがあれば教えていただけると幸いです。
続きが気になると言う方はブクマ&評価をお願いします!




