表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

なんか思ってたのと違う!

作者: 頭のネジ

「悪いが、君にはウチのパーティを辞めてもらいたい。僕たちが上を目指すのに、付与術士の力は必要ない」

「まじで?」

「ああ」

 当時、駆け出しだったこのパーティに加入してから約3か月。現在俺は、リーダーの剣士に呼び出され、開口一番そう告げられた。

「困るんだけど」

 だがしかし、ハイそうですか、なんて頷けるはずもない。彼にも彼の理由があるのかも知れないが、こっちにもこっちの都合ってものがある。

 俺は、クビを切られるこの状況を打開するために、頭をひねった。

 ここは、剣士の自室。俺たち二人は、机に向かい合って座り、当然周囲には誰もいない……!

「他のメンバーは、なんて言ってるんだよ?」

 そう、この場に居るのは俺たち二人だけ。パーティの一員が、クビを切られそうなっているにも関わらず、だ。

 つまり、剣士がリーダーの権限を濫用し、他のメンバーに隠して俺を追放しようとしている可能性が──

「この場には呼んでないが、当然、皆にもこの話しはしてある」

「……あ、そう」

 無かった。現実は残酷だ。それでも、出来たら呼んでおいて欲しかった。説得して、誰かを味方につける事が出来たかもしれないじゃん?

「そういう事だから、これ、退職金」

 剣士は何処からか袋を取り出すと、それを机に置いた。

 しかし、まだ諦めるには早いはずだ。

 俺は、机に置かれたそこそこ重たそうな袋には手を伸ばさず、口を開いた。

「理由を聞かせてほしい。俺が辞めなくちゃいけない理由を」

「だから、最初に言っただろ?僕たちが──」

右手を挙げて、言葉を遮る。

「聞き方が悪かった。俺が必要ないってのは聞いた。だから、そう思ったきっかけを教えてくれ。俺たちは上手くやって来ただろ」

 実際、俺が加入したのは、彼らが駆け出しの頃だったが、この3ヶ月で2度の昇級を果たしている。メンバーとギクシャクする、なんて事も無かったはずだ。

 故に、いきなりクビを切られるには、俺の知らないきっかけがあるのだと思った。

 剣士は、少し考えてから言った。

「冒険者の先輩から助言を受けた。一流を目指すなら付与術士とは居ない方がいい、と」

 おっと、3ヶ月前にも聞いたことがある気がする。が、続きがあるようなので黙って耳を傾けた。

「一理あると、僕も思った。実際、君は戦闘に参加せず、いつも後ろから見てるだけだ。居なくても変わらない」

 バフをかけて、メンバーの全能力を二割ほど底上げしてるんだけどね。そんな風に思われていたとは、ショックである。

「つまり、役に立たないから辞めろ、と?」

「……ああ」

「ふーん、そっかそっか」

 ここまで一緒にやって来た仲間を相手に、随分と酷いことを言われたが、俺はそこに光明を見出した。

 何故なら、『役立たずだから辞めさせる』という事は、『役に立つなら辞めずにすむ』という事だからだ。実に単純でいいじゃないか。

 そして、役に立っている事を証明するのは、非常に簡単だ。

「一日だ」

 指を一本立てて告げる。

「一日だけ、クビにするのを待ってくれ。そして明日、俺を抜いた四人で依頼を受けてほしい。そしたら分かるはずだ」

 剣士は、顎に手を当てて考える素振りを見せた。もう一押しだ。

「少なくとも、その後じゃないと俺は、その退職金を受け取れない」

「……はぁ、わかったよ」

 結局、彼は溜め息を吐きながらも、俺の要求を呑み、この場は解散となった。

 ゲヘヘ、明日が楽しみでゲス。




 翌日、俺はギルドに併設された酒場に来ていた。

 理由は当然、四人が受けた依頼の確認と、彼らが帰って来た時に出迎えるためだ。

 さて、依頼についてだが、その内容は『特定の魔物の討伐』。いつもであれば、傷一つ受ける事なく達成される、そんな依頼だ。

 だが、今回はそう簡単にはいかない。何故なら俺のバフを受けられないから。

 彼らは優秀だ。だから、失敗する事は無いだろう。

 でも、だからこそ、たった二割のバフだとしても、それなりに大きな差が出るはずだ。彼らはきっと、苦戦する。


 昼が過ぎ、知り合いから2度の軽食と、5杯のジュースを奢ってもらった頃。ついに四人が依頼から帰ってきた。

 彼らは、受付で依頼達成の報告をした後、報酬を受け取ると、俺が座る机の向かい側に四人で並んで座った。

「……」

 どうだった?なんて、分かりきった事はわざわざ聞かない。そんなの、生傷と汚れの目立つ四人の姿を見れば、容易に想像できる。

 故に、俺が聞くべきは、その後の事。

「それで、俺のクビの件、考え直す気にはなってくれたか?」

 剣士は頬を掻きながら苦笑いを浮かべると、ばつが悪そうに口を開いた。

「昨日の事は謝るよ。悪かった。これまでずっと、君に頼ってたみたいだ」

「じゃあクビはッ」

「でも、だからこそ、僕たちは君と別れなければいけないと確信した」

「……は?」

 さっきまでとは打って変わって、強い意志を感じさせる表情で剣士は言った。

「今回の事で、今の自分の実力をちゃんと理解できた。バフで上がった能力が、借り物の力でしかないって事も」

「冗談だろ?役に立ってるって証明したはずだ。俺が居た方が強くなれるはずだ!」

「うん、だからこそだよ。先輩が言ってた言葉の意味が、やっと分かった気がするんだ」

 くそっ、これじゃあ3ヶ月前と同じじゃないか。

 こいつと話しても埒が明かないと判断した俺は、他のメンバーの説得にかかろうと視線を向けた。

 しかし、

「……悪りぃな、アニキ。俺も、もっと強くなりてぇんだ」

戦士がそう言い

「多少報酬が減っても、四人の方が一人当たりの利益は増えますし」

僧侶はそう言った。

 魔法使いに関しては、何も言わずに視線を逸らされた。

 取りつく島もないとはこの事か。そう思った。

 昨日は、『役立たずだから辞めろ』と言い、今日は、『役に立つから辞めろ』と言う。

 非常に残念だが、つまりはきっと、そう言う事なんだろう。

「分かったよ。辞めるよ」

「納得してくれたみたいで良かった」

 剣士は安堵したようにそう言うが、別に納得して辞める訳ではない。ただ、この期に及んで駄々をこねるほど、子供でもないだけだ。

 それから彼は、机に袋を二つ置いた。昨日見たものと、多分さっき受け取っていた報酬だ。

「これまでの礼と、昨日の謝罪を兼ねて、少しだけ色をつけた。受け取ってくれ」

 昨日の袋は言わずもがな、今日の報酬も決して安い金額では無いだろう。

「どーも、ありがたく頂くよ」

 でも、こうなった以上、貰えるものは遠慮なく貰うさ。

「何かあったら遠慮なく頼ってくれ。必ず助けになる」

 例えば今ここで、俺をクビにしないでくれと頼んだら、叶えてくれるのだろうか?そんな事を思う。

「それじゃ」

 頭を下げてから去っていく四人の背中を見て、小さく溜め息を吐いた。

 あ〜あ、3ヶ月ぶり10度目のクビである。




「はぁぁぁ……ボッチだぁ……」

 家に帰った俺は、誰もいないのをいい事に、馬鹿みたいに大きな溜め息を吐いた。

『一匹狼』『孤高のソロプレイヤー』『ワンマンアーミー』格好つけた言い方は沢山ある。

 だがしかし、そのどれもが、詰まる所がそう、『ボッチ』を表す。

 世の中には、ボッチでもワンマンアーミー(無双)を始める付与術士もいるらしいが、残念ながら俺には無理だ。

 俺の全能力を二割増しにしたところで、魔力と素早さを除けば平均以下だし、そこに『複数人の味方の能力を底上げする』、と言う付与術士の強みを捨てる理由も見つけられない。そもそも付与術士になったのは、敵を相手にバカスカ攻撃をしたりされたりするのが怖いからだし。

 故に、俺が冒険者を続けようとするならば、次にやるべき事は。

「早いとこ次の宿主を探さないと」

 そう、就職先探しである。いつまでも落ち込んではいられない。

 では次に、どうやって俺の加入を受け入れるパーティを探すか?だが、安心して欲しい。もちろん策がある。

 なんてったって、俺はこれまで15のパーティを渡り歩いた男だ。どんなパーティを狙えば安全かつ迅速に、パーティに加入が出来るかも知っている。ちなみに、クビにされた回数との差分は、自分で辞めたり、そのパーティが解散したり、まぁ、色々だ。

 で、その狙うパーティの条件だが、ズバリ『駆け出しで3〜4人の冒険者パーティ』これだけだ。

 相手からすれば、そこそこ冒険者歴の長い俺の知識には、やっぱりそこそこの価値があるだろう。そして、俺にとっても駆け出しが相手であれば、レベル差があるので、暴力に訴えられる事があっても抵抗出来る。ウィンウィンの関係ってやつだ。多分。

 もっとも、すぐに能力で追い付かれるので、それまでに信頼関係を築いておかないといけないけれど。

 さらに、その程度の人数であれば、今回の退職金と貯金を少し使って、手土産に装備を贈る事も出来る。そうすれば恩も売れるし、手っ取り早く居場所を確保出来るだろう。

 ついでに、俺のバフは装備の能力補正にも効果があるから、バフ効率も上がり、結果的に俺の安全とパーティの生存率も上がる。まさに、一石二鳥。

 俺はここ2年、この方法でパーティに加入してきたのだ!最後はクビにされてるけどね!

 とにかく、やる事が決まった。今日のところはさっさと寝て、明日にでもギルドに行き、顔馴染みの受付嬢さんに相談すれば、きっとすぐに見つかるだろう。

「あ、そうだ。どうせなら女の子のパーティがいいな。うん」

 条件追加だ。

 どうせ最後にクビを切られるなら、野郎より女の子がいい。『別にアンタなんか居なくても一流になれるんだからね!』みたいな。

 そんな馬鹿な事を考えながら、眠りにつくのだった。




〜3ヶ月後〜


「言いにくいのですが、貴方にはこのパーティを辞めてもらいたいのです」

「まじで?」

ふりだしに戻る

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 活動報告を読みました。なんかその設定や説明文の方が本編よりずっと面白いと思ってしまいます。 [一言] 活動報告で説明するより小説に活かして行く方が得ですよ。設定は魅力的で尚更読者に読ま…
[一言] いっそ最初から三カ月契約にした方が安定しそうだな クビじゃなく契約満了な方が人聞きも悪くないし
[一言] 何度やっても救いがないな?思い切って、職種をかえるべきじゃないかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ